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第一話 ある老人の死
ミドウ番
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署に戻る途中も、戻ってからも、マキは考え直してくださいとクロに頼むが、首を縦に振らない。
だが粘ってみるもので、クロから提案が出される。
「そこまで言うなら試してみよう」
「なにをです」
「縁が有るかどうかだ。今日、帰る途中に一件だけどこかに寄ってくれ。喫茶店でも居酒屋でもコンビニでもいい。そして帰宅するまでにミドウに会わなかったら考え直そう」
「本当ですか」
「ただしズルは無しだぞ。出会ったら観念して報告するんだぞ」
「はい」
ミツに負けず劣らず気持ちのいい返事をする。
定時になり、マキは皆んなの見送るなか先に帰っていく。
尾行されている可能性があったが、気にしてない。なぜならマキには秘策があったからだ。
──どこのお店でもいいと言ったのは班長のミスよね。男ばっかりだからその発想はなかったでしょう、女には女しか行かないところがあるのよ──
マキは婦人服売り場か化粧品売り場を考えたが、そこはデパートだからたまたま会う可能性がある。
なので絶対会わないだろう、個人店のランジェリーショップを選択した。
壱ノ宮署から最寄りの、本町商店街にあるランジェリーショップ[ミスティ]に入る。
──こういうところに入るの久しぶりだなぁ、学生の時以来かな。警察官になってからは目立たない肌色のブラパンとかスポブラばかりだったもんなぁ──
オトナのオンナ、そういうヒトしか身に着けないデザインにうっとりしながら見て歩いてると、店長らしい女性が声をかけてきた。
「いらっしゃいませ、何か気になるコがございましたか」
「気になるコですか」
「そうです、この店のコはオーダーメイドばかり。商品というよりは我がコとして扱っておりますの」
そう言いながら手近にあったブラのストラップを撫でた。
本当に大事に扱っているんだなぁとマキは感じたので、ついでに買っていこうかと思ったその時だった。
「ミサキさーん、ディスプレイしたトルソー、出していいのー」
奥から覚えのある男の声が聞こえてきた。
「今お客さまが来てるの、顔を出しちゃダメよー、ミドウちゃん」
「ミ、ミドウさん」
まさかと思わず声を出してしまい、慌てて口をおさえる。
すると、セクシーなブラパンを取り付けたトルソーを抱えたミドウが顔を出す。
「あ、やっぱりマキちゃんじゃない。いらっしゃいませー」
「なによミドウちゃんの知り合いなの? 相変わらず顔が広いわねぇ。なら出てきていいわよ」
ミサキ店長の許しを得て店先に出てくる。マキはいつもの白スーツ姿のミドウを見て愕然とした。
「な、なんでココにいるんですか、ランジェリーショップですよ、女の園ですよ、居ちゃいけないでしょ」
いきなり責められて目を白黒させるミドウだが、キョロキョロとあたりを見回したあと、マキをなだめる。
「どうしたのどうしたのマキちゃん、何かあったの」
「あったも何も、みんなミドウさんのせいなんですよ。わたしは仕事頑張って玉ノ井さんを見返してやろうと思った矢先に、矢先に、……」
マキは監察の話を含めてどうしてこうなったかを話した。なりゆきで一緒に聞いていたミサキ店長が、気の毒そうに言う。
「ミドウちゃん、可哀想だから会ってないことにしてあげたら」
「そうしたいのはやまやまなんだけど、手遅れなんだわ」
「どうして」
「外、見てみ」
ミサキ店長が外を見ると、遠巻きにクロが覗いてた。
「誰? ヤクザなの」
「あれがマキちゃんの上司。もう見られてんだよね」
やれやれという顔をしながら、ミドウは店から出てクロのところに向かう。
マキは最後のあがきとして、商品に隠れながら事の成り行きを見守る。
白スーツと黑スーツがしばらく言い合い、イヤイヤするミドウに責めるように、というか見た目のせいで脅すように言い返すクロのやり取りが、ミドウのわーったよというゼスチャーで終わった。どうやらミドウが負けたらしい。
戻ってきたミドウがマキにあきらめ顔で伝える。
「本部からの監察が来て納得するように、それまでマキちゃんは張りつく。オレの了解は関係無い、マキちゃんが張り込みをするんだと」
「そんなぁ」
「オレだって迷惑だぜ。場合によっては仕事のジャマになるんだから、ていうかもうジャマでしかない」
「ミドウさん、班長の元上司なんでしょ。なんとかなりませんか」
「元上司だからなんともなんないの。ましてや大元は署長というか課長なんだろ、あのオヤジが決めたんなら抗議するだけ無駄無駄無駄無駄無駄ぁ」
「……時を止めたいです」
セクシーなランジェリーにかこまれながら、ミドウとマキは互いを見てため息をついた。
だが粘ってみるもので、クロから提案が出される。
「そこまで言うなら試してみよう」
「なにをです」
「縁が有るかどうかだ。今日、帰る途中に一件だけどこかに寄ってくれ。喫茶店でも居酒屋でもコンビニでもいい。そして帰宅するまでにミドウに会わなかったら考え直そう」
「本当ですか」
「ただしズルは無しだぞ。出会ったら観念して報告するんだぞ」
「はい」
ミツに負けず劣らず気持ちのいい返事をする。
定時になり、マキは皆んなの見送るなか先に帰っていく。
尾行されている可能性があったが、気にしてない。なぜならマキには秘策があったからだ。
──どこのお店でもいいと言ったのは班長のミスよね。男ばっかりだからその発想はなかったでしょう、女には女しか行かないところがあるのよ──
マキは婦人服売り場か化粧品売り場を考えたが、そこはデパートだからたまたま会う可能性がある。
なので絶対会わないだろう、個人店のランジェリーショップを選択した。
壱ノ宮署から最寄りの、本町商店街にあるランジェリーショップ[ミスティ]に入る。
──こういうところに入るの久しぶりだなぁ、学生の時以来かな。警察官になってからは目立たない肌色のブラパンとかスポブラばかりだったもんなぁ──
オトナのオンナ、そういうヒトしか身に着けないデザインにうっとりしながら見て歩いてると、店長らしい女性が声をかけてきた。
「いらっしゃいませ、何か気になるコがございましたか」
「気になるコですか」
「そうです、この店のコはオーダーメイドばかり。商品というよりは我がコとして扱っておりますの」
そう言いながら手近にあったブラのストラップを撫でた。
本当に大事に扱っているんだなぁとマキは感じたので、ついでに買っていこうかと思ったその時だった。
「ミサキさーん、ディスプレイしたトルソー、出していいのー」
奥から覚えのある男の声が聞こえてきた。
「今お客さまが来てるの、顔を出しちゃダメよー、ミドウちゃん」
「ミ、ミドウさん」
まさかと思わず声を出してしまい、慌てて口をおさえる。
すると、セクシーなブラパンを取り付けたトルソーを抱えたミドウが顔を出す。
「あ、やっぱりマキちゃんじゃない。いらっしゃいませー」
「なによミドウちゃんの知り合いなの? 相変わらず顔が広いわねぇ。なら出てきていいわよ」
ミサキ店長の許しを得て店先に出てくる。マキはいつもの白スーツ姿のミドウを見て愕然とした。
「な、なんでココにいるんですか、ランジェリーショップですよ、女の園ですよ、居ちゃいけないでしょ」
いきなり責められて目を白黒させるミドウだが、キョロキョロとあたりを見回したあと、マキをなだめる。
「どうしたのどうしたのマキちゃん、何かあったの」
「あったも何も、みんなミドウさんのせいなんですよ。わたしは仕事頑張って玉ノ井さんを見返してやろうと思った矢先に、矢先に、……」
マキは監察の話を含めてどうしてこうなったかを話した。なりゆきで一緒に聞いていたミサキ店長が、気の毒そうに言う。
「ミドウちゃん、可哀想だから会ってないことにしてあげたら」
「そうしたいのはやまやまなんだけど、手遅れなんだわ」
「どうして」
「外、見てみ」
ミサキ店長が外を見ると、遠巻きにクロが覗いてた。
「誰? ヤクザなの」
「あれがマキちゃんの上司。もう見られてんだよね」
やれやれという顔をしながら、ミドウは店から出てクロのところに向かう。
マキは最後のあがきとして、商品に隠れながら事の成り行きを見守る。
白スーツと黑スーツがしばらく言い合い、イヤイヤするミドウに責めるように、というか見た目のせいで脅すように言い返すクロのやり取りが、ミドウのわーったよというゼスチャーで終わった。どうやらミドウが負けたらしい。
戻ってきたミドウがマキにあきらめ顔で伝える。
「本部からの監察が来て納得するように、それまでマキちゃんは張りつく。オレの了解は関係無い、マキちゃんが張り込みをするんだと」
「そんなぁ」
「オレだって迷惑だぜ。場合によっては仕事のジャマになるんだから、ていうかもうジャマでしかない」
「ミドウさん、班長の元上司なんでしょ。なんとかなりませんか」
「元上司だからなんともなんないの。ましてや大元は署長というか課長なんだろ、あのオヤジが決めたんなら抗議するだけ無駄無駄無駄無駄無駄ぁ」
「……時を止めたいです」
セクシーなランジェリーにかこまれながら、ミドウとマキは互いを見てため息をついた。
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