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第一話 ある老人の死
その4
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デリヘル等で客が性行為、いわゆる本番を強要すれば不同意性交等罪という5年以上の有期懲役となり重罪となる。
しかし逆に女性従業員から本番行為を誘えば売春防止法違反で6ヶ月以下の懲役又は1万円以下の罰金になる。
クロだけなら、もしくはマキだけなら聞こえなかったふりして見逃すことができたかもしれないが、上司の手前マキはそれができず、クロも部下の手前できない。
「クミさん、あまり刺激しないで。さ、奥に避難しましょう」
マキがなだめて誘導しようとするが、クミは動かない。
「札束見れば目の色変わるのは当たり前じゃない。そんなことでサービスしないわよ」
この言葉に男は顔を上げる。
「ウソつけ、めんどくさそうに仕事しやがったくせに。それが持ちガネを見たとたんベタベタして、また指名してねって言ってきただろうが。何度か指名したらそっちからもっとサービス料くれるんなら本番してあげるって言ってきただろうが」
「あんたがしつこく言ってくるから断るつもりで言ったのに、本当に出すからしょうがなくしたのよ。あたしのせいじゃないわ」
ヒートアップしてきたふたりは余計なことを言いはじめた。マキは正直口を手で塞いでやりたい気持ちになったが、立場上それはできない。
「金の亡者め。店外デートでどんだけねだってきた、お前に使ったカネは100万や200万どころじゃないだろうが」
──うわ、そんなに貢がせたのか。そりゃ怒るわ──
マキはちょっとだけ男に同情したが、反面、商売女に引っかかってバカだなとも思った。
「あんたが勝手に使っただけじゃん。それにストーカーされたおかげで引っ越したし怖いめにもあったんだから慰謝料よ、盗聴までしてたくせに被害者面しないでよ、被害者はこっちなんだからね」
「こ、このぉ」
先程までの愛情はどこへやら、男は勢いよく立ち上がりクミに殴りかかろうとするが、その際、止めようとしたミドウの顔面に男の肘がカウンター気味に当たりもんどりうって後ろに倒れる。
代わりに前に立ちふさがったクロにより取り押さえられた。
「離せ、離せぇ、せめて一発殴らせろぉぉぉ」
クロは無言で涙を流す男を止めるしかなかった──。
※ ※ ※ ※ ※
マキの連絡で壱ノ宮署から署員がやってくる。
穏便に済ませるつもりが、脅迫、誘拐、拉致、暴行を警察官の目の前でやられてはさすがに無理だった。
クロは男を、マキはクミを連れてパトカーに乗り戻ることになる。
事情聴取が目的だったが、あれだけ本番行為をしたことを言われては無視するわけにはいかない。場合によってはママの店にも息子のデリヘル店にも手入れが入るだろう。
ミドウは能面のようなママに睨まれながら救急車に運ばれる。転んだときに打ちどころが悪かったらしい。
こうして本来の目的であった、ミドウに盗難事件について事情を訊く、がうやむやに終わってしまったのである──。
※ ※ ※ ※ ※
──その3日後、黒田班の面々は誰も彼もが眉間にシワを寄せ、不愉快そうな困ったような顔をしていた。
「カドマ、いや、ミツの方が良いな、もう一度整理して話してくれ」
こういう時はカドマが仕切るのがセオリーなのだが、あまりにもややこしかったので、クロはあえてミツにやらせることにした。
「は、はい。──事の起こりは市境にある喫茶店への空き巣事件が発端でした。
ミドウさんの通報により僕とマキ巡査が現場に向かい犯人と遭遇、逮捕に至りました。
そして取り調べの結果、窃盗サイトによる事件と判明。指示役が現場にいた可能性があるので班長は現場に聴き込みを、そしてマキ巡査はミドウさんに話を聞きに行ったところ、成り行きでつきまとい事件に遭遇。そしてつきまとい犯を逮捕したわけですが──」
ここで区切ってミツはひと息いれ、続きを話す。
「──このつきまとい犯こそが窃盗サイトの指示役、金尾実次でした。つきまとい容疑で逮捕したあと身元確認したところ、班長が目星をつけてた工務店の社長であることが判明、令状をとってガサ入れしたところ窃盗サイトに関わったPCを発見、押収に至ったわけです」
ミツはもうよろしいですかと目でクロに伺うが、顎をくいっとだされ、続けろと返される。
「容疑者金尾実次を再逮捕して取り調べにかかりましたが、全国規模の事件の一端ということで捜査本部は愛知県警本部に移動、黒田班から僕が応援に、今回の実行犯だったオダツネアキ、イワクニテルアキ、イワミギンジはこちらで取調べ」
「けっ、御情けで仕事くれてやる関わらせてやるってか」
タマが吐き捨てるように言うのでミツが憶える。
「そ、そんなところです」
つまりミドウのおかげで大金星を手に入れたうえに、それを本部に持ってかれてしまったのだ。マキをはじめ全員が不愉快になるのも無理はなかった。
「班長、こうなったらイワミ達を徹底的に調べさせてください。本部の奴らをギャフンと言わせてやりましょう」
──今どきギャフンなんて言う人、いたんだぁ──
マキは珍獣のようにタマを見たが、気持ちは一緒だった。
「班長、オダとイワクニはともかくイワミはやらせてください。僕からもお願いします」
止め役のカドマがめずらしくタマに同意する。
しかし逆に女性従業員から本番行為を誘えば売春防止法違反で6ヶ月以下の懲役又は1万円以下の罰金になる。
クロだけなら、もしくはマキだけなら聞こえなかったふりして見逃すことができたかもしれないが、上司の手前マキはそれができず、クロも部下の手前できない。
「クミさん、あまり刺激しないで。さ、奥に避難しましょう」
マキがなだめて誘導しようとするが、クミは動かない。
「札束見れば目の色変わるのは当たり前じゃない。そんなことでサービスしないわよ」
この言葉に男は顔を上げる。
「ウソつけ、めんどくさそうに仕事しやがったくせに。それが持ちガネを見たとたんベタベタして、また指名してねって言ってきただろうが。何度か指名したらそっちからもっとサービス料くれるんなら本番してあげるって言ってきただろうが」
「あんたがしつこく言ってくるから断るつもりで言ったのに、本当に出すからしょうがなくしたのよ。あたしのせいじゃないわ」
ヒートアップしてきたふたりは余計なことを言いはじめた。マキは正直口を手で塞いでやりたい気持ちになったが、立場上それはできない。
「金の亡者め。店外デートでどんだけねだってきた、お前に使ったカネは100万や200万どころじゃないだろうが」
──うわ、そんなに貢がせたのか。そりゃ怒るわ──
マキはちょっとだけ男に同情したが、反面、商売女に引っかかってバカだなとも思った。
「あんたが勝手に使っただけじゃん。それにストーカーされたおかげで引っ越したし怖いめにもあったんだから慰謝料よ、盗聴までしてたくせに被害者面しないでよ、被害者はこっちなんだからね」
「こ、このぉ」
先程までの愛情はどこへやら、男は勢いよく立ち上がりクミに殴りかかろうとするが、その際、止めようとしたミドウの顔面に男の肘がカウンター気味に当たりもんどりうって後ろに倒れる。
代わりに前に立ちふさがったクロにより取り押さえられた。
「離せ、離せぇ、せめて一発殴らせろぉぉぉ」
クロは無言で涙を流す男を止めるしかなかった──。
※ ※ ※ ※ ※
マキの連絡で壱ノ宮署から署員がやってくる。
穏便に済ませるつもりが、脅迫、誘拐、拉致、暴行を警察官の目の前でやられてはさすがに無理だった。
クロは男を、マキはクミを連れてパトカーに乗り戻ることになる。
事情聴取が目的だったが、あれだけ本番行為をしたことを言われては無視するわけにはいかない。場合によってはママの店にも息子のデリヘル店にも手入れが入るだろう。
ミドウは能面のようなママに睨まれながら救急車に運ばれる。転んだときに打ちどころが悪かったらしい。
こうして本来の目的であった、ミドウに盗難事件について事情を訊く、がうやむやに終わってしまったのである──。
※ ※ ※ ※ ※
──その3日後、黒田班の面々は誰も彼もが眉間にシワを寄せ、不愉快そうな困ったような顔をしていた。
「カドマ、いや、ミツの方が良いな、もう一度整理して話してくれ」
こういう時はカドマが仕切るのがセオリーなのだが、あまりにもややこしかったので、クロはあえてミツにやらせることにした。
「は、はい。──事の起こりは市境にある喫茶店への空き巣事件が発端でした。
ミドウさんの通報により僕とマキ巡査が現場に向かい犯人と遭遇、逮捕に至りました。
そして取り調べの結果、窃盗サイトによる事件と判明。指示役が現場にいた可能性があるので班長は現場に聴き込みを、そしてマキ巡査はミドウさんに話を聞きに行ったところ、成り行きでつきまとい事件に遭遇。そしてつきまとい犯を逮捕したわけですが──」
ここで区切ってミツはひと息いれ、続きを話す。
「──このつきまとい犯こそが窃盗サイトの指示役、金尾実次でした。つきまとい容疑で逮捕したあと身元確認したところ、班長が目星をつけてた工務店の社長であることが判明、令状をとってガサ入れしたところ窃盗サイトに関わったPCを発見、押収に至ったわけです」
ミツはもうよろしいですかと目でクロに伺うが、顎をくいっとだされ、続けろと返される。
「容疑者金尾実次を再逮捕して取り調べにかかりましたが、全国規模の事件の一端ということで捜査本部は愛知県警本部に移動、黒田班から僕が応援に、今回の実行犯だったオダツネアキ、イワクニテルアキ、イワミギンジはこちらで取調べ」
「けっ、御情けで仕事くれてやる関わらせてやるってか」
タマが吐き捨てるように言うのでミツが憶える。
「そ、そんなところです」
つまりミドウのおかげで大金星を手に入れたうえに、それを本部に持ってかれてしまったのだ。マキをはじめ全員が不愉快になるのも無理はなかった。
「班長、こうなったらイワミ達を徹底的に調べさせてください。本部の奴らをギャフンと言わせてやりましょう」
──今どきギャフンなんて言う人、いたんだぁ──
マキは珍獣のようにタマを見たが、気持ちは一緒だった。
「班長、オダとイワクニはともかくイワミはやらせてください。僕からもお願いします」
止め役のカドマがめずらしくタマに同意する。
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