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第一話 ある老人の死
ミドウからの挑戦2
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「ふうん、ミドウさんのアリバイ有りか。でもそしたらなんで[来客]なんてメールしたんだろう」
報告書作成のため並んで仕事をしているミツに、マキは先程の話をしていた。
「それを思い出して問いただしたら、『たぶん来るんじゃないかなってカンで送った』ですって。ホントにもう口惜しいったらないですよ」
憤慨しながらキーボードを打つ、というより叩きつけるように入力しているマキに対して、ミツは軽やかにキーボードを打つ。まるでピアノを演奏しているようだった。
「よし、報告書できたっと。そっちはどう」
「もう少しです。てかミッツ先輩速いですね」
「まあね。内容が違うから手伝えないけど待っててあげるから頑張ってな」
最近のミッツ先輩は明るくなったような気がする。もちろん玉ノ井部長には相変わらず苦手を通り越して拒絶反応を示してしまうが、多少は人間味が出てきた。出会った頃のゾンビか悪霊に憑かれていたのような雰囲気がなくなった気がする。
「でも逮捕の手柄、僕でいいのかい。マキくんはあんなに手柄欲しがってたじゃないか」
「そうですけど、なんか釈然としなくて……」
マキ自身、ミドウに手柄を下さいと言ったのは覚えているが、本当にサッと用意してしかもくれたのだ。さすがにバカにされた気分になる。
──いったいどうやって事件があると知ったんだろう、ミドウさんが自ら事件を起こしたというのがシンプルな答えだけど、そんな人じゃないと思う──
警察官が先入観で決めつけるのはよくないと分かっているものの、なにか違うとは思う。
余計なことを考えながら報告書を作成したものだから誤字脱字が多く、クロにやり直しを何回もいわれてしまうのだった。
※ ※ ※ ※ ※
身も心もぼろぼろになったマキが宿舎に帰ると、ベッドに倒れ込むように寝る。だが心のもやもやが気になって寝れそうになかった。
──う~ん、もやもやする~。あの時助けてくれたの絶対ミドウさんだよな~。でもあそこに居なかった証拠があるし~。そもそもなんであの喫茶店にあの時間に犯人が来るって知ってたんだろぅ──
謎が多過ぎる……、考えてもしょうがない、とにかく寝よう、まずは休もう。そう切り替えたマキは無理矢理寝ようとした──のだが即寝落ちしたのだった。
※ ※ ※ ※ ※
ここしばらくの頑張りのご褒美というかたちで、伸び伸びになった非番をもらうことになった。おかげで昼近くというかおおいに昼過ぎ、というか夕方まで寝てしまったのだ。
「うー、せっかくの休みがぁー」
休日を寝過ぎるとどうして後悔してしまうのだろうか。ベッドの上でのたうち回ったが、このまま部屋に閉じこもっててもしょうがない。シャワーを浴びて出かける用意をすると、当てもなく外に繰り出した。
※ ※ ※ ※ ※
「さて、どうするかなぁ」
久しぶりに名古屋にでも行こうか、今からならオシャレなカフェ・バーでゆったりしたあと、締めに現実モードに切り替えるためガッツリと、ヤサイ・ニンニク・アブラ・カラメ・マシマシのラーメンを食べて帰ると。そんな予定を立てて歩いていると交差点で見知った人とばったり会う。
「あら、マキさんじゃない」
「あ、班長の……礼子さん」
配属されたばかりのときクロの自宅に招かれて紹介してもらったクロの妻、礼子だった。
「どうしたの、お仕事中なの」
「いえ、非番で。さっき起きたところなんです」
足を止めて礼子に窃盗事件の出来事を話せるところだけ話した。
「まぁ、それは大変だったわねぇ」
礼子はマキの顔を覗き込むと、よかったらお茶しないと誘う。クロが自宅に招いた理由は男では解らない悩みを礼子に話してくれというものだった。
マキは立てたプランと礼子の提案のどちらを選ぼうか迷った結果、礼子の案内で喫茶店に向かうことにした。
※ ※ ※ ※ ※
礼子に案内された喫茶店はこじんまりとした、住宅街の間にあるところだった。
マキが壱ノ宮市に来たとき何に驚いたかというと喫茶店の多さである。大げさにいえば百メートル毎にある感じで、さらに驚いてるのはそれでも成り立っていることだった。
「不思議ですよねぇ」
「よそは違うの」
「名古屋もそれなりにありますが……、そうですね木曽川を渡った隣の笠松町になると違いがはっきり分かります」
「へぇ~、そうなんだ」
「礼子さんの出身はどちらなんですか」
「あら、聴き込み調査かしら」
「あ、いえ、そうつもりじゃなく」
「ふふ、生まれも育ちも壱ノ宮よ。大学だけは名古屋に行ったけど、就職もこっち。結婚してからは専業主婦よ」
礼子は微笑むとホットミルクを口にする。その微笑みがとても素敵で、上司の奥さんということで緊張していたが、みるみるうちに解けていくのを自分で感じていた。
──初めて会ったときキレイな人だとは思ったけど、心根もキレイな素敵な人だな。班長は閻魔大王なら礼子さんは観音菩薩って感じ──
「どうしたの」
「いえ、お似合いの夫婦だなぁって」
「あら、ありがとう。でも私たちが結婚したのってミドウちゃんのおかげなのよ」
礼子が微笑みながらそう言うが、マキは一気に気持ちが沈んだ。ここでもミドウさんが絡むのかと。
報告書作成のため並んで仕事をしているミツに、マキは先程の話をしていた。
「それを思い出して問いただしたら、『たぶん来るんじゃないかなってカンで送った』ですって。ホントにもう口惜しいったらないですよ」
憤慨しながらキーボードを打つ、というより叩きつけるように入力しているマキに対して、ミツは軽やかにキーボードを打つ。まるでピアノを演奏しているようだった。
「よし、報告書できたっと。そっちはどう」
「もう少しです。てかミッツ先輩速いですね」
「まあね。内容が違うから手伝えないけど待っててあげるから頑張ってな」
最近のミッツ先輩は明るくなったような気がする。もちろん玉ノ井部長には相変わらず苦手を通り越して拒絶反応を示してしまうが、多少は人間味が出てきた。出会った頃のゾンビか悪霊に憑かれていたのような雰囲気がなくなった気がする。
「でも逮捕の手柄、僕でいいのかい。マキくんはあんなに手柄欲しがってたじゃないか」
「そうですけど、なんか釈然としなくて……」
マキ自身、ミドウに手柄を下さいと言ったのは覚えているが、本当にサッと用意してしかもくれたのだ。さすがにバカにされた気分になる。
──いったいどうやって事件があると知ったんだろう、ミドウさんが自ら事件を起こしたというのがシンプルな答えだけど、そんな人じゃないと思う──
警察官が先入観で決めつけるのはよくないと分かっているものの、なにか違うとは思う。
余計なことを考えながら報告書を作成したものだから誤字脱字が多く、クロにやり直しを何回もいわれてしまうのだった。
※ ※ ※ ※ ※
身も心もぼろぼろになったマキが宿舎に帰ると、ベッドに倒れ込むように寝る。だが心のもやもやが気になって寝れそうになかった。
──う~ん、もやもやする~。あの時助けてくれたの絶対ミドウさんだよな~。でもあそこに居なかった証拠があるし~。そもそもなんであの喫茶店にあの時間に犯人が来るって知ってたんだろぅ──
謎が多過ぎる……、考えてもしょうがない、とにかく寝よう、まずは休もう。そう切り替えたマキは無理矢理寝ようとした──のだが即寝落ちしたのだった。
※ ※ ※ ※ ※
ここしばらくの頑張りのご褒美というかたちで、伸び伸びになった非番をもらうことになった。おかげで昼近くというかおおいに昼過ぎ、というか夕方まで寝てしまったのだ。
「うー、せっかくの休みがぁー」
休日を寝過ぎるとどうして後悔してしまうのだろうか。ベッドの上でのたうち回ったが、このまま部屋に閉じこもっててもしょうがない。シャワーを浴びて出かける用意をすると、当てもなく外に繰り出した。
※ ※ ※ ※ ※
「さて、どうするかなぁ」
久しぶりに名古屋にでも行こうか、今からならオシャレなカフェ・バーでゆったりしたあと、締めに現実モードに切り替えるためガッツリと、ヤサイ・ニンニク・アブラ・カラメ・マシマシのラーメンを食べて帰ると。そんな予定を立てて歩いていると交差点で見知った人とばったり会う。
「あら、マキさんじゃない」
「あ、班長の……礼子さん」
配属されたばかりのときクロの自宅に招かれて紹介してもらったクロの妻、礼子だった。
「どうしたの、お仕事中なの」
「いえ、非番で。さっき起きたところなんです」
足を止めて礼子に窃盗事件の出来事を話せるところだけ話した。
「まぁ、それは大変だったわねぇ」
礼子はマキの顔を覗き込むと、よかったらお茶しないと誘う。クロが自宅に招いた理由は男では解らない悩みを礼子に話してくれというものだった。
マキは立てたプランと礼子の提案のどちらを選ぼうか迷った結果、礼子の案内で喫茶店に向かうことにした。
※ ※ ※ ※ ※
礼子に案内された喫茶店はこじんまりとした、住宅街の間にあるところだった。
マキが壱ノ宮市に来たとき何に驚いたかというと喫茶店の多さである。大げさにいえば百メートル毎にある感じで、さらに驚いてるのはそれでも成り立っていることだった。
「不思議ですよねぇ」
「よそは違うの」
「名古屋もそれなりにありますが……、そうですね木曽川を渡った隣の笠松町になると違いがはっきり分かります」
「へぇ~、そうなんだ」
「礼子さんの出身はどちらなんですか」
「あら、聴き込み調査かしら」
「あ、いえ、そうつもりじゃなく」
「ふふ、生まれも育ちも壱ノ宮よ。大学だけは名古屋に行ったけど、就職もこっち。結婚してからは専業主婦よ」
礼子は微笑むとホットミルクを口にする。その微笑みがとても素敵で、上司の奥さんということで緊張していたが、みるみるうちに解けていくのを自分で感じていた。
──初めて会ったときキレイな人だとは思ったけど、心根もキレイな素敵な人だな。班長は閻魔大王なら礼子さんは観音菩薩って感じ──
「どうしたの」
「いえ、お似合いの夫婦だなぁって」
「あら、ありがとう。でも私たちが結婚したのってミドウちゃんのおかげなのよ」
礼子が微笑みながらそう言うが、マキは一気に気持ちが沈んだ。ここでもミドウさんが絡むのかと。
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