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第一話 ある老人の死
ミドウの暗躍 前編
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「ほらよ」
「お、ちゃんときれいに剥けるようになったじゃん。今度はうさぎカットに挑戦だな」
「うるせぇ。ちょっと料理がうまいからって威張るな」
「ちょっとじゃねぇだろ。新米の頃、寮に同居してたときオレが全部炊事洗濯掃除の家事全般をやってたんじゃねえか。お前のパンツ洗ったのオレだぞ」
「いつまでも昔のことで威張るな。今はやれるようになってる」
「それもオレのおかげだろ。れーこちゃんに迷惑かけないように覚えろって。だーかーら、結婚できたんだろ」
「覚えなくても礼子とは一緒になってたわ。あいつは俺に惚れてたからな」
「ほーお、惚れられるようにお前を磨いたのはオレだけどなぁ」
「勝手に言ってろ。そんなことされた覚えはねぇよ」
「恩知らず」
「じゃあ俺より家事のできるお前はどうなんだよ、宮裏先生とはうまくいってんのか」
「なんで宮裏先生が出てくるんだよ」
「そうだろ。お前と一番よくいる女性ってあの人じゃないか」
「関係ねぇよ」
──オジサンふたりが恋バナをしてる。しかも班長がミドウさんのためにリンゴを剥いてあげてる──
あまりにもレアな光景のために、マキのもっと見たいという気持ちがそのまま黙って覗き続ける姿勢をとった。
「ああいう知的美人てお前の好みだろ。俺からみても落ち着きのないお前の手綱を持ってくれてお似合いだと思うんだがなぁ」
「強面お不動さまのお前に菩薩のようなれーこちゃんはお似合いだけどな、オレはそうのいいよ。結婚なんてするもんじゃない」
「ヒトに結婚勧めといて何だその言い草は」
「結婚した方がいいタイプとそうじゃないのがいるって言ってんの。オレはコドクが好きなのさ」
「またそれか。人たらしのくせに独りでいたがる、なんなんだよお前は」
──そういや前にもそんなこと言ってたな。──
マキはミドウの探偵事務所の生活ぶりを思い出した。たしかにシンプルでミニマリストというほどではないが、独身男にしては片付いている方の暮らしだった。
「何だっていいだろ。そろそろ入ってきなよマキちゃん」
「なんだもう降参か。マキくん、入ってこい」
うわ、バレてた。とバツ悪気にしずしずと扉を開けて中に入る。
「失礼します……気づいてました?」
「パンツ洗ってたぞって言ってたあたりからね」
「気づいてるってサイン、何度か送ったが気づかなかったか」
「全然わかりませんでした」
「もっと観察してね、マキちゃん」
「もっと観察するんだ、マキくん」
ふたりして言わなくても……。
マキは心のなかで仏頂面したつもりだが、顔と態度に出ていたのでミドウはそれを見てにやにやする。
「さて、それじゃ本来の目的、喫茶店の空き巣がなぜあの日に起きるのを知ってたか話してもらおうか。少なくともマキくんにはそれを話すぎりがあるだろ」
「じゃーあクロは出てってくれ」
「同席する」
「んじゃ、話さない」
「いいから話せ」
クロは立ち上がると外に行きナースステーションからパイプ椅子を借りてきて、それにマキを座らせ自分ももとの椅子に座る。
やれやれというポーズをとったあと、ミドウはマキに向かって話しはじめる。
「さてと、ママからひと通り聞いたと思うけど、あの辺りで頻繁に空き巣事件が起きてるだろ。それを何とかしてというのが依頼だったんだ。それで空き巣現場を見てまわったところ、たまたま修理している家にあたった。それが例の工務店だったんだ」
「それで目星をつけたんですか」
「まさか。それで分かったら刑事続けて署長になってるよ。その時は覚えていただけ」
「なんだ」
「それから居酒屋でバイトしてたろ。あそこは汚いけど安くて量があって美味しいから現場仕事のおっさんがよく来るんだ、そこで例の工務店のネームが入った作業服の奴らが来てた。常連さんだよ。そこでちょっと気になった。
というのも、連中はいつも割り勘で1円単位まで割るというせせこましいことしてたんだが、たまに奢るヤツがいて、そいつは万札で払ってくる。それで話しかけたのさ『仕事忙しいんてすか』って。そしたら上機嫌でまあねって返ってきた」
「それで怪しいと」
「いんやまだだよ。
その後さ、また渋くなって割り勘に戻ったんで『暇になりましたか』って聞いたら『別に』って。よくよく聞いたらずっと仕事の量は変わってなくて、万札で払うヤツは臨時雇いのヤツだった」
クロもマキも顔には出さなかったが、おそらくイワミのことだろうと想像していた。
「で、ここで話が飛ぶんだけど、デリヘルの送迎のバイトしてたの知ってるでしょ。ずっとオレに張り込んでたもんね」
「ええ、そうですね」
いつぞや尾行していたのがバレてからかわれたのを思い出した。
「クミちゃん──そういやあのコどうなったの」
ミドウの質問にクロが答える。
「つきまといの件で俺達が事情聴取したあと、生安にバトンタッチ。本番行為したと聞いてしまった以上、報告するしかないからな」
「あちゃあ」
「ついでに教えてやる。あれはお店に強要された、あたしは被害者だ、なんて言い訳したからデリヘル店にも手入れが入るぞ」
「うわぁ、ショーランママに怒られるぅ」
ミドウが頭を抱える仕草をしたから、ふたりはいい気味だとほくそ笑んだ。
「お、ちゃんときれいに剥けるようになったじゃん。今度はうさぎカットに挑戦だな」
「うるせぇ。ちょっと料理がうまいからって威張るな」
「ちょっとじゃねぇだろ。新米の頃、寮に同居してたときオレが全部炊事洗濯掃除の家事全般をやってたんじゃねえか。お前のパンツ洗ったのオレだぞ」
「いつまでも昔のことで威張るな。今はやれるようになってる」
「それもオレのおかげだろ。れーこちゃんに迷惑かけないように覚えろって。だーかーら、結婚できたんだろ」
「覚えなくても礼子とは一緒になってたわ。あいつは俺に惚れてたからな」
「ほーお、惚れられるようにお前を磨いたのはオレだけどなぁ」
「勝手に言ってろ。そんなことされた覚えはねぇよ」
「恩知らず」
「じゃあ俺より家事のできるお前はどうなんだよ、宮裏先生とはうまくいってんのか」
「なんで宮裏先生が出てくるんだよ」
「そうだろ。お前と一番よくいる女性ってあの人じゃないか」
「関係ねぇよ」
──オジサンふたりが恋バナをしてる。しかも班長がミドウさんのためにリンゴを剥いてあげてる──
あまりにもレアな光景のために、マキのもっと見たいという気持ちがそのまま黙って覗き続ける姿勢をとった。
「ああいう知的美人てお前の好みだろ。俺からみても落ち着きのないお前の手綱を持ってくれてお似合いだと思うんだがなぁ」
「強面お不動さまのお前に菩薩のようなれーこちゃんはお似合いだけどな、オレはそうのいいよ。結婚なんてするもんじゃない」
「ヒトに結婚勧めといて何だその言い草は」
「結婚した方がいいタイプとそうじゃないのがいるって言ってんの。オレはコドクが好きなのさ」
「またそれか。人たらしのくせに独りでいたがる、なんなんだよお前は」
──そういや前にもそんなこと言ってたな。──
マキはミドウの探偵事務所の生活ぶりを思い出した。たしかにシンプルでミニマリストというほどではないが、独身男にしては片付いている方の暮らしだった。
「何だっていいだろ。そろそろ入ってきなよマキちゃん」
「なんだもう降参か。マキくん、入ってこい」
うわ、バレてた。とバツ悪気にしずしずと扉を開けて中に入る。
「失礼します……気づいてました?」
「パンツ洗ってたぞって言ってたあたりからね」
「気づいてるってサイン、何度か送ったが気づかなかったか」
「全然わかりませんでした」
「もっと観察してね、マキちゃん」
「もっと観察するんだ、マキくん」
ふたりして言わなくても……。
マキは心のなかで仏頂面したつもりだが、顔と態度に出ていたのでミドウはそれを見てにやにやする。
「さて、それじゃ本来の目的、喫茶店の空き巣がなぜあの日に起きるのを知ってたか話してもらおうか。少なくともマキくんにはそれを話すぎりがあるだろ」
「じゃーあクロは出てってくれ」
「同席する」
「んじゃ、話さない」
「いいから話せ」
クロは立ち上がると外に行きナースステーションからパイプ椅子を借りてきて、それにマキを座らせ自分ももとの椅子に座る。
やれやれというポーズをとったあと、ミドウはマキに向かって話しはじめる。
「さてと、ママからひと通り聞いたと思うけど、あの辺りで頻繁に空き巣事件が起きてるだろ。それを何とかしてというのが依頼だったんだ。それで空き巣現場を見てまわったところ、たまたま修理している家にあたった。それが例の工務店だったんだ」
「それで目星をつけたんですか」
「まさか。それで分かったら刑事続けて署長になってるよ。その時は覚えていただけ」
「なんだ」
「それから居酒屋でバイトしてたろ。あそこは汚いけど安くて量があって美味しいから現場仕事のおっさんがよく来るんだ、そこで例の工務店のネームが入った作業服の奴らが来てた。常連さんだよ。そこでちょっと気になった。
というのも、連中はいつも割り勘で1円単位まで割るというせせこましいことしてたんだが、たまに奢るヤツがいて、そいつは万札で払ってくる。それで話しかけたのさ『仕事忙しいんてすか』って。そしたら上機嫌でまあねって返ってきた」
「それで怪しいと」
「いんやまだだよ。
その後さ、また渋くなって割り勘に戻ったんで『暇になりましたか』って聞いたら『別に』って。よくよく聞いたらずっと仕事の量は変わってなくて、万札で払うヤツは臨時雇いのヤツだった」
クロもマキも顔には出さなかったが、おそらくイワミのことだろうと想像していた。
「で、ここで話が飛ぶんだけど、デリヘルの送迎のバイトしてたの知ってるでしょ。ずっとオレに張り込んでたもんね」
「ええ、そうですね」
いつぞや尾行していたのがバレてからかわれたのを思い出した。
「クミちゃん──そういやあのコどうなったの」
ミドウの質問にクロが答える。
「つきまといの件で俺達が事情聴取したあと、生安にバトンタッチ。本番行為したと聞いてしまった以上、報告するしかないからな」
「あちゃあ」
「ついでに教えてやる。あれはお店に強要された、あたしは被害者だ、なんて言い訳したからデリヘル店にも手入れが入るぞ」
「うわぁ、ショーランママに怒られるぅ」
ミドウが頭を抱える仕草をしたから、ふたりはいい気味だとほくそ笑んだ。
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