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第一話 ある老人の死
その4
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「──お前たちは時間経過を考えてないんだ。たしかにまだ不足が必要だが、今すぐではない。そこがポイントなんだ」
「お前の言いぐさだと、時が経てば資金ができるようだな」
クロの言葉にミドウはため息をしたあと、話しはじめる。
「割田内外の資産が土地と絵画しかないとわかったオレは、弘美さんの成年後見人になることをまず考えた。あの日──内外の家に入り込んだ日にそのまま入院した。理由は、内外の遺体引き取り人になるためだ」
「なんだ、ちゃんと目的があったのか」
「ああ。知ってるだろうけど霊安室の側に、葬儀屋の控室がある。オレはそこに行き、内外の葬儀の手続きをした。といっても参列者もいないから簡素なもので、すぐ火葬して遺骨を菩提寺に預けた。
その記録と宮裏先生の診断書そして弘美さんの面談の末、家庭裁判所から指定をもらったというわけだ」
「それの目的が──」
「──現金を手に入れて介護施設に入居させるためだ。
そしてそれは上手くいった。しかし資産を減らすというデメリットが残った。これをどうしようと考えたところ、宮裏先生の絵画趣味に助けてもらおうと思いついたのさ」
「こっちはいい迷惑ですけどね」
憤慨する宮裏にミドウは肩をすくめる。
「安く買ってもらい資産運用に使ってもらうまでは考えたが、その先が思いつかなかった。だが、宮裏先生の人脈のおかげで予想外の結果になったのさ」
「ホントにもう……冷や汗かいたわよ。魁山先生にお願いごとをするなんて」
「魁山先生って、森友魁山のことか」
ぽつりとクロが訊いた瞬間だった。
「先生と呼びなさいっ!!」
宮裏が今まで聞いたことのないテンションでクロを嗜め、マキもクロも吃驚する。それをみてミドウはにやにやと笑う。
「気をつけたほうがいいぞぉクロ。宮裏先生は[魁山チルドレン]のひとりだからな」
──森友魁山と魁山チルドレン、ハコ長が言ってたアレか──
マキは交番勤務時代のハコ長からレクチャーされた注意を思い出した……。
※ ※ ※ ※ ※
森友魁山、本名森友修一郎。森友財団の創始者にして実業家、政治家、社会奉仕活動家など。
2度目の世界大戦が終わり戦地から復員した修一郎は、実業家として財を成し、空襲で焼け野原となった壱ノ宮市の復興に尽力する。
市議員として出馬、トップ当選、そして市長となったあと国政に進み、衆議院、参議院と足跡を残す。
その頃培った人脈と金脈により黒幕と呼ばれる。
政治家を引退したあとは、壱ノ宮市に戻り森友財団を創設。文化財保護や人材育成に力を入れつつ、自らも芸術家として活動。魁山と号する。
魁山チルドレン
森友魁山の私塾[カロイト学園]の卒業生。
超人的な人生を送った魁山のノウハウを受け継ぐべき目的で、優秀な人材を多数輩出している。
彼等彼女等は各々の分野で目覚ましい活躍をしており、森友魁山の子供たち、魁山チルドレンと呼ばれている。
※ ※ ※ ※ ※
──そんなわけで魁山に弓引く者がいた場合、魁山本人はともかくチルドレンが報復行為を行うから滅多なことを言うなよと、レクチャーされたのを思い出した。
「魁山先生は、地元の文化芸術活動されてる方々を応援しておられますので、割田内外の奥様の実情をお伝えしたところ、作品を全部買ってそれを入居費にあてよと仰ってくれました。
ただ、それを表立ってすると売名行為だの私も私もと後に続く輩がいるかもしれないので、私が購入したことにして秘密裏にやっているのです」
宮裏の言葉にクロもマキも戸惑う。まさか森友魁山が絡んでくるとは……。
市内はもちろん、署でも魁山は触れてはならたい者という暗黙の空気がある。今のミドウに関わるとそこに触れるかもしれないのだ。
クロはマキをちらりと見たあと立ち上がる。
「マキくん、帰るとしよう。宮裏先生、ご迷惑をおかけしました。画商に入金の確認をしたらこの件から手を引きます」
「ええ。そうしてくださると助かります」
扉の前に立っていた宮裏は壁側に移り、もたれかかりながら腕と脚を組む。拒否の姿勢だ、このままここにいるのは得策ではないとマキも認めて立ち上がり、クロのあとに続く。
部屋から出る手前でクロは足を止め、思い出したようにミドウに問いかける。
「そういやミドウ、あの喫茶店の備品は昔弘美さんがやってた喫茶店のやつなのか」
「喫茶店て……ああ、あそこのね。そうだぜ」
「掛かってた絵もか」
「そうだよ」
「そうか」
出ると思ったら立ち話をはじめたので宮裏は苛立つ。
「はやくお帰り願いませんかしら。それとミドウさん、ここにはもう立ち入らないでください。明日退院するときに私物も全部持ち帰って」
「ええ? オレの部屋なのにぃ」
「病院の備品室です。立ち入り禁止」
宮裏の剣幕にマキはクロの背中を押し、早く出ましょと合図する。ふたりはそそくさと部屋を出て病院を出ると、画商のところに向かい宮裏から入金があったかを確かめる。
ネット口座を見せてもらい本当なのを知ると、ここまでだなとタマとカドマに捜査中止を連絡し、署に集まると詳細を説明する。
「森友魁山が絡むんなら仕方ねぇか」
「そうだな。実際に事件でもなかったし。それにしても……」
タマに相槌をうちながらもカドマも、いや、黒田班全員がなんとも言えない気持ちになっていた……。
「お前の言いぐさだと、時が経てば資金ができるようだな」
クロの言葉にミドウはため息をしたあと、話しはじめる。
「割田内外の資産が土地と絵画しかないとわかったオレは、弘美さんの成年後見人になることをまず考えた。あの日──内外の家に入り込んだ日にそのまま入院した。理由は、内外の遺体引き取り人になるためだ」
「なんだ、ちゃんと目的があったのか」
「ああ。知ってるだろうけど霊安室の側に、葬儀屋の控室がある。オレはそこに行き、内外の葬儀の手続きをした。といっても参列者もいないから簡素なもので、すぐ火葬して遺骨を菩提寺に預けた。
その記録と宮裏先生の診断書そして弘美さんの面談の末、家庭裁判所から指定をもらったというわけだ」
「それの目的が──」
「──現金を手に入れて介護施設に入居させるためだ。
そしてそれは上手くいった。しかし資産を減らすというデメリットが残った。これをどうしようと考えたところ、宮裏先生の絵画趣味に助けてもらおうと思いついたのさ」
「こっちはいい迷惑ですけどね」
憤慨する宮裏にミドウは肩をすくめる。
「安く買ってもらい資産運用に使ってもらうまでは考えたが、その先が思いつかなかった。だが、宮裏先生の人脈のおかげで予想外の結果になったのさ」
「ホントにもう……冷や汗かいたわよ。魁山先生にお願いごとをするなんて」
「魁山先生って、森友魁山のことか」
ぽつりとクロが訊いた瞬間だった。
「先生と呼びなさいっ!!」
宮裏が今まで聞いたことのないテンションでクロを嗜め、マキもクロも吃驚する。それをみてミドウはにやにやと笑う。
「気をつけたほうがいいぞぉクロ。宮裏先生は[魁山チルドレン]のひとりだからな」
──森友魁山と魁山チルドレン、ハコ長が言ってたアレか──
マキは交番勤務時代のハコ長からレクチャーされた注意を思い出した……。
※ ※ ※ ※ ※
森友魁山、本名森友修一郎。森友財団の創始者にして実業家、政治家、社会奉仕活動家など。
2度目の世界大戦が終わり戦地から復員した修一郎は、実業家として財を成し、空襲で焼け野原となった壱ノ宮市の復興に尽力する。
市議員として出馬、トップ当選、そして市長となったあと国政に進み、衆議院、参議院と足跡を残す。
その頃培った人脈と金脈により黒幕と呼ばれる。
政治家を引退したあとは、壱ノ宮市に戻り森友財団を創設。文化財保護や人材育成に力を入れつつ、自らも芸術家として活動。魁山と号する。
魁山チルドレン
森友魁山の私塾[カロイト学園]の卒業生。
超人的な人生を送った魁山のノウハウを受け継ぐべき目的で、優秀な人材を多数輩出している。
彼等彼女等は各々の分野で目覚ましい活躍をしており、森友魁山の子供たち、魁山チルドレンと呼ばれている。
※ ※ ※ ※ ※
──そんなわけで魁山に弓引く者がいた場合、魁山本人はともかくチルドレンが報復行為を行うから滅多なことを言うなよと、レクチャーされたのを思い出した。
「魁山先生は、地元の文化芸術活動されてる方々を応援しておられますので、割田内外の奥様の実情をお伝えしたところ、作品を全部買ってそれを入居費にあてよと仰ってくれました。
ただ、それを表立ってすると売名行為だの私も私もと後に続く輩がいるかもしれないので、私が購入したことにして秘密裏にやっているのです」
宮裏の言葉にクロもマキも戸惑う。まさか森友魁山が絡んでくるとは……。
市内はもちろん、署でも魁山は触れてはならたい者という暗黙の空気がある。今のミドウに関わるとそこに触れるかもしれないのだ。
クロはマキをちらりと見たあと立ち上がる。
「マキくん、帰るとしよう。宮裏先生、ご迷惑をおかけしました。画商に入金の確認をしたらこの件から手を引きます」
「ええ。そうしてくださると助かります」
扉の前に立っていた宮裏は壁側に移り、もたれかかりながら腕と脚を組む。拒否の姿勢だ、このままここにいるのは得策ではないとマキも認めて立ち上がり、クロのあとに続く。
部屋から出る手前でクロは足を止め、思い出したようにミドウに問いかける。
「そういやミドウ、あの喫茶店の備品は昔弘美さんがやってた喫茶店のやつなのか」
「喫茶店て……ああ、あそこのね。そうだぜ」
「掛かってた絵もか」
「そうだよ」
「そうか」
出ると思ったら立ち話をはじめたので宮裏は苛立つ。
「はやくお帰り願いませんかしら。それとミドウさん、ここにはもう立ち入らないでください。明日退院するときに私物も全部持ち帰って」
「ええ? オレの部屋なのにぃ」
「病院の備品室です。立ち入り禁止」
宮裏の剣幕にマキはクロの背中を押し、早く出ましょと合図する。ふたりはそそくさと部屋を出て病院を出ると、画商のところに向かい宮裏から入金があったかを確かめる。
ネット口座を見せてもらい本当なのを知ると、ここまでだなとタマとカドマに捜査中止を連絡し、署に集まると詳細を説明する。
「森友魁山が絡むんなら仕方ねぇか」
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