コドク 〜ミドウとクロ〜

藤井ことなり

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第一話 ある老人の死

その3

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 納得いかないマキが黙って静かになり、エレベーターの駆動音だけが鳴り響く。

「そう不貞腐れるな。結果的につきまとい事案は解決したし、空き巣被害も同一犯、しかも窃盗サイト関係者だったんだ。それを逮捕したからウチは大金星だよ」

 そういうクロも納得してなかった。それらはすべてミドウのおかげともいえるからだ。

※ ※ ※ ※ ※

 1階に着き扉が開く。外で待っていた男が道を譲り、クロ達が降りるとそそくさと乗り込み急いで扉を閉める。ふとクロは足を止める。

「どうかしましたか」

「いますれ違った男、見覚えがある気がするが誰だったかな」

 クロは記憶をたどりながらロビーを通り抜けそこに出ようとする。その時ちらりと壁にかけられた大きな絵画を見て思い出す。

「思い出した、本町通りにある画廊の画商だ」

「画商って……ああ、割田内外事件のときの……って、ああ!?」

「どうしたマキくん」

「か、片づいてました」

「なにが」

「割田内外というか田中弘美さんの家が。先程通りかかったんですが、見た目の印象が変わってたんです。いま気がつきました、野積みになってた椅子やテーブルがなかったんです」

 通り過ぎたときに何か違ってたと思ってたが、それが何だか今気がついたのだ。

「業者が片付けたのか──いや、内外が亡くなって係累は妻の弘美さんしかいない。そして弘美さんには自己判断できないはずだ」

「窃盗の可能性があります」

 ちょっと考えてからクロは指示を出す。

「よし、マキくんは壱ノ宮署かいしゃにもどってクルマを持ってきてくれ。俺は画商が気になるからミドウのところにもどる。そこに居たら繋がりがある現場を押さえられる」

「わかりました」

 了解すると、クロは少し離れたところにある階段から駆け上がる。マキはその場でエレベーターの階数表示を見る。一旦3階に停まったあと、上の階に上っていく。両隣のエレベーターも上の階に向かっていた。つまり降りてすれ違う可能性は低い。それを確認したあと壱ノ宮署へと急ぐ。

※ ※ ※ ※ ※

 覆面パトカーで病院まで戻ったマキは路肩停車してクロに連絡を入れる。

「班長、着きました。ロビーの前です」

「すぐ行く」

 多少の猶予を想像していたが、すぐに出てきて助手席に乗り込む。

「お早いですね」

「ああ。話はあとだ、すぐ出してくれ」

「はい」

 マキは割田内外宅へと進める。

「画商は見つかりましたか」

「空振りだった。あえてノックせずミドウの部屋に入ってみたが、あのたわけがリンゴ食ってただけだった」

「別の用件だったんですかねぇ」

「わからんが、また会いに行ってみようとおもう」

※ ※ ※ ※ ※

 目的地に到着すると、駐車場にコンテナ車とトラックが停まっていて、田中家から運び出した荷物を積んでいるところに出くわす。

「ん? アイツは……」

「知ってる人ですか」

「ああ。ちょっといってくる。マキくんはクルマで待機」

クロはクルマから降りると、搬出の指示をしている作業服姿でヤンチャそうな若い責任者らしき人物に近づく。

「よお、ケンジじゃないか」

「げ、クロベエ、じゃなかった。黒田さん」

「真面目にやっているようじゃないか、半グレだった頃が嘘みたいだな」

「黒田さん、声が大きいっす。社員に聞かれちゃうじゃないですか。ちゃんと真面目にやってますよ」

「社員だと? いまは何やっているんだよ」

「リサイクル屋です、処分品を買い取って売る仕事です。ちゃんと許可もとってますよ」

「お前がいるってことは、ミドウが絡んでるのか」

「そうです」

 いやにあっさり答えたのでクロは拍子抜けした。

「ミドウさんから、[どうせクロが来るだろうから隠し事しなくていいぞ]っていわれてますんで」

あの野郎、とクロは舌打ちする。

「それで、何やっているんだ。見たところ家財道具を運び出しているようだが」

「その通りです。大事なもの必要なものは無いから、全部処分してくれって」

「処分?  棄てるのか」

「いえ、オレが全部買い取って、売りに出します」

「ふうん」

 クロはケンジの後ろに回り込むと肩を抱き、頭を寄せる。

「で、どんなカラクリがあるんだ」

「な、なんの事で……」

「とぼけるな、家具なんてそうそう売れるもんじゃないだろう。売れなきゃお前が大損だ。直ぐに高値で売れるルートがあるんだろう、教えろよ」

「そ、それはちょっと……」

「別にそれで捕まえようって訳じゃねぇよ、俺の目的はミドウが何を企んでるか知りたいだけなんだ。正直に言えよ、ミドウも教えていいって言ってたんだろ」

 ケンジは迷っていたが、しぶしぶ話す事にした。

「ここの持ち主、なんか有名な画家で死んだんですよね。ニュースでみました。しかもそのですね、なんかいわくつきだって。これ以上は言えないですけど、そういういわく付きの遺物をコレクションしている人達がいるんです。今回は、[旦那が死んでいるのに奥さんが生き返るのを信じて世話をしていた布団]という名目で売り出したら、すぐ売れました」

 クロは眉をしかめる。法に触れる行為ではないが倫理的に触る。

「で、売り上げはミドウとお前で分けるのか」

「そうです」
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