悪役令嬢ですが、ヒロインに助けを求められています!

しーしび

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プリンシパさんのお話を一通り聞きましたが、理解はできていません。
私が想像力が乏しいせいなのか、彼女の想像力が逞しすぎるのか…
それでも彼女の話す事は、御伽噺や神話の様なのに妙に現実味があって、私を不思議な気分にさせました。

「…その『乙女ゲーム』とやらが、この世界だと? 」

落ち着いたプリンシパさんに問いかけると、プリンシパさんは小動物の様に黙ってコクコクと頷きます。
ついさっきまで恨もうとした人物なのに、泣きながら話す姿に庇護欲が唆られてしまい、ひとまず彼女を理解しないと、という思いに駆られていました。

「それで、殿下やあなたと噂になっている殿方がその『攻略対象』とやらなのですね?」
「はい」

すっかり落ち着いたプリンシパさんは本来の愛らしい容姿を取り戻しています。
私も恐怖から解放されて安心しました。

彼女の話では、ここは彼女が前世で楽しんでいた『乙女ゲーム』の世界にそっくりな様で、その『乙女ゲーム』なるものはヒロイン視点で様々な殿方と交流をするお遊びだそうです。
女性が遊びで様々な方と無闇に交流する事は褒められたことではないと思うのですが、彼女の世界では人気なのだとか…
それに『好感度』だなんて、お友達ではなく完全に下心丸見えのもので、多くの殿方とお付き合いをする事になる『逆ハーレム』なる状態もあるそうです。
なかなか低俗な考えでお遊びをなさっていたそうで。
もう少しご自分を大切にされた方がよろしいかと思います。

え? そうではない?
『ゲーム』なるものはお遊びだけど現実でするものではないと?
ある程度の筋書きがあって選択肢の中から選ぶ本の様なもの…ですか?
なかなか理解するのは難しいですね。
些か信じ難いお話ですが、それでは話が進まないから受け入れてくれとプリンシパさんに押されてしまいました。
嘘をついている様には見えませんし…一先ず信じてみることとします。

そして、その『ゲーム』の『ヒロイン』がプリンシパさんで、交流を重ねる『攻略対象』が、彼女と噂になっている殿方たちだそうです。
その中には勿論、殿下も含まれていました。

改めて聞いても気分の良いものではありませんね。

私はそんな彼女の恋を邪魔する『悪役令嬢』なのだそうです。
完璧無欠の悪役令嬢で、氷の様に冷たい人間、殿下を奪われた腹いせにヒロインを虐めたり、策略で陥れようとする様です。
少し懲らしめてやろうという思いが浮かんでいた私はそれを完全に否定できません。
でも『ヒロイン』のプリンシパさんも褒められた行動ではありませんよ?
それに完全無欠の氷の人間ですか…
表情には出ていませんがかなり心にくるものがあります。
そう思われているのは薄々分かっていましたが、言葉にされると…

「…こんな話してごめんなさい」

プリンシパさんはしょぼんと悲しげな顔をしてこちらを覗き込みます。
私が傷つたのではないかと心配してくれている様です。
根はいい方なのかもしれません。
私は腹の下の方にグッと力を入れて、プリンシパさんと向き合うことにしました。
プリンシパさんの話は理解しきれませんが、私が彼女に持っていた疚しい気持ちに罪悪感があるのです。

「それで、私に助けて欲しい事とは? 」

私は改めて彼女に尋ねました。
下手をすれば自分を陥れるかもしれない人間なのに、わざわざ私に助けを求めるだなんて彼女がどれだけ追い詰められているかの証拠です。
最初は揶揄っているだけかと思っていましたが、今では助けになるなら力を貸したいと純粋に思います。
そんな私にプリンシパさんはまるで救世主を見るかの様な目を向けてきます。
少し眩しすぎるのでやめて下さい。

「この状況をどうにかしたいのです…何をやってもその攻略対象の好感度が上がる一方で…私、恐くて…」

またプリンシパさんは震え始めました。
何をそこまで怖がるのでしょうか?
あれだけ人気な殿方達に言い寄られているのです。
わざわざその気にさせるのは褒められたことではありませんが、状況的には多くの女性が憧れるものです。

「何が恐いのですか? 」

私は理解ができなくてプリンシパさんに問いかけました。
彼女はゴクリと唾を飲み込みます。
私にも緊張が移りそうですいつの間にか手を握り締めていました。

「あのキラキラした顔面が恐いです…綺麗すぎて…全然落ち着きません…髪とか目とかの色もありえないし、何なら肌色が保たれているのが不思議なくらいです…」

ピンクの髪と水色の目の貴方がいいますか?

「全員、キラキラしすぎてそれで笑ってくるから視力が奪われそうで…ギラギラして私に何か期待してくる感じも恐いです…何より婚約者いる方もいるのに…純粋じゃない人って嫌だし…避けても避けてやってくるし…どうせ攻められるならもっと安心できる日本人顔がいい」

攻められる…彼女は戦っているのでしょうか?
『日本』というのは彼女の前世の国だそうです。
なかなか平和でいい国だと彼女はいいますが、女の人が複数の殿方と触れ合うのを許す国はどうなのかと思います。

「貴方の言うお話でしたら、誰ともくっつかない様に嫌われる選択をすればいいだけでは? 」

私の素朴な疑問をプリンシパさんに言うと、彼女の顔はすぐに泣き顔に戻っていきます。
あ、あぁーあ…
あっという間に様々な液体が彼女の顔に溢れてきています。
彼女の体の中の水が枯れる事ないでしょうか?

「その選択忘れちゃったんですぅうう、とにかくひどい言葉を言えばいいかと思っても…逆効果でキラキラギラギラした光源が近づいてきて…ベタベタと…また死ぬんじゃないかって…あの世にいく光が迫ってくるかの様で恐ろしくて…」

この方、お馬鹿さんの様です。
それより綺麗に囲まれて恐いって贅沢な悩みの様にも聞こえます。
私なんて普通の方にもそんな事された事ありません。
いつも遠巻きで…そっか、氷の心を持つ人間ですものね。
誰も私に近づこうなんて思いませんよね。
いつでも人に囲まれているプリンシパさんが羨ましかったのかもしれません。
そう言えば、家や王妃様以外とこうやって親密に話したことなんてありませんでした。
お友達だなんていませんでしたし…
誰かに頼られている感じがして少し…いいものですね。

「まず、この学校に来た時なんですけど…」

彼女は私のハンカチで鼻をかみながらまた話を続けます。
そのハンカチ絶対に捨てて下さいね。
洗うのも洗う方に申し訳ないので。
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