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第一話 ある老人の死
その3
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弘美さんが完全介護の施設に入るため今すぐ現金が必要でありかつ相続税を取られないために価値を下げる。たしかに目先は上手くいくようだが……。
「その後はどうするんだ。あくまでも仮定だが、弘美さんが平均寿命どおり生きる場合あと13年もあるんだぞ、どうやって足りない分を捻出する気だ」
試算では総額7800万ほど必要だ。今の話からすると5300万も足りなくなる。
「さぁてね。なーんとかなーるんじゃなぁい」
急に他人事みたいに言うので、マキはイラッとする。
「無責任です。途中で放り出す気ですね、そして弘美さんの財産を取り上げて自分のものにする。そういう計画なんでしょう」
「そーんなことしないよー。もちろん正規の報酬はいただくけどさ」
「でも足りない分はどうするか考えてないんでしょ」
「そーんなことないってば。考えてるし、もうやってる。たーだまだ、結果が出てないだけさ」
「どういうことです。説明してくださいよ」
マキの詰問にミドウがどう言おうか考えてると、ノックの音がし返事をまたず入ってきた。宮裏先生だった。
「どうしたの、何かもめ事なの」
その姿をみた途端、挨拶もせずにマキは質問する。
「宮裏先生、ミドウさんから絵を買ったって本当ですか」
「え? ああ、そうよ。お得だったから買わせてもらったわ。ミドウさん、画商に振り込んでおいたから確認しておいてね」
「ありがと。それとクロ、さっきの画商との[取り引き]の話だが理由を教えてやる。画商が弘美さんに好意を持ってるからさ」
「ん? 不倫関係ということか? 親子くらい歳の差があるようにみえたが」
「違う違う。ただ単純に割田内外が嫌いなだけさ。まああの性格だからしょうがない、だからいつもひどい目にあってる弘美さんに同情していたということ。だから協力してくれたのさ」
とはいえ会ったばかりのミドウにいきなり協力するとは思えない。が、ミドウという人間が異常な[人たらし]なのを思い出し、クロは苦々しくも納得した。
その場の空気を察したのか宮裏先生はミドウをちらと見る。
「ミドウさん、後ろ暗いことないからっていうので買ったのよ。もめ事ならクーリングオフさせてもらうわ」
「ちがうちがう、後ろ暗いことなんてないから。ったく、こういう流れにならないようにお前たちに隠れてやってたのにぃ。クロ、これ以上関わるな。脱税なんかしない、これは節税だ、台無しにしたら困るのはオレじゃないんだぞ」
その言葉を聞いてマキは怯む。ミドウは逮捕したい、だが藪をつつけば弘美さんのこれからの生活に影を差すことになる。黙ったマキの代わりにクロがこたえる。
「ミドウ、俺たちは警察官だ。法を犯すものを捕まえるのが仕事だ。情に流されて見逃してしまえば世の中の秩序が乱れる。嫌われても恨まれてもそれをやるんだよ」
「だろうな。お前はそういうヤツだよ。──で、オレは法を犯したのかい」
「いいや──宮裏先生が買ったという事実がある以上、弘美さんの財産は変わったんだ。脱税のしようがないからな」
「だろ。ならこの話は終わりだ」
「マキくんはどうだ? なにか言いたいことはあるか」
なんとなく脅威ポジションになってしまったマキはどうしようかと困る。その空気を変えるためかクロが今度は宮裏先生に話を振った。
「宮裏先生は絵画を集めるのが趣味なんですか」
「聴き取り調査ですか」
「雑談です」
「……ええ。特定の画家を集めているのではなく、ジャンルを問わず気に入ったものを集めています」
「割田内外は気に入ったということですか」
クロは本当に雑談のつもりだった。マキをアシストするために場の空気を変えようとしただけだった。
だが鋭い目つきと醸し出す反社のような雰囲気は、宮裏にとっては何か感づかれて追求されてるように感じてしまう。
「べつにそういう訳じゃ……あーもう、ミドウさん、話してもいいでしょ、痛くもない腹を探られるのはごめんだわ」
宮裏は面白くなさそうにミドウに言うと、ミドウは流れを読んで、いつものわーったよの仕草をして、どうぞと言う。
「べつに法を犯してるわけじゃないけど、あまり言いふらしてほしくないから内緒にしてるの。
まず私は割田内外は趣味じゃないです。それでも買ったのは、彼のファンの知り合いがいるからです」
「というと……転売目的ということですか」
「資産運用目的です。絵画も値段がバカになりませんからね。同好の士と情報交換しながら物々交換したり売買してます」
困ってる宮裏にミドウが助け舟をだす。
「そこから先はオレが言うよ。その代わりもうこの件には関わるな、警察がうろちょろすると計画がパーになりかねんからな」
「法に触れず納得できる話ならな」
「ったく、融通の効かねぇところは変わらねぇなぁ。
すべては田中弘美さんのためだ。完全介護の施設に入居のため、目先の現金が必要なのは話したな。そしてそれだけでは今後足りなくなるというのがマキちゃんの指摘だったな。たしかにそうだ、だがな──」
「その後はどうするんだ。あくまでも仮定だが、弘美さんが平均寿命どおり生きる場合あと13年もあるんだぞ、どうやって足りない分を捻出する気だ」
試算では総額7800万ほど必要だ。今の話からすると5300万も足りなくなる。
「さぁてね。なーんとかなーるんじゃなぁい」
急に他人事みたいに言うので、マキはイラッとする。
「無責任です。途中で放り出す気ですね、そして弘美さんの財産を取り上げて自分のものにする。そういう計画なんでしょう」
「そーんなことしないよー。もちろん正規の報酬はいただくけどさ」
「でも足りない分はどうするか考えてないんでしょ」
「そーんなことないってば。考えてるし、もうやってる。たーだまだ、結果が出てないだけさ」
「どういうことです。説明してくださいよ」
マキの詰問にミドウがどう言おうか考えてると、ノックの音がし返事をまたず入ってきた。宮裏先生だった。
「どうしたの、何かもめ事なの」
その姿をみた途端、挨拶もせずにマキは質問する。
「宮裏先生、ミドウさんから絵を買ったって本当ですか」
「え? ああ、そうよ。お得だったから買わせてもらったわ。ミドウさん、画商に振り込んでおいたから確認しておいてね」
「ありがと。それとクロ、さっきの画商との[取り引き]の話だが理由を教えてやる。画商が弘美さんに好意を持ってるからさ」
「ん? 不倫関係ということか? 親子くらい歳の差があるようにみえたが」
「違う違う。ただ単純に割田内外が嫌いなだけさ。まああの性格だからしょうがない、だからいつもひどい目にあってる弘美さんに同情していたということ。だから協力してくれたのさ」
とはいえ会ったばかりのミドウにいきなり協力するとは思えない。が、ミドウという人間が異常な[人たらし]なのを思い出し、クロは苦々しくも納得した。
その場の空気を察したのか宮裏先生はミドウをちらと見る。
「ミドウさん、後ろ暗いことないからっていうので買ったのよ。もめ事ならクーリングオフさせてもらうわ」
「ちがうちがう、後ろ暗いことなんてないから。ったく、こういう流れにならないようにお前たちに隠れてやってたのにぃ。クロ、これ以上関わるな。脱税なんかしない、これは節税だ、台無しにしたら困るのはオレじゃないんだぞ」
その言葉を聞いてマキは怯む。ミドウは逮捕したい、だが藪をつつけば弘美さんのこれからの生活に影を差すことになる。黙ったマキの代わりにクロがこたえる。
「ミドウ、俺たちは警察官だ。法を犯すものを捕まえるのが仕事だ。情に流されて見逃してしまえば世の中の秩序が乱れる。嫌われても恨まれてもそれをやるんだよ」
「だろうな。お前はそういうヤツだよ。──で、オレは法を犯したのかい」
「いいや──宮裏先生が買ったという事実がある以上、弘美さんの財産は変わったんだ。脱税のしようがないからな」
「だろ。ならこの話は終わりだ」
「マキくんはどうだ? なにか言いたいことはあるか」
なんとなく脅威ポジションになってしまったマキはどうしようかと困る。その空気を変えるためかクロが今度は宮裏先生に話を振った。
「宮裏先生は絵画を集めるのが趣味なんですか」
「聴き取り調査ですか」
「雑談です」
「……ええ。特定の画家を集めているのではなく、ジャンルを問わず気に入ったものを集めています」
「割田内外は気に入ったということですか」
クロは本当に雑談のつもりだった。マキをアシストするために場の空気を変えようとしただけだった。
だが鋭い目つきと醸し出す反社のような雰囲気は、宮裏にとっては何か感づかれて追求されてるように感じてしまう。
「べつにそういう訳じゃ……あーもう、ミドウさん、話してもいいでしょ、痛くもない腹を探られるのはごめんだわ」
宮裏は面白くなさそうにミドウに言うと、ミドウは流れを読んで、いつものわーったよの仕草をして、どうぞと言う。
「べつに法を犯してるわけじゃないけど、あまり言いふらしてほしくないから内緒にしてるの。
まず私は割田内外は趣味じゃないです。それでも買ったのは、彼のファンの知り合いがいるからです」
「というと……転売目的ということですか」
「資産運用目的です。絵画も値段がバカになりませんからね。同好の士と情報交換しながら物々交換したり売買してます」
困ってる宮裏にミドウが助け舟をだす。
「そこから先はオレが言うよ。その代わりもうこの件には関わるな、警察がうろちょろすると計画がパーになりかねんからな」
「法に触れず納得できる話ならな」
「ったく、融通の効かねぇところは変わらねぇなぁ。
すべては田中弘美さんのためだ。完全介護の施設に入居のため、目先の現金が必要なのは話したな。そしてそれだけでは今後足りなくなるというのがマキちゃんの指摘だったな。たしかにそうだ、だがな──」
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