コドク 〜ミドウとクロ〜

藤井ことなり

文字の大きさ
上 下
24 / 49
第一話 ある老人の死

ミドウ番 その6

しおりを挟む
 深夜二時の逮捕劇から二時間、まもなく朝を迎えるだろうという頃、マキは調書を書き終え仮眠室で横になっていた。

 鑑識係が危険表示バリケードテープを張って、現場保存して調べに来たので、クロとミツも署に戻ってくる。
 寝不足の三人から事情を聞いて、カドマとタマのふたりが容疑者達の事情聴取をすることとなった。

※ ※ ※ ※ ※

「三人とも運転免許証を持っていたので、照会したところ微罪の前科まえがありました。現住所はそれぞれ神奈川と石川と山口です」

「そんな遠くからわざわざ来たのか」

 カドマの報告を聞いてクロが呆れると同時に理由を訊ねる。

「ネットのせいですよ。聞いて驚いたんですが、窃盗グループを募集するサイトがあるそうです。集合の日時と場所それに必要人数だけ表示されて、来られる者で強盗をするというやり方です」

「そんなサイトが。カドマすぐにミツに──」

「もうやらせてます。ですがもう閉鎖されてました。愛知県警本部に送るための報告書をミツに作らせてます」

「さすがだな。で、連中からは他に何を得られた」

「目立たない格好で指定された場所に行き、仕切り人に会って口頭でターゲットの店と目標を聞き、役割分担して窃盗、成功したら目の前で報酬を分け与え解散という流れなんてすが、今回は三人とも顔見知りだったので、仕切り人抜きでやったそうです」

「ということは、窃盗サイトと繋がりのありそうな仕切り人はいないということか」

「今のところは。偽証している可能性もあるので、もう少し調べてみます」

「頼む」

※ ※ ※ ※ ※

 その頃、仮眠をとったマキはTMS事務所に着き、ミドウに詰問していた。

「ミドウさん、昨夜は何処にいたんです」

 いつも通りの白いスーツ姿、さすがにジャケットはポールハンガーに帽子とともにかけてあるが、ベストスラックス姿で事務所のソファに寝ていたミドウは、眠そうにこたえる。

「深夜徘徊」

「どこでです、現場ででしょう、あの時灯りを点けて助けてくれんでしょう」

「どこの現場か知らないけど、マキちゃんに会うのは昨日ぶりだよ」

「じゃあ何処にいたんです」

「修文大学辺りの日光川の土手」

 予想外の場所を言われ一瞬言葉を失うが、はぐらかされてるとすぐ気づき、詰問のボルテージが上がる。

「なんでそんなすぐバレるウソを言うんです、偽証罪で逮捕しますよ」

「ホントだってば。最近ムーンウォークの練習してるんだよ。あそこでやると女子大生や女子高生が応援してくれるんで、やる気が出るんだ」

「真夜中にやったら怪しまれて悲鳴しか出ないでしょうが」

「だーって昼間だと勉強のジャマになっちゃうし」

「なら事務所でいいでしょ。正直に言ってください」

「ホントだってば。裏とってみなよ」

 もう会話は終わりだよばかりに背を向けて寝ようとするミドウに、マキは叩き起こしてやりたい衝動にかられるが、なんとか耐えた。

「わかりました。裏を取ってきますね」

 乱暴に事務所から出ていくとその足で修文大学に向かい、おそらく有るであろう防犯カメラをお願いして見せてもらうつもりだった。

※ ※ ※ ※ ※

 果たしてあったのだが、名刺を出してもなかなか警察だと信じてもらえない、いつもの手間取るやり取りをして三十分ほどしてようやく信じてもらい見せてもらうことになる。

「ええ、昨日というか今日の午前二時あたりで──外周の録画を──えっ」

 警備員と教師とともに画像を確認すると、たしかに白いスーツ姿の人物が日光川沿いで歩いているのが映っていた。

「ホントにいた。なんで……」

 マキが信じられないという顔をしていると、警備員が呟く。

「この人ですか。最近ちょくちょく見かけますよ、変な格好をしているから何しているか訊いたことあります」

「どんな人でしたか」

 警備員の話した人物像はミドウの特徴そのものだった。

「この白スーツの人、誰なんですか。学生達でも話題になってるんですけど」

 教師の問いに、なんと答えればよいか迷ってしまったが、ちょっとした事件の関係で確認に来ただけですと当たり障りなく答え、御礼を言ってその場をあとにした。

「うっそでしょ。本当に日光川にいたなんて。どう考えても現場には一時間くらいかかるし……じゃあ誰が助けてくれたのよ」

 マキは混乱しながら署に戻り、クロに報告した。
 クロは苦い顔をしたが、そっちはもういいから取り調べを手伝うようにいう。

「あ、その前に裏が取れたことミドウに言っとけよ」

「ええ~、わかりました~」

 しぶしぶ出ていくマキが見えなくなったあと、クロは呟く。

「だんだんカドがとれてきたな。ミドウのいい加減さに影響されたか」

 最初の頃のガチガチ緊張したマキを思い出し、クロは少し思い出し笑いをした。

※ ※ ※ ※ ※

「裏取れましたぁ……」

 不貞腐れて報告するマキに、デスクでノートパソコンをいじってたミドウがにやにやする。

「あってたろ。それじゃ練習の成果をみせてやる」

 ミドウは立ち上がると動きやすい場所に移り、マキの目の前でムーンウォークを披露する。その動きは滑らかでたしかに練習したなと思う完成度だ。
 しかしマキにとってはバカにされてるとしか思えなかった。

(くっそう、絶対にトリックがあるはずなのにぃ。絶対に暴いてやるから)

 動き終えドヤ顔したミドウに、心が全然こもってない拍手をしてやったマキであった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

秘められた遺志

しまおか
ミステリー
亡くなった顧客が残した謎のメモ。彼は一体何を託したかったのか!?富裕層専門の資産運用管理アドバイザーの三郷が、顧客の高岳から依頼されていた遺品整理を進める中、不審物を発見。また書斎を探ると暗号めいたメモ魔で見つかり推理していた所、不審物があると通報を受けた顔見知りであるS県警の松ケ根と吉良が訪れ、連行されてしまう。三郷は逮捕されてしまうのか?それとも松ケ根達が問題の真相を無事暴くことができるのか!?

カフェ・シュガーパインの事件簿

山いい奈
ミステリー
大阪長居の住宅街に佇むカフェ・シュガーパイン。 個性豊かな兄姉弟が営むこのカフェには穏やかな時間が流れる。 だが兄姉弟それぞれの持ち前の好奇心やちょっとした特殊能力が、巻き込まれる事件を解決に導くのだった。

独身寮のふるさとごはん まかないさんの美味しい献立

水縞しま
ライト文芸
旧題:独身寮のまかないさん ~おいしい故郷の味こしらえます~ 第7回ライト文芸大賞【料理・グルメ賞】作品です。 ◇◇◇◇ 飛騨高山に本社を置く株式会社ワカミヤの独身寮『杉野館』。まかない担当として働く有村千影(ありむらちかげ)は、決まった予算の中で献立を考え、食材を調達し、調理してと日々奮闘していた。そんなある日、社員のひとりが失恋して落ち込んでしまう。食欲もないらしい。千影は彼の出身地、富山の郷土料理「ほたるいかの酢味噌和え」をこしらえて励まそうとする。 仕事に追われる社員には、熱々がおいしい「味噌煮込みうどん(愛知)」。 退職しようか思い悩む社員には、じんわりと出汁が沁みる「聖護院かぶと鯛の煮物(京都)」。 他にも飛騨高山の「赤かぶ漬け」「みだらしだんご」、大阪の「モダン焼き」など、故郷の味が盛りだくさん。 おいしい故郷の味に励まされたり、癒されたり、背中を押されたりするお話です。 

尖閣~防人の末裔たち

篠塚飛樹
ミステリー
 元大手新聞社の防衛担当記者だった古川は、ある団体から同行取材の依頼を受ける。行き先は尖閣諸島沖。。。  緊迫の海で彼は何を見るのか。。。 ※この作品は、フィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。 ※無断転載を禁じます。

リモート刑事 笹本翔

雨垂 一滴
ミステリー
 『リモート刑事 笹本翔』は、過去のトラウマと戦う一人の刑事が、リモート捜査で事件を解決していく、刑事ドラマです。  主人公の笹本翔は、かつて警察組織の中でトップクラスの捜査官でしたが、ある事件で仲間を失い、自身も重傷を負ったことで、外出恐怖症(アゴラフォビア)に陥り、現場に出ることができなくなってしまいます。  それでも、彼の卓越した分析力と冷静な判断力は衰えず、リモートで捜査指示を出しながら、次々と難事件を解決していきます。  物語の鍵を握るのは、翔の若き相棒・竹内優斗。熱血漢で行動力に満ちた優斗と、過去の傷を抱えながらも冷静に捜査を指揮する翔。二人の対照的なキャラクターが織りなすバディストーリーです。  翔は果たして過去のトラウマを克服し、再び現場に立つことができるのか?  翔と優斗が数々の難事件に挑戦します!

満月に狂う君と

川端睦月
ミステリー
【『青年小児科医』×『曲者中年刑事』が赤い瞳の怪人の謎に迫るサイエンスミステリー】 満月の夜、小児科医の糸原は、直属の上司である笹本が心肺停止状態で自身の勤める病院へ搬送された、との報を受ける。取り急ぎ病院へと向かう糸原だったが、その前に赤い瞳の人影が立ちはだかる。身構える糸原をよそに、人影は何かに気を取られるように立ち去っていった。 到着した病院で、糸原は笹本の妻と中学生の息子が行方知れずになっていること知る。そして、残されたもう一人の息子にも変化が現れ…… 事件を担当する刑事の葛西に巻き込まれる形で、糸原は真相を探り始める。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

処理中です...