29 / 49
第一話 ある老人の死
その5
しおりを挟む
「班長はどうしてそう考えたんです」
今度はクロに視線が集まる。
「カドマと同じ意見だということと、見届け人らしいクルマが見つからなかったこと、それにイワミが三回も壱ノ宮署管轄内で犯行に及んだこと、それに……ミドウが絡んでいるということだ」
その意見にマキが反応する。
「あのう、ミドウさんが絡むというのは重要なんですか」
「割田内外の件を思い出してくれ。死亡未届の事故だったはずが無理心中未遂という背景がみつかったろう、今回もまだ俺達が気づいてない事実がある可能性がある。マキくん、待たせたな。ミドウに勝負の報酬を取り立ててこい」
「はいー! よろこんでー!!」
「居酒屋の店員かよ」
タマがふたたびボヤく。
「じゃああらためて。ミツはサイバー犯罪対策課へ出向、マキくんはミドウのところへ、タマは──カドマ、タマの取り調べの調書をつけてくれ」
「了解」
──やり過ぎ防止のために見張りをつけられたな──
マキとミツはさり気なく目を合わせて、お互いそう思った。
「聞き込みは俺が行く。ミツ以外は戻ってもう一度話をする。以上だ」
クロの指示に従い、それぞれの担当へと向かう。マキは早速T.M.S探偵事務所へと走った。
※ ※ ※ ※ ※
T.M.S探偵事務所の入り口でマキは立ち尽くした。
[マキちゃんゴメーン、仕事が入ったからまた今度ねー]
マジックインキで手書きで書かれている扉に貼られた紙を読んで、マキは叫ぶ。
「逃げたなー、あんのヤロー」
怒りにまかせ張り紙を剥がす。するとまた一枚出てきた。
[そんなに怒らないで落ち着こうよ]
「ふざけんなー」
またもや剥がすと、また出てきた。
[張り紙だから答えは書けないんでヒントね。マキちゃんがオレと会ってからの行動を思い出してねー]
「は? どういうこと」
今度は静かに剥がし、しげしげと読む。
「ミドウさんと会ってから? いつの頃だろう? そんなに経ってないよね……ひと月くらいだっけ……」
昂ぶった気持ちが落ち着いてきて、考えはじめる。ふと扉をみるとまだ張り紙があった。
[ラストだよ。ヒントは千秋町]
「千秋町……って、割田内外の自宅があったところで今回の事件があったところだ」
つまり割田内外の家と関係がある?! マキはあらためて出会ってからどう関わったか思い出す。
「ええっと、割田内外のところでのびていて、森友総合病院に運ばれて、それから……病院でまた会って、それから……現場近くでチラシ配りのバイトしてるのに出くわし……これの事? チラシ配りが何か関係してる?」
そこで考えが止まってしまったので、仕方なくクロに電話してミドウに逃げられたことを報告する。
「ったく、なに考えてんだか。マキくん、ヤツのバイト先なら知っている、場所をメールするからそこでチラシを配っている範囲と何を配っていたか、それとミドウとどう関わったのかを調べてくれ」
「了解しました」
通話を切ると、マキは深呼吸して気合を入れなおす。
「絶対捕まえてやるからなぁ」
※ ※ ※ ※ ※
署にもどるとクルマに乗り込んで、バイト先であるチラシ配りの会社に向かう。到着すると責任者に会って(いつも通り信用してもらうまでのやり取りをしたあと)話を訊く。
「そうねぇ、ミドウちゃんには世話になってるけど……ポスティングを自分からやらせてくれって言ったの覚えているわ」
歳の頃なら四十くらいの肝っ玉母さんみたいな責任者が思い出しながら話してくれる。
「別のバイト先のチラシを持ってきて、これ配る仕事持ってきたって。別にウチを通さなくてもいいのに、けっこう義理堅いのよねぇ」
にこやかに話されるので、こういうのが人たらしの秘訣なんだなと内心思う。
「そのチラシってありますか」
「ううん、ミドウちゃん持ち込みの配りきりだったから残ってないわ」
「どんな内容だったかはどうです」
「あー、それは覚えてる。なにせウチに合わない内容だったから。……エッチな仕事のヤ・ツ」
「えっ」
──エッチな仕事って……、あっ! ──
ミドウが風俗嬢の送迎をしていたのを思い出した。
「そういうのって大丈夫なんですか」
「ウチで扱ってるのと一緒だと困るけど個別に配るんならいいよって。ミドウちゃんひとりで配ってたしね」
──怪しい。やっぱり何かある──
礼をいうとマキはクルマに乗り込み、スマホを使ってミドウの足取りを思い出す。
「あった。デリヘルの店[デリヘイッチョウ]場所は……」
市街地中心部にあるそこに向かうと、店舗兼待機所前に駐車して、住所を確認。間違いない──のだが、女ひとりで入るのに躊躇する。
「うーん、どうしよう。ちょっと確認するだけなんだけど……」
どうやって入ろう確認しようかと迷っていると、くだんのデリヘル店と同じビルの一階にあるクラブの扉が開き、白いスーツの男がポリバケツを持って出てくる。
「ミドウさん!!」
マキはクルマから降りると、ダッシュしてミドウの腕を取る。
「よっしゃぁ、捕まえた。逮捕する!!」
驚くミドウを無視して手錠を取りだして、かける──。
今度はクロに視線が集まる。
「カドマと同じ意見だということと、見届け人らしいクルマが見つからなかったこと、それにイワミが三回も壱ノ宮署管轄内で犯行に及んだこと、それに……ミドウが絡んでいるということだ」
その意見にマキが反応する。
「あのう、ミドウさんが絡むというのは重要なんですか」
「割田内外の件を思い出してくれ。死亡未届の事故だったはずが無理心中未遂という背景がみつかったろう、今回もまだ俺達が気づいてない事実がある可能性がある。マキくん、待たせたな。ミドウに勝負の報酬を取り立ててこい」
「はいー! よろこんでー!!」
「居酒屋の店員かよ」
タマがふたたびボヤく。
「じゃああらためて。ミツはサイバー犯罪対策課へ出向、マキくんはミドウのところへ、タマは──カドマ、タマの取り調べの調書をつけてくれ」
「了解」
──やり過ぎ防止のために見張りをつけられたな──
マキとミツはさり気なく目を合わせて、お互いそう思った。
「聞き込みは俺が行く。ミツ以外は戻ってもう一度話をする。以上だ」
クロの指示に従い、それぞれの担当へと向かう。マキは早速T.M.S探偵事務所へと走った。
※ ※ ※ ※ ※
T.M.S探偵事務所の入り口でマキは立ち尽くした。
[マキちゃんゴメーン、仕事が入ったからまた今度ねー]
マジックインキで手書きで書かれている扉に貼られた紙を読んで、マキは叫ぶ。
「逃げたなー、あんのヤロー」
怒りにまかせ張り紙を剥がす。するとまた一枚出てきた。
[そんなに怒らないで落ち着こうよ]
「ふざけんなー」
またもや剥がすと、また出てきた。
[張り紙だから答えは書けないんでヒントね。マキちゃんがオレと会ってからの行動を思い出してねー]
「は? どういうこと」
今度は静かに剥がし、しげしげと読む。
「ミドウさんと会ってから? いつの頃だろう? そんなに経ってないよね……ひと月くらいだっけ……」
昂ぶった気持ちが落ち着いてきて、考えはじめる。ふと扉をみるとまだ張り紙があった。
[ラストだよ。ヒントは千秋町]
「千秋町……って、割田内外の自宅があったところで今回の事件があったところだ」
つまり割田内外の家と関係がある?! マキはあらためて出会ってからどう関わったか思い出す。
「ええっと、割田内外のところでのびていて、森友総合病院に運ばれて、それから……病院でまた会って、それから……現場近くでチラシ配りのバイトしてるのに出くわし……これの事? チラシ配りが何か関係してる?」
そこで考えが止まってしまったので、仕方なくクロに電話してミドウに逃げられたことを報告する。
「ったく、なに考えてんだか。マキくん、ヤツのバイト先なら知っている、場所をメールするからそこでチラシを配っている範囲と何を配っていたか、それとミドウとどう関わったのかを調べてくれ」
「了解しました」
通話を切ると、マキは深呼吸して気合を入れなおす。
「絶対捕まえてやるからなぁ」
※ ※ ※ ※ ※
署にもどるとクルマに乗り込んで、バイト先であるチラシ配りの会社に向かう。到着すると責任者に会って(いつも通り信用してもらうまでのやり取りをしたあと)話を訊く。
「そうねぇ、ミドウちゃんには世話になってるけど……ポスティングを自分からやらせてくれって言ったの覚えているわ」
歳の頃なら四十くらいの肝っ玉母さんみたいな責任者が思い出しながら話してくれる。
「別のバイト先のチラシを持ってきて、これ配る仕事持ってきたって。別にウチを通さなくてもいいのに、けっこう義理堅いのよねぇ」
にこやかに話されるので、こういうのが人たらしの秘訣なんだなと内心思う。
「そのチラシってありますか」
「ううん、ミドウちゃん持ち込みの配りきりだったから残ってないわ」
「どんな内容だったかはどうです」
「あー、それは覚えてる。なにせウチに合わない内容だったから。……エッチな仕事のヤ・ツ」
「えっ」
──エッチな仕事って……、あっ! ──
ミドウが風俗嬢の送迎をしていたのを思い出した。
「そういうのって大丈夫なんですか」
「ウチで扱ってるのと一緒だと困るけど個別に配るんならいいよって。ミドウちゃんひとりで配ってたしね」
──怪しい。やっぱり何かある──
礼をいうとマキはクルマに乗り込み、スマホを使ってミドウの足取りを思い出す。
「あった。デリヘルの店[デリヘイッチョウ]場所は……」
市街地中心部にあるそこに向かうと、店舗兼待機所前に駐車して、住所を確認。間違いない──のだが、女ひとりで入るのに躊躇する。
「うーん、どうしよう。ちょっと確認するだけなんだけど……」
どうやって入ろう確認しようかと迷っていると、くだんのデリヘル店と同じビルの一階にあるクラブの扉が開き、白いスーツの男がポリバケツを持って出てくる。
「ミドウさん!!」
マキはクルマから降りると、ダッシュしてミドウの腕を取る。
「よっしゃぁ、捕まえた。逮捕する!!」
驚くミドウを無視して手錠を取りだして、かける──。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

秘められた遺志
しまおか
ミステリー
亡くなった顧客が残した謎のメモ。彼は一体何を託したかったのか!?富裕層専門の資産運用管理アドバイザーの三郷が、顧客の高岳から依頼されていた遺品整理を進める中、不審物を発見。また書斎を探ると暗号めいたメモ魔で見つかり推理していた所、不審物があると通報を受けた顔見知りであるS県警の松ケ根と吉良が訪れ、連行されてしまう。三郷は逮捕されてしまうのか?それとも松ケ根達が問題の真相を無事暴くことができるのか!?
カフェ・シュガーパインの事件簿
山いい奈
ミステリー
大阪長居の住宅街に佇むカフェ・シュガーパイン。
個性豊かな兄姉弟が営むこのカフェには穏やかな時間が流れる。
だが兄姉弟それぞれの持ち前の好奇心やちょっとした特殊能力が、巻き込まれる事件を解決に導くのだった。
尖閣~防人の末裔たち
篠塚飛樹
ミステリー
元大手新聞社の防衛担当記者だった古川は、ある団体から同行取材の依頼を受ける。行き先は尖閣諸島沖。。。
緊迫の海で彼は何を見るのか。。。
※この作品は、フィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
※無断転載を禁じます。
リモート刑事 笹本翔
雨垂 一滴
ミステリー
『リモート刑事 笹本翔』は、過去のトラウマと戦う一人の刑事が、リモート捜査で事件を解決していく、刑事ドラマです。
主人公の笹本翔は、かつて警察組織の中でトップクラスの捜査官でしたが、ある事件で仲間を失い、自身も重傷を負ったことで、外出恐怖症(アゴラフォビア)に陥り、現場に出ることができなくなってしまいます。
それでも、彼の卓越した分析力と冷静な判断力は衰えず、リモートで捜査指示を出しながら、次々と難事件を解決していきます。
物語の鍵を握るのは、翔の若き相棒・竹内優斗。熱血漢で行動力に満ちた優斗と、過去の傷を抱えながらも冷静に捜査を指揮する翔。二人の対照的なキャラクターが織りなすバディストーリーです。
翔は果たして過去のトラウマを克服し、再び現場に立つことができるのか?
翔と優斗が数々の難事件に挑戦します!
独身寮のふるさとごはん まかないさんの美味しい献立
水縞しま
ライト文芸
旧題:独身寮のまかないさん ~おいしい故郷の味こしらえます~
第7回ライト文芸大賞【料理・グルメ賞】作品です。
◇◇◇◇
飛騨高山に本社を置く株式会社ワカミヤの独身寮『杉野館』。まかない担当として働く有村千影(ありむらちかげ)は、決まった予算の中で献立を考え、食材を調達し、調理してと日々奮闘していた。そんなある日、社員のひとりが失恋して落ち込んでしまう。食欲もないらしい。千影は彼の出身地、富山の郷土料理「ほたるいかの酢味噌和え」をこしらえて励まそうとする。
仕事に追われる社員には、熱々がおいしい「味噌煮込みうどん(愛知)」。
退職しようか思い悩む社員には、じんわりと出汁が沁みる「聖護院かぶと鯛の煮物(京都)」。
他にも飛騨高山の「赤かぶ漬け」「みだらしだんご」、大阪の「モダン焼き」など、故郷の味が盛りだくさん。
おいしい故郷の味に励まされたり、癒されたり、背中を押されたりするお話です。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
満月に狂う君と
川端睦月
ミステリー
【『青年小児科医』×『曲者中年刑事』が赤い瞳の怪人の謎に迫るサイエンスミステリー】
満月の夜、小児科医の糸原は、直属の上司である笹本が心肺停止状態で自身の勤める病院へ搬送された、との報を受ける。取り急ぎ病院へと向かう糸原だったが、その前に赤い瞳の人影が立ちはだかる。身構える糸原をよそに、人影は何かに気を取られるように立ち去っていった。
到着した病院で、糸原は笹本の妻と中学生の息子が行方知れずになっていること知る。そして、残されたもう一人の息子にも変化が現れ……
事件を担当する刑事の葛西に巻き込まれる形で、糸原は真相を探り始める。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる