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第一話 ある老人の死
その2
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「どうしたの、変な顔して」
「そのミドウさんに振り回されているんですよぉ」
マキはここしばらくの事だけでなく、ミドウに出会ってからの出来事を話した。
「おかげでミドウ番なんていう係なんですよ、非道いと思いませんか」
マキのほぼ愚痴である話しを、礼子は微笑みを絶やさず聞き終わると、困ったものねと呟いてくれた。
「マキさんはミドウ番がイヤなの」
「そりゃあ嫌ですよ。せっかく刑事課に配属されたのに、なんか捜査から外されたみたいで。特に玉ノ井さんなんかそうしてるし」
「ああ。玉ノ井さんはねぇ」
「とにかく見返してやりたいんですよ、どうしたらいいと思います」
いくら刑事の、しかも上司の妻とはいえ的外れな質問である。だが意外にも礼子は的確なアドバイスをしてくれた。
「そうねぇ。んーと、ミドウちゃんにこう訊いてみたらどうかしら」
それを聞いたマキはなるほどと表情が明るくなり、礼子に感謝の言葉を述べた。
「いいわよそんなの。上手くいくかどうか分からないでしょ、成功したらナイショで教えてね」
「はい」
店を出るともう日が暮れていた。ひとり歩きは危ないからと礼子を家まで送り、押場の一角にある一軒家に着くと玄関前で別れる。時間を確認、午後七時をまわっていた。
今から名古屋に行くのが面倒になったマキは駅前の居酒屋[型破り店長]に向かう。ひょっとしたらミドウがいるかもしれないからだ。
※ ※ ※ ※ ※
到着し店内に入ると、ホール担当にミドウが来てるか訊ねる。やっぱり居た。
「こんばんは、ミドウさん」
「うわぉ、どうしたのマキちゃん」
相変わらず座敷席のコーナー、そのど真ん中に陣取りいつもの白スーツ姿で、大ジョッキを五つ並べてツマミは肉じゃがだけを食べていた。その景色を見てマキは今さらながら変な人だなと思う。
「ミドウさん、この前から訊きたかったんですけど」
「なに」
「なんで、こんなはた迷惑な飲み方をするんです」
ミドウは二杯目のジョッキを飲み干して答える。
「マキちゃん、オレはね、コドクが好きなんだよ」
「独りが好きならカウンターで飲めばいいじゃないですか」
「違う違う、独りじゃなくてコドクが好きなんだよ」
「はあ?」
マキの困惑顔にミドウは説明を続ける。
「カウンターで独りで飲むのはコドクじゃないんだよ、カウンターには独り飲みの仲間がいる。一人だけど独りじゃない。だがここなら回りは団体飲みばかりだ。ここでなら独り飲みはオレしかいない、だからコドク感を感じられるんだよ」
マキはミドウの対面に座りながら周りを見回す。六人掛けのテーブル席はそれぞれにグループが座り盛り上がっている、そのど真ん中で独りっきりで飲むのが好きという感覚はどうしても理解できなかった。
「私ならまわりの視線に耐えられませんけどねぇ」
「そこに座りに来てるんだから素質あると思うよ」
「ありません。そんなことよりミドウさん、お訊きしたいことがあります」
「なんだい」
「あの日現場にいなかったのは認めます。ですが、あの店があの日に狙われるとどうして分かったんです。前から知ってないと無理ですよね」
「なんだそんなことか。クロならもう判っているんじゃない? 訊いてみたら」
班長なら判っている!? マキはニヤつくミドウに不愉快な気分になる。
「わかりました。ミドウさん、勝負しましょう。あの日にあの店が狙われた理由のどっちかを私が当てたら、もう片方の方を教えてください」
マキの申し出にちょっと驚いたあと、ミドウはさらにニヤつきながら肉じゃがのイモをちょいと摘んで口に放り込む。
「ふーん、誰かに入れ知恵されたかな。だがいいだろう、その勝負乗った。期限は明後日まで、クロ達からヒントをもらうのはいいが答えを訊くのは無しでどうだ」
「乗った」
マキは店員を呼ぶと、ハイボールとポテトサラダを頼んで、ミドウと勝負開始の乾杯をした。
※ ※ ※ ※ ※
「また妙な勝負をしたな」
翌日、班長に昨日の出来事を報告すると、クロは苦笑いしながらそう言った。
「班長は、あの店が狙われたのは分かっているんですか」
「ああ、まあな。カドマの聴取でもウラは取れてる。ふむ、なら皆んな、マキ君にどうして狙われたか教えるなよ」
やり取りを聞いていたメンバー全員が頷く。
「それとミツ、マキ君と被害者に話を聞いてこい。狙われた理由が解ってもマキ君に教えるなよ」
「了解」
マキはミツと共に喫茶店のママさんに話を訊くために出かけた。
「ミッツ先輩は狙われた理由は解っているんですか」
「いんや。僕はまだ現場をしっかり見てないから分かんない」
「見れば解るんですか」
「それはなんとも。ただ情報不足なのは間違いないかな」
現場の喫茶店に着くと、駐車場に覆面パトカーを停めると、ミツは周りを調べる。
「なるほど、そういうことか」
あっという間に理由を解いたらしく、マキは驚く。
「ミッツ先輩、もう解ったんですか」
「まあね。たぶん合ってると思う、マキ君もよく見てごらん」
黒田班のお荷物的なポジションのミツに先手を取られてマキは焦った。
「そのミドウさんに振り回されているんですよぉ」
マキはここしばらくの事だけでなく、ミドウに出会ってからの出来事を話した。
「おかげでミドウ番なんていう係なんですよ、非道いと思いませんか」
マキのほぼ愚痴である話しを、礼子は微笑みを絶やさず聞き終わると、困ったものねと呟いてくれた。
「マキさんはミドウ番がイヤなの」
「そりゃあ嫌ですよ。せっかく刑事課に配属されたのに、なんか捜査から外されたみたいで。特に玉ノ井さんなんかそうしてるし」
「ああ。玉ノ井さんはねぇ」
「とにかく見返してやりたいんですよ、どうしたらいいと思います」
いくら刑事の、しかも上司の妻とはいえ的外れな質問である。だが意外にも礼子は的確なアドバイスをしてくれた。
「そうねぇ。んーと、ミドウちゃんにこう訊いてみたらどうかしら」
それを聞いたマキはなるほどと表情が明るくなり、礼子に感謝の言葉を述べた。
「いいわよそんなの。上手くいくかどうか分からないでしょ、成功したらナイショで教えてね」
「はい」
店を出るともう日が暮れていた。ひとり歩きは危ないからと礼子を家まで送り、押場の一角にある一軒家に着くと玄関前で別れる。時間を確認、午後七時をまわっていた。
今から名古屋に行くのが面倒になったマキは駅前の居酒屋[型破り店長]に向かう。ひょっとしたらミドウがいるかもしれないからだ。
※ ※ ※ ※ ※
到着し店内に入ると、ホール担当にミドウが来てるか訊ねる。やっぱり居た。
「こんばんは、ミドウさん」
「うわぉ、どうしたのマキちゃん」
相変わらず座敷席のコーナー、そのど真ん中に陣取りいつもの白スーツ姿で、大ジョッキを五つ並べてツマミは肉じゃがだけを食べていた。その景色を見てマキは今さらながら変な人だなと思う。
「ミドウさん、この前から訊きたかったんですけど」
「なに」
「なんで、こんなはた迷惑な飲み方をするんです」
ミドウは二杯目のジョッキを飲み干して答える。
「マキちゃん、オレはね、コドクが好きなんだよ」
「独りが好きならカウンターで飲めばいいじゃないですか」
「違う違う、独りじゃなくてコドクが好きなんだよ」
「はあ?」
マキの困惑顔にミドウは説明を続ける。
「カウンターで独りで飲むのはコドクじゃないんだよ、カウンターには独り飲みの仲間がいる。一人だけど独りじゃない。だがここなら回りは団体飲みばかりだ。ここでなら独り飲みはオレしかいない、だからコドク感を感じられるんだよ」
マキはミドウの対面に座りながら周りを見回す。六人掛けのテーブル席はそれぞれにグループが座り盛り上がっている、そのど真ん中で独りっきりで飲むのが好きという感覚はどうしても理解できなかった。
「私ならまわりの視線に耐えられませんけどねぇ」
「そこに座りに来てるんだから素質あると思うよ」
「ありません。そんなことよりミドウさん、お訊きしたいことがあります」
「なんだい」
「あの日現場にいなかったのは認めます。ですが、あの店があの日に狙われるとどうして分かったんです。前から知ってないと無理ですよね」
「なんだそんなことか。クロならもう判っているんじゃない? 訊いてみたら」
班長なら判っている!? マキはニヤつくミドウに不愉快な気分になる。
「わかりました。ミドウさん、勝負しましょう。あの日にあの店が狙われた理由のどっちかを私が当てたら、もう片方の方を教えてください」
マキの申し出にちょっと驚いたあと、ミドウはさらにニヤつきながら肉じゃがのイモをちょいと摘んで口に放り込む。
「ふーん、誰かに入れ知恵されたかな。だがいいだろう、その勝負乗った。期限は明後日まで、クロ達からヒントをもらうのはいいが答えを訊くのは無しでどうだ」
「乗った」
マキは店員を呼ぶと、ハイボールとポテトサラダを頼んで、ミドウと勝負開始の乾杯をした。
※ ※ ※ ※ ※
「また妙な勝負をしたな」
翌日、班長に昨日の出来事を報告すると、クロは苦笑いしながらそう言った。
「班長は、あの店が狙われたのは分かっているんですか」
「ああ、まあな。カドマの聴取でもウラは取れてる。ふむ、なら皆んな、マキ君にどうして狙われたか教えるなよ」
やり取りを聞いていたメンバー全員が頷く。
「それとミツ、マキ君と被害者に話を聞いてこい。狙われた理由が解ってもマキ君に教えるなよ」
「了解」
マキはミツと共に喫茶店のママさんに話を訊くために出かけた。
「ミッツ先輩は狙われた理由は解っているんですか」
「いんや。僕はまだ現場をしっかり見てないから分かんない」
「見れば解るんですか」
「それはなんとも。ただ情報不足なのは間違いないかな」
現場の喫茶店に着くと、駐車場に覆面パトカーを停めると、ミツは周りを調べる。
「なるほど、そういうことか」
あっという間に理由を解いたらしく、マキは驚く。
「ミッツ先輩、もう解ったんですか」
「まあね。たぶん合ってると思う、マキ君もよく見てごらん」
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