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第一話 ある老人の死
その5
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「いけるのか」
クロが訊き返すとカドマは頷く。
「タマの取り調べで3人とも素直に自供しています。オダはまだ若く不貞腐れ気味でしたが、イワクニは父親に叱られたように反省してます。そしてイワミですが、どうもタマとウマが合うらしく色々と話してますので、このままやらせてください」
「……本件以外の余罪だけでなく、金尾のことも聞き出せそうか」
「おそらく。表の仕事、つまり鳶職人としても何度か雇われてるそうなので人となりを知ることができると思います」
「わかった。続けてふたりで調書をとってくれ。ミツは今から本部か」
「はい。しばらく本部勤めとなります」
「よし、頼むぞ」
「はい!! 了解しました!!」
「そしてマキくんだが……」
「はい……」
消え入りそうな声で返事をする。なにせミドウに振り回されただけで何の結果も出してないからだ。
「詳細は話さなくていいから、被害者宅に行って事件が解決したことを伝えてきてくれ」
「はい……」
──雑用か……、そうよね、なんの役にも立ってないもの──
マキの心の内をくみ取ったのか、クロは言葉を続ける。
「被害者の心のケアをする大事な役目だからな。それがすんだら森友総合病院に来てくれ」
「はい。えっと、どうしてですか」
「ミドウのバカ、まだ入院してるんだよ。今回のことまだ何か隠してるはずなのに雲隠れしてない。だから尋問するから手伝ってくれ、俺は先に行ってるから」
マキが了解すると、それぞれに動き出す。駐車場に向うマキをミツが呼び止める。
「マキくん、あっちに行くなら先に岩倉駅まで送ってくれないか」
「壱ノ宮駅から行かないんですか」
「エム鉄の犬山線は地下鉄とつながってるんだよ。丸の内駅に行くならそっちが便利だからさ」
「私用じゃないからいいか。わかりました」
覆面パトカーに乗って国道155線を東へと向う途中、通り道だから先に被害者宅に寄っていいかマキが訊くと時計タイプのウェアラブル端末で時間を確認していいよとこたえる。
「時間までまだ余裕あるから大丈夫」
「あー、玉ノ井さんから逃げるためにはやく出たんですね」
「いいじゃないか、別に残ってたってしょうがないし」
おどおどするミツに、やれやれと内心ため息をつく。
「内緒にしてあげますから、報告につきあってくださいよ。私ひとりだと信用されるのに時間がかかってしまうので」
「お安い御用だ」
※ ※ ※ ※ ※
窃盗現場の駐車場にクルマを停め、被害者宅まで歩き訪問する。さいわい夫婦ともに在宅だったので事件が解決したことを報告する。
「あーら、わざわざすいません。捕まってよかったわね」
「ありがとうございます。ではこれで失礼します」
ママさんはずっとミツとだけ話していたので、自分の見た目信用度の低さに落ち込む。とぼとぼと駐車場に戻り、ふと現場であった喫茶店の窓越しから中を覗く。
「ほんとに閉めちゃうんだ」
「なにが」
「この喫茶店。ママがもう閉めるって言ってたんですけど、もう片づけはじめてます」
言われてミツも中を覗く。イスやテーブルが隅っこに積み上げられていて店内はあらかた片付けられていた。
「ふうん、ずいぶんさっぱりしちゃったね。壁にかかってた絵も片付けたのかな」
「絵なんかありましたっけ」
「あったよ。ほら」
ミツが指差すと壁に色褪せてない四角いところがあった。たしかに絵が飾っていたあとなんだろう。
「細かいところに気づきますね」
「班長とミドウさんの教えでね。よく観察しろってよく言われてたよ」
「……私もよく言われます……」
※ ※ ※ ※ ※
岩倉駅のロータリーでミツを降ろすと、マキはもと来た道を戻り森友総合病院へと向う。途中、割田内外こと田中畦道と妻の弘美の家を横切りちらと見る。
──弘美さんどうしてるかな。介護施設に入ったというけど独りで寂しいおもいをしていないかな──
心配ではあるが自分にはどうしようもない。タマの言葉が頭をよぎる。
(オレたちの守備範囲外だろうが。そこまでいちいち気にしてたら身がもたねぇだろうが)
──たしかにそうだ。玉ノ井さんの言うことは正しい。だからこそ割りきれない想いがわき出る。──
(ミドウは被害を受けた方々に感情移入し過ぎたんだろうな)
──ミドウさんもこんな思いがつのって辞めるに至ったのかな──
ほかごとを考えて運転していては危ないとマキは考えるのをやめた。どうしたって結論はでないということだけはわかっているのだから……。
※ ※ ※ ※ ※
壱ノ宮署に戻ってクルマを戻すと歩いていけるところにある森友総合病院へ向う。
病室は本館3階の310号室とわかっているから、さっさと向う。エレベーターをつかって。
ノックをする前に廊下から扉越しに様子をうかがうと、ふたりの声がする。
マキは、ふたりだけの時はどんな会話をするんだろうと興味がわき、そっと扉をずらし中を覗いた。途端、驚きの声を出しそうになったが慌てて口をつぐむ。
それは、ベッドで寝ているミドウの横で、パイプ椅子に座ったクロがリンゴの皮を果物ナイフで剥いている光景だったからだ。
クロが訊き返すとカドマは頷く。
「タマの取り調べで3人とも素直に自供しています。オダはまだ若く不貞腐れ気味でしたが、イワクニは父親に叱られたように反省してます。そしてイワミですが、どうもタマとウマが合うらしく色々と話してますので、このままやらせてください」
「……本件以外の余罪だけでなく、金尾のことも聞き出せそうか」
「おそらく。表の仕事、つまり鳶職人としても何度か雇われてるそうなので人となりを知ることができると思います」
「わかった。続けてふたりで調書をとってくれ。ミツは今から本部か」
「はい。しばらく本部勤めとなります」
「よし、頼むぞ」
「はい!! 了解しました!!」
「そしてマキくんだが……」
「はい……」
消え入りそうな声で返事をする。なにせミドウに振り回されただけで何の結果も出してないからだ。
「詳細は話さなくていいから、被害者宅に行って事件が解決したことを伝えてきてくれ」
「はい……」
──雑用か……、そうよね、なんの役にも立ってないもの──
マキの心の内をくみ取ったのか、クロは言葉を続ける。
「被害者の心のケアをする大事な役目だからな。それがすんだら森友総合病院に来てくれ」
「はい。えっと、どうしてですか」
「ミドウのバカ、まだ入院してるんだよ。今回のことまだ何か隠してるはずなのに雲隠れしてない。だから尋問するから手伝ってくれ、俺は先に行ってるから」
マキが了解すると、それぞれに動き出す。駐車場に向うマキをミツが呼び止める。
「マキくん、あっちに行くなら先に岩倉駅まで送ってくれないか」
「壱ノ宮駅から行かないんですか」
「エム鉄の犬山線は地下鉄とつながってるんだよ。丸の内駅に行くならそっちが便利だからさ」
「私用じゃないからいいか。わかりました」
覆面パトカーに乗って国道155線を東へと向う途中、通り道だから先に被害者宅に寄っていいかマキが訊くと時計タイプのウェアラブル端末で時間を確認していいよとこたえる。
「時間までまだ余裕あるから大丈夫」
「あー、玉ノ井さんから逃げるためにはやく出たんですね」
「いいじゃないか、別に残ってたってしょうがないし」
おどおどするミツに、やれやれと内心ため息をつく。
「内緒にしてあげますから、報告につきあってくださいよ。私ひとりだと信用されるのに時間がかかってしまうので」
「お安い御用だ」
※ ※ ※ ※ ※
窃盗現場の駐車場にクルマを停め、被害者宅まで歩き訪問する。さいわい夫婦ともに在宅だったので事件が解決したことを報告する。
「あーら、わざわざすいません。捕まってよかったわね」
「ありがとうございます。ではこれで失礼します」
ママさんはずっとミツとだけ話していたので、自分の見た目信用度の低さに落ち込む。とぼとぼと駐車場に戻り、ふと現場であった喫茶店の窓越しから中を覗く。
「ほんとに閉めちゃうんだ」
「なにが」
「この喫茶店。ママがもう閉めるって言ってたんですけど、もう片づけはじめてます」
言われてミツも中を覗く。イスやテーブルが隅っこに積み上げられていて店内はあらかた片付けられていた。
「ふうん、ずいぶんさっぱりしちゃったね。壁にかかってた絵も片付けたのかな」
「絵なんかありましたっけ」
「あったよ。ほら」
ミツが指差すと壁に色褪せてない四角いところがあった。たしかに絵が飾っていたあとなんだろう。
「細かいところに気づきますね」
「班長とミドウさんの教えでね。よく観察しろってよく言われてたよ」
「……私もよく言われます……」
※ ※ ※ ※ ※
岩倉駅のロータリーでミツを降ろすと、マキはもと来た道を戻り森友総合病院へと向う。途中、割田内外こと田中畦道と妻の弘美の家を横切りちらと見る。
──弘美さんどうしてるかな。介護施設に入ったというけど独りで寂しいおもいをしていないかな──
心配ではあるが自分にはどうしようもない。タマの言葉が頭をよぎる。
(オレたちの守備範囲外だろうが。そこまでいちいち気にしてたら身がもたねぇだろうが)
──たしかにそうだ。玉ノ井さんの言うことは正しい。だからこそ割りきれない想いがわき出る。──
(ミドウは被害を受けた方々に感情移入し過ぎたんだろうな)
──ミドウさんもこんな思いがつのって辞めるに至ったのかな──
ほかごとを考えて運転していては危ないとマキは考えるのをやめた。どうしたって結論はでないということだけはわかっているのだから……。
※ ※ ※ ※ ※
壱ノ宮署に戻ってクルマを戻すと歩いていけるところにある森友総合病院へ向う。
病室は本館3階の310号室とわかっているから、さっさと向う。エレベーターをつかって。
ノックをする前に廊下から扉越しに様子をうかがうと、ふたりの声がする。
マキは、ふたりだけの時はどんな会話をするんだろうと興味がわき、そっと扉をずらし中を覗いた。途端、驚きの声を出しそうになったが慌てて口をつぐむ。
それは、ベッドで寝ているミドウの横で、パイプ椅子に座ったクロがリンゴの皮を果物ナイフで剥いている光景だったからだ。
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