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第一話 ある老人の死
ミドウ番 その4
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「──昼食後、事務所に戻りふたたびデスクワーク。あまりにも多いので、何をしているのか訊ねたら、在宅ワークをしていると」
「つまり、バイトか」
「なにか知り合いから、事務所内でできて忙しそうに見えるバイト、を紹介してもらったそうです」
「で、午後五時になると事務所を閉めて、バイトに出かける」
「色々やってますね。七日中、三日は飲食店でしたが、引越し業者の時もありましたし、出前配達もしてましたし、風俗嬢の送迎もやってました」
報告書とマキの顔を見比べて、メンバーはこの一週間まともに寝てないのを感じた。
夜くらい交代で見張らせようかと考えたが、誰に代わっても監察に疑わられそうなので、できない。
クロが夜間は午後七時まで、それ以後も尾行が必要と判断したら連絡するように命令した。
「マキくん、張り切り過ぎると持たないぞ。それにイザという体力が無くてもどうしようもないだろう」
タマに余計なことを言わせないように、カドマがクロの援護をする。
「大丈夫です、まだやれます」
ムキになって返事をするマキに、タマが投げ捨てるように言う。
「だとよカドマ。放っとけよ、倒れるまでやってアタシはガンバりました、って慰めてもらいたいんだろが」
「そんなことありませんっ」
不毛な争いが起きる前にクロが今日の仕事を割りふる。
マキは不完全燃焼のままで、ミドウのところに向う。
※ ※ ※ ※ ※
「──てなわけで、最悪の会議でした」
一緒に居はじめて一週間、マキは知らず知らずのうちに活動状況をミドウに話すようになっていた。
「タマも困ったヤツだなぁ」
「昔からああなんですか」
「まあな。今も昔も不器用なヤツだよ」
論点がズレてるような返事をもらって、マキは面白くない気分になる。
「ミドウさん、逮捕しないであげますから、何か手柄をくださいよ」
「ムチャクチャ言うなぁ。まあ監察がすむまでだからさ、英気を養ってなよ」
「それじゃ遅いんですぅ、手柄をちょーだいーー」
ソファのに座りながら、手足をバタバタと駄々っ子のようにふるまうマキに、ミドウはやれやれという表情をする。
「じゃぁマキちゃん、交換条件だ。しばらく俺がすることを黙ってみていて。それなら何とかする」
「ホントですか。あ、ミドウさんが通り魔になって、わたしが逮捕するんですね」
「マキちゃん人格変わってない? 人間、追い詰められると本性がでるというけどさ」
「追い詰めた本人にだからです」
※ ※ ※ ※ ※
──この日はめずらしくミドウがクルマで、マキとともに午前から出かけた。
「クルマ、持ってたんですね」
「いんや、レンタカー。わナンバーだったでしょ」
「そうでしたっけ」
「ちゃんと観察しないと。クロに言われたろ」
軽快に運転しながら隣の岩倉市近くまで走らせると、とある喫茶店の駐車場に停める。
ふたりとも降りるとお店に入る、と同時に声をかけられる。
「あらぁミドウちゃん、いらっしゃい。今日は女性連れなの、珍しいわねぇ」
「ママ、おはよ。臨時アシスタントのマキちゃん、よろしくね」
「マキちゃんね、よろしくー」
マキが挨拶すると、四人がけのボックス席に座り、ふたりともコーヒーを注文する。
「ミドウさん、こことも知り合いなんですか」
「まあね。あ、ママ、頼まれごとなんだけど、そろそろ手をつけるね」
手早く二人分のコーヒーを淹れて、トレーに載せてやってきたママにミドウはそう言う。
「ホント。頼むわね、何日か前にまたあったからさぁ」
「時間かかったけど、仕込みはじゅうぶんしたからさ」
置いてきぼりの会話に、マキは何の話だろうかと考える。それを察したミドウが説明する。
「この辺りで空き巣被害が多発しているの、知ってる」
「ああ、そんな報告がありましたね」
「で、心配になったママから、泥棒を捕まえてくれと依頼があったんだよ」
「それ、ウチの仕事ですよね。なんでミドウさんに依頼するんです」
「そりゃ頼りになるからだろ」
ドヤ顔で言うので、バイトばっかりしてるくせにと内心毒づく。
「で、どうやって捕まえるつもりなんです」
「ナイショ。守秘義務じゃなくて企業秘密だから」
「ミドウさんて、ナイショ事が好きですよね」
「そうかな。まあ今回はついてまわってくれた方がいいから、ちゃんと連絡するよ」
連絡をするということは、時間外、つまり夜に何かをやるというコトだとはマキにも理解できる。
ただ、警察でも尻尾を掴ませない泥棒をどうやって捕まえるのだろう。それが分からなかった。
コーヒーを飲んで会計を済ませたあと、事務所に戻るという。
「依頼を受けるという返事のために、わざわざここまで来たんですか」
「うんにゃ。マキちゃんに、ここを見せるためにも来たんだよ」
言われて、マキは喫茶店を観察する。
──ずいぶんと年季の入ったお店ね。ミドウさんのところ程じゃないけど、あまりキレイじゃない。ところどころ塗装も剥げている。
周りも雑草が生えていて、とても手入れしているとは思えない。防犯対策はしてるのかしら。
喫茶店らしく窓は大きくてスモークを貼っている感じ、入口も木製の枠にガラス張りで板チョコみたいなデザイン──
「なんか逆に泥棒に狙われやすい感じですね」
「そりゃけっこう。じゃ、帰ろうか」
マキの感想に上機嫌のミドウを、不思議に思いながら助手席に乗り込んだ。
「つまり、バイトか」
「なにか知り合いから、事務所内でできて忙しそうに見えるバイト、を紹介してもらったそうです」
「で、午後五時になると事務所を閉めて、バイトに出かける」
「色々やってますね。七日中、三日は飲食店でしたが、引越し業者の時もありましたし、出前配達もしてましたし、風俗嬢の送迎もやってました」
報告書とマキの顔を見比べて、メンバーはこの一週間まともに寝てないのを感じた。
夜くらい交代で見張らせようかと考えたが、誰に代わっても監察に疑わられそうなので、できない。
クロが夜間は午後七時まで、それ以後も尾行が必要と判断したら連絡するように命令した。
「マキくん、張り切り過ぎると持たないぞ。それにイザという体力が無くてもどうしようもないだろう」
タマに余計なことを言わせないように、カドマがクロの援護をする。
「大丈夫です、まだやれます」
ムキになって返事をするマキに、タマが投げ捨てるように言う。
「だとよカドマ。放っとけよ、倒れるまでやってアタシはガンバりました、って慰めてもらいたいんだろが」
「そんなことありませんっ」
不毛な争いが起きる前にクロが今日の仕事を割りふる。
マキは不完全燃焼のままで、ミドウのところに向う。
※ ※ ※ ※ ※
「──てなわけで、最悪の会議でした」
一緒に居はじめて一週間、マキは知らず知らずのうちに活動状況をミドウに話すようになっていた。
「タマも困ったヤツだなぁ」
「昔からああなんですか」
「まあな。今も昔も不器用なヤツだよ」
論点がズレてるような返事をもらって、マキは面白くない気分になる。
「ミドウさん、逮捕しないであげますから、何か手柄をくださいよ」
「ムチャクチャ言うなぁ。まあ監察がすむまでだからさ、英気を養ってなよ」
「それじゃ遅いんですぅ、手柄をちょーだいーー」
ソファのに座りながら、手足をバタバタと駄々っ子のようにふるまうマキに、ミドウはやれやれという表情をする。
「じゃぁマキちゃん、交換条件だ。しばらく俺がすることを黙ってみていて。それなら何とかする」
「ホントですか。あ、ミドウさんが通り魔になって、わたしが逮捕するんですね」
「マキちゃん人格変わってない? 人間、追い詰められると本性がでるというけどさ」
「追い詰めた本人にだからです」
※ ※ ※ ※ ※
──この日はめずらしくミドウがクルマで、マキとともに午前から出かけた。
「クルマ、持ってたんですね」
「いんや、レンタカー。わナンバーだったでしょ」
「そうでしたっけ」
「ちゃんと観察しないと。クロに言われたろ」
軽快に運転しながら隣の岩倉市近くまで走らせると、とある喫茶店の駐車場に停める。
ふたりとも降りるとお店に入る、と同時に声をかけられる。
「あらぁミドウちゃん、いらっしゃい。今日は女性連れなの、珍しいわねぇ」
「ママ、おはよ。臨時アシスタントのマキちゃん、よろしくね」
「マキちゃんね、よろしくー」
マキが挨拶すると、四人がけのボックス席に座り、ふたりともコーヒーを注文する。
「ミドウさん、こことも知り合いなんですか」
「まあね。あ、ママ、頼まれごとなんだけど、そろそろ手をつけるね」
手早く二人分のコーヒーを淹れて、トレーに載せてやってきたママにミドウはそう言う。
「ホント。頼むわね、何日か前にまたあったからさぁ」
「時間かかったけど、仕込みはじゅうぶんしたからさ」
置いてきぼりの会話に、マキは何の話だろうかと考える。それを察したミドウが説明する。
「この辺りで空き巣被害が多発しているの、知ってる」
「ああ、そんな報告がありましたね」
「で、心配になったママから、泥棒を捕まえてくれと依頼があったんだよ」
「それ、ウチの仕事ですよね。なんでミドウさんに依頼するんです」
「そりゃ頼りになるからだろ」
ドヤ顔で言うので、バイトばっかりしてるくせにと内心毒づく。
「で、どうやって捕まえるつもりなんです」
「ナイショ。守秘義務じゃなくて企業秘密だから」
「ミドウさんて、ナイショ事が好きですよね」
「そうかな。まあ今回はついてまわってくれた方がいいから、ちゃんと連絡するよ」
連絡をするということは、時間外、つまり夜に何かをやるというコトだとはマキにも理解できる。
ただ、警察でも尻尾を掴ませない泥棒をどうやって捕まえるのだろう。それが分からなかった。
コーヒーを飲んで会計を済ませたあと、事務所に戻るという。
「依頼を受けるという返事のために、わざわざここまで来たんですか」
「うんにゃ。マキちゃんに、ここを見せるためにも来たんだよ」
言われて、マキは喫茶店を観察する。
──ずいぶんと年季の入ったお店ね。ミドウさんのところ程じゃないけど、あまりキレイじゃない。ところどころ塗装も剥げている。
周りも雑草が生えていて、とても手入れしているとは思えない。防犯対策はしてるのかしら。
喫茶店らしく窓は大きくてスモークを貼っている感じ、入口も木製の枠にガラス張りで板チョコみたいなデザイン──
「なんか逆に泥棒に狙われやすい感じですね」
「そりゃけっこう。じゃ、帰ろうか」
マキの感想に上機嫌のミドウを、不思議に思いながら助手席に乗り込んだ。
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