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第一話 ある老人の死
その2
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クラブ[ショーラン]は大きなソファで囲まれたボックス席が3つとバーカウンターの席があり、薄暗い照明にオレンジ系の間接照明で落ち着いた雰囲気を出している。飲み歩く人なら2軒目か3軒目に来る感じだろう。
いちばん奥のボックス席にクロが座ると、隣にリコになったマキが座り、その隣にママが座る。
水割りのセットとウイスキーのボトルがテーブルに置かれ、リコが水割りをつくるとクロの前に置く。
「サマになってるな」
変装のためかウェーブのかかったセミロングのウィッグを被り、胸元が大きく空いたセクシーなスーツを着て、両膝をクロの方に向けている。たしかに水商売経験者のようだった。
「さきほどママにレクチャーしてもらいました。ママ、こちらがミドウさんの知り合いの[そのスジ]の方です」
本職を明かせないい以上言葉を濁して伝えるしかなく、ママはクロの外見で即座に納得した。
「じゃあリコちゃん、あとはお願いね。わからないことがあったらボーイに訊いてね」
[そのスジ]に関わらないようにママはそそくさと席を離れる。苦笑いしながらクロは水割りに手をつけると顔をしかめる。
「なんだ、中味はウーロン茶か」
「すいません、私がママに頼みました」
「いいさ、酔うわけにはいかないからな。それよりあれからどうなったんだ」
客とキャストの会話をよそおいながら互いの情報を交換しはじめる。
「衣装を借りながらそれとなく話していたところ、クミちゃんはもともとラウンジのキャストとして働いてたんですが、もっと稼ぎたいという理由でデリヘル嬢になったそうです。それで最近しつこく言い寄る客に困っていたと」
「よく聞くパターンだな。こっちも生安で店のこと聞いてきた。[ショーラン]のママはやり手で他にも何店か風俗店をやっている、このビルも持ちビルでな、2階にデリヘルの基地がありそこの責任者はママの息子だそうだ」
「ああ、それでデリヘル嬢に……。ミドウさんはママと知り合いで──ホントに顔が広いですね──で、相談されてボディガードを兼ねてここで働いてるそうです」
「ふん、そういう繋がりか。俺をダシにしやがって。ま、それならそうしてやるさ。これで貸しをひとつつくれる」
そのつきまとい客に「そのコにつきまとうんじゃねぇ」と強面の班長に言ってもらうつもりなんだろうなとマキも考えていた。
「それはそうと窃盗サイトの方はどうなりました」
店は混んできて八割ほど席が埋まってきていた、念の為聴かれないように顔を寄せて小声で話しはじめる。
「現場に行ってクルマの音を聞いたという方にもう一度うかがってきた。大きなクルマというのが引っかかってな、よくよく聞いたところトラックより小さくて普通車より大きな感じだったそうだ。ということはワンボックスカーあたりだと予想した。さらに防犯カメラにそれらしい車体が映ってないことから、ひょっとして近辺の範囲にまだいるのではと思い探してみたら現場に残ってたタイヤ痕と同じようなタイヤのワンボックスカーを見つけた」
「じゃあそいつが犯人」
「と、考えるのは早計だ。近所にある工務店である以上、たまたま通りかかったと言われればそれまでだからな。とりあえずタイヤ痕とタイヤを撮影して鑑識に送ってある。仕事用らしくボディはダークグレーで窓には黒のスモークを貼ってあり胡散臭いのは間違いない」
「他にも何かありましたか」
「工務店の社名をカドマに伝えた」
「それは?」
「窃盗犯に鳶職のヤツがいたろ。ひょっとしたらと思ってカマをかけてもらったら、やはりそこで仕事をしたことがあると話したそうだ」
「ますます怪しいですね」
「だが家宅捜索するにはまだ弱い。とりあえずそこに絞って証拠固めのセンだな」
※ ※ ※ ※ ※
店内が盛り上がってきた22時過ぎの頃に、やってきたのは野球帽にサングラスとマスクで顔を隠し、黒っぽいスタジャンにジーンズに運動靴の、場違いな若者とミドウだった。
キョロキョロと見回したあと、クロを見つけてやってくる。そばに来てようやくマキの存在に気がついた。
「うわぉ、マキちゃんか。わからなかったよ」
「リコです、はじめましてぇ」
立ち上がり、よけいなこと言うなといわんばかりのひきつった笑顔で迎えて、若者とミドウを座らせる。
入り口近くからミドウ、若者、クロ、マキの順に座ると、若者が女性だと気がついた。
「ミドウさん、こちらが?」
「そ、人気者のクミちゃん。で、こっちがクミちゃんのバックにいる[そのスジ]の人ね」
ミドウが流れでクロをクミに紹介し、強面黒スーツに怯えながら、クミはよろしくと会釈をした。
「ふん、助けてやるから忘れるなよ。で、くだんの人物はどうした」
「あと尾けてきてたから、もうすぐ入ってくるんじゃないかな」
ミドウの言葉どおり、勢いよく扉が開き男が飛び込んできた。獲物を探すようにキョロキョロしたあと、こちらに気づき、つかつかと近寄るとクミの帽子を剥ぎ取る。
「クミちゃん、探したよ。さぁ行こう、君の望むとおり贅沢させてあげるから、私と一緒に旅に出よう」
いちばん奥のボックス席にクロが座ると、隣にリコになったマキが座り、その隣にママが座る。
水割りのセットとウイスキーのボトルがテーブルに置かれ、リコが水割りをつくるとクロの前に置く。
「サマになってるな」
変装のためかウェーブのかかったセミロングのウィッグを被り、胸元が大きく空いたセクシーなスーツを着て、両膝をクロの方に向けている。たしかに水商売経験者のようだった。
「さきほどママにレクチャーしてもらいました。ママ、こちらがミドウさんの知り合いの[そのスジ]の方です」
本職を明かせないい以上言葉を濁して伝えるしかなく、ママはクロの外見で即座に納得した。
「じゃあリコちゃん、あとはお願いね。わからないことがあったらボーイに訊いてね」
[そのスジ]に関わらないようにママはそそくさと席を離れる。苦笑いしながらクロは水割りに手をつけると顔をしかめる。
「なんだ、中味はウーロン茶か」
「すいません、私がママに頼みました」
「いいさ、酔うわけにはいかないからな。それよりあれからどうなったんだ」
客とキャストの会話をよそおいながら互いの情報を交換しはじめる。
「衣装を借りながらそれとなく話していたところ、クミちゃんはもともとラウンジのキャストとして働いてたんですが、もっと稼ぎたいという理由でデリヘル嬢になったそうです。それで最近しつこく言い寄る客に困っていたと」
「よく聞くパターンだな。こっちも生安で店のこと聞いてきた。[ショーラン]のママはやり手で他にも何店か風俗店をやっている、このビルも持ちビルでな、2階にデリヘルの基地がありそこの責任者はママの息子だそうだ」
「ああ、それでデリヘル嬢に……。ミドウさんはママと知り合いで──ホントに顔が広いですね──で、相談されてボディガードを兼ねてここで働いてるそうです」
「ふん、そういう繋がりか。俺をダシにしやがって。ま、それならそうしてやるさ。これで貸しをひとつつくれる」
そのつきまとい客に「そのコにつきまとうんじゃねぇ」と強面の班長に言ってもらうつもりなんだろうなとマキも考えていた。
「それはそうと窃盗サイトの方はどうなりました」
店は混んできて八割ほど席が埋まってきていた、念の為聴かれないように顔を寄せて小声で話しはじめる。
「現場に行ってクルマの音を聞いたという方にもう一度うかがってきた。大きなクルマというのが引っかかってな、よくよく聞いたところトラックより小さくて普通車より大きな感じだったそうだ。ということはワンボックスカーあたりだと予想した。さらに防犯カメラにそれらしい車体が映ってないことから、ひょっとして近辺の範囲にまだいるのではと思い探してみたら現場に残ってたタイヤ痕と同じようなタイヤのワンボックスカーを見つけた」
「じゃあそいつが犯人」
「と、考えるのは早計だ。近所にある工務店である以上、たまたま通りかかったと言われればそれまでだからな。とりあえずタイヤ痕とタイヤを撮影して鑑識に送ってある。仕事用らしくボディはダークグレーで窓には黒のスモークを貼ってあり胡散臭いのは間違いない」
「他にも何かありましたか」
「工務店の社名をカドマに伝えた」
「それは?」
「窃盗犯に鳶職のヤツがいたろ。ひょっとしたらと思ってカマをかけてもらったら、やはりそこで仕事をしたことがあると話したそうだ」
「ますます怪しいですね」
「だが家宅捜索するにはまだ弱い。とりあえずそこに絞って証拠固めのセンだな」
※ ※ ※ ※ ※
店内が盛り上がってきた22時過ぎの頃に、やってきたのは野球帽にサングラスとマスクで顔を隠し、黒っぽいスタジャンにジーンズに運動靴の、場違いな若者とミドウだった。
キョロキョロと見回したあと、クロを見つけてやってくる。そばに来てようやくマキの存在に気がついた。
「うわぉ、マキちゃんか。わからなかったよ」
「リコです、はじめましてぇ」
立ち上がり、よけいなこと言うなといわんばかりのひきつった笑顔で迎えて、若者とミドウを座らせる。
入り口近くからミドウ、若者、クロ、マキの順に座ると、若者が女性だと気がついた。
「ミドウさん、こちらが?」
「そ、人気者のクミちゃん。で、こっちがクミちゃんのバックにいる[そのスジ]の人ね」
ミドウが流れでクロをクミに紹介し、強面黒スーツに怯えながら、クミはよろしくと会釈をした。
「ふん、助けてやるから忘れるなよ。で、くだんの人物はどうした」
「あと尾けてきてたから、もうすぐ入ってくるんじゃないかな」
ミドウの言葉どおり、勢いよく扉が開き男が飛び込んできた。獲物を探すようにキョロキョロしたあと、こちらに気づき、つかつかと近寄るとクミの帽子を剥ぎ取る。
「クミちゃん、探したよ。さぁ行こう、君の望むとおり贅沢させてあげるから、私と一緒に旅に出よう」
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