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第一話 ある老人の死
その8
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「やっぱり画商が内外の画材道具を持ってましたか」
「ああ。弘美さんは認知症と言っていいくらい判断力がなくなっていたが、画家割田内外の妻としてならしっかりして意思の疎通ができる。画商と会うときは内外の妻としてだから普通に話せてたんだろう」
ミドウとカドマが弘美さんと話せたことを思い出し、無くなった画材道具は弘美さんを言いくるめて画商が持っていったのではないかと推理したのだ。
「内外は寝たきりになる前から手が震えて道具を持てなくなってた。画商はそれをみて内外は画家としてもう終わりだと判断したそうだ」
「それでどうして画材道具を持っていったんです」
「絵を売るためだそうだ。絵の値段は下げられないから習作や画材道具を抱き合わせで売ってお得感を出そうとしたと」
「窃盗ということですか」
「いや、ちゃんと弘美さんから許可をもらったと言ってるが……確認が取れてない以上限りなく黒に近いグレーってところかな」
いまの弘美さんから証言をとれるとは思えないし、とれたとしても普段の状態から証言能力は低いだろう。
「とりあえず[画商がミドウさんに会った]こと、[画材の行方がわかった]ことを班長に伝えてくれ。僕はこれから弘美さんのところに行く」
弘美の居場所は仁勇会という老人ホームだと伝えてマキは通話を切る。
「宮裏先生の趣味が絵画とは意外だったなぁ。そんな繋がりがあったとは……」
マキがつぶやくと突然、クロが再起動ふる。
「そういうことか。相続税だ」
「え? え? どういうことです」
「マキくん、調べてくれ。仁勇会の入居費用と割田内外の総資産を」
「え? あ、はい」
捜査資料から内外の総資産を、仁勇会のホームページから入居費用を調べる。
「え~っと、だいたいですが出ました。仁勇会の入居費用はまちまちなんですけど」
「一番高いやつは」
「月々50万くらいで個室完全介護のやつです」
「となると……年間600万で13年としたら7800万くらいか。内外の総資産は?」
「口座にある現金は50万もないです。ほとんどが絵画で5000万相当です」
「……あとは土地か。あそこの面積と土地価格からすると……1000万くらいか。合わせて6000万……足りないな」
「班長、なんの計算なんです」
「ミドウの狙いは弘美さんの生活費を確保することだとみた。平均寿命並みに生きるとして必要金額を試算し、それを出したい。だがひとつ難点がある。それが相続税だ」
クロの言葉に相続税について検索する。
「──あ、そうか。平成29年から税率が変わってるんだ。基礎控除額が6000万から3600万に引き下げられてる。税率は30%か」
「そうだ。ただでさえ足りないのに3割も納税しなくてはならない。そして納税は現金が原則。絵も土地も売れなければ文字どおり[絵に描いた餅]だ」
「するとミドウさんが逃げまわってたのは……脱税しようとしているのを知られないためですか」
「いや……そうじゃないだろう。言いまわしてとして適切じゃないかもしれないが、[脱税せずに納税義務をかわすため]だと思う」
「そんなことできるんですか」
「わからん。そこまでは考えつかなかったが、ミドウはそれをやる、もしくはやり終わっているかもしれん」
そのとき今度はタマから連絡がはいる。
「お疲れ。班長は?」
互いにあんまり話したくないからか、素っ気なく事務的に情報を伝えあう。
「ふん、相続税対策か。こちらからだが、ケンジのところに喫茶店にあった絵が見つかった。5点あったが……」
「なにか」
「この絵が割田内外のものかどうかわからん。どうやって判別するんだ」
「あー」
タマの言うことももっともだ。本来なら本職である画商か妻の弘美さんに確認してもらうのがいいのだが、今はどちらも信用しづらい。そこにクロがアイデアをだす。
「タマ、その絵を撮ってミツに送れ。あいつならネット検索で鑑定できるかもしれん」
「了解っす」
タマとの通話を切ったあとクロはミツに連絡し、タマからきた画像の鑑定を頼み、こちらにも送るように指示する。
「さて、ミドウのところに行くか」
「お供します」
「いやマキくんはここて連絡係を頼む」
「しかし」
「頼んだぞ」
「待ってください」
出かけようとするクロの前にマキはまわりこみとめる。
「失礼を承知で申し上げます。班長はミドウさんが脱税しないと信じているようですが、私には理解できません。昔は仲間だったかもしれませんが、今は民間の探偵です。そしてミドウ番となって私なりに観察した結果、胡散臭くて裏で何をやっているかわからないくらい怪しいです。
つきあいの浅い私だからこそ気づく点があると思います。ですからお供させてください」
下から見上げるように目を見て進言するマキにクロは当惑する。しばらく黙っていると
「クロ、ちょっと頭冷やしてこい。連絡係は俺がしてやる」
ずっと黙って見守ってた刑事課長にそう言われて、頭を掻き大きく深呼吸をする。
「マキくん、コーヒーでも飲もうか」
一階の自動販売機にふたりは向かう。
「ああ。弘美さんは認知症と言っていいくらい判断力がなくなっていたが、画家割田内外の妻としてならしっかりして意思の疎通ができる。画商と会うときは内外の妻としてだから普通に話せてたんだろう」
ミドウとカドマが弘美さんと話せたことを思い出し、無くなった画材道具は弘美さんを言いくるめて画商が持っていったのではないかと推理したのだ。
「内外は寝たきりになる前から手が震えて道具を持てなくなってた。画商はそれをみて内外は画家としてもう終わりだと判断したそうだ」
「それでどうして画材道具を持っていったんです」
「絵を売るためだそうだ。絵の値段は下げられないから習作や画材道具を抱き合わせで売ってお得感を出そうとしたと」
「窃盗ということですか」
「いや、ちゃんと弘美さんから許可をもらったと言ってるが……確認が取れてない以上限りなく黒に近いグレーってところかな」
いまの弘美さんから証言をとれるとは思えないし、とれたとしても普段の状態から証言能力は低いだろう。
「とりあえず[画商がミドウさんに会った]こと、[画材の行方がわかった]ことを班長に伝えてくれ。僕はこれから弘美さんのところに行く」
弘美の居場所は仁勇会という老人ホームだと伝えてマキは通話を切る。
「宮裏先生の趣味が絵画とは意外だったなぁ。そんな繋がりがあったとは……」
マキがつぶやくと突然、クロが再起動ふる。
「そういうことか。相続税だ」
「え? え? どういうことです」
「マキくん、調べてくれ。仁勇会の入居費用と割田内外の総資産を」
「え? あ、はい」
捜査資料から内外の総資産を、仁勇会のホームページから入居費用を調べる。
「え~っと、だいたいですが出ました。仁勇会の入居費用はまちまちなんですけど」
「一番高いやつは」
「月々50万くらいで個室完全介護のやつです」
「となると……年間600万で13年としたら7800万くらいか。内外の総資産は?」
「口座にある現金は50万もないです。ほとんどが絵画で5000万相当です」
「……あとは土地か。あそこの面積と土地価格からすると……1000万くらいか。合わせて6000万……足りないな」
「班長、なんの計算なんです」
「ミドウの狙いは弘美さんの生活費を確保することだとみた。平均寿命並みに生きるとして必要金額を試算し、それを出したい。だがひとつ難点がある。それが相続税だ」
クロの言葉に相続税について検索する。
「──あ、そうか。平成29年から税率が変わってるんだ。基礎控除額が6000万から3600万に引き下げられてる。税率は30%か」
「そうだ。ただでさえ足りないのに3割も納税しなくてはならない。そして納税は現金が原則。絵も土地も売れなければ文字どおり[絵に描いた餅]だ」
「するとミドウさんが逃げまわってたのは……脱税しようとしているのを知られないためですか」
「いや……そうじゃないだろう。言いまわしてとして適切じゃないかもしれないが、[脱税せずに納税義務をかわすため]だと思う」
「そんなことできるんですか」
「わからん。そこまでは考えつかなかったが、ミドウはそれをやる、もしくはやり終わっているかもしれん」
そのとき今度はタマから連絡がはいる。
「お疲れ。班長は?」
互いにあんまり話したくないからか、素っ気なく事務的に情報を伝えあう。
「ふん、相続税対策か。こちらからだが、ケンジのところに喫茶店にあった絵が見つかった。5点あったが……」
「なにか」
「この絵が割田内外のものかどうかわからん。どうやって判別するんだ」
「あー」
タマの言うことももっともだ。本来なら本職である画商か妻の弘美さんに確認してもらうのがいいのだが、今はどちらも信用しづらい。そこにクロがアイデアをだす。
「タマ、その絵を撮ってミツに送れ。あいつならネット検索で鑑定できるかもしれん」
「了解っす」
タマとの通話を切ったあとクロはミツに連絡し、タマからきた画像の鑑定を頼み、こちらにも送るように指示する。
「さて、ミドウのところに行くか」
「お供します」
「いやマキくんはここて連絡係を頼む」
「しかし」
「頼んだぞ」
「待ってください」
出かけようとするクロの前にマキはまわりこみとめる。
「失礼を承知で申し上げます。班長はミドウさんが脱税しないと信じているようですが、私には理解できません。昔は仲間だったかもしれませんが、今は民間の探偵です。そしてミドウ番となって私なりに観察した結果、胡散臭くて裏で何をやっているかわからないくらい怪しいです。
つきあいの浅い私だからこそ気づく点があると思います。ですからお供させてください」
下から見上げるように目を見て進言するマキにクロは当惑する。しばらく黙っていると
「クロ、ちょっと頭冷やしてこい。連絡係は俺がしてやる」
ずっと黙って見守ってた刑事課長にそう言われて、頭を掻き大きく深呼吸をする。
「マキくん、コーヒーでも飲もうか」
一階の自動販売機にふたりは向かう。
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