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第一話 ある老人の死
ミドウからの挑戦 その2
しおりを挟む「まだだ、マキちゃんは芳香剤としか言ってない。ちゃんと説明してないだろう」
「窓に並べられた芳香剤です。どれも黄色いままでした。つまり使いきってしまった物を並べたものではなく、まだ使えるものが並べられていたんです。それも窓枠の端から端までびっしりと。さすがにそれは不自然です」
おそらく腐敗臭が気になったのでしょう、という言葉は飲食店という場所を考えて、小声で言った。
「正解だよ、くそ」
そういうとミドウさんは最後のジョッキを飲み干した。
「よくやったなマキくん」
「桂花陳酒がヒントでした。あれってキンモクセイを漬けこんだお酒ですよね、昔、居酒屋のお客さんに聞いたことあります」
「わーったよ、俺の負けだ」
ミドウはお手上げのゼスチャーを大袈裟にしてみせる。
「で、なにを訊きたいんだ。クロ」
「全部だ」
「守秘義務があるって言ってんだろ……話せるところだけ言うからあとは勝手に想像しろよ」
そう言うと、ミドウは割田内外との出会いから話しはじめる。
「割田内外氏とは病院で会った。いつものように入院費を支払いに行ったときに、ロビーで転んでいて奥さんが助け起こそうとしててな、それを手助けしたのが縁で挨拶するようになった」
「最初から依頼人としてあったんじゃないのか」
「ああ。奥さんは愛想がいいんだが、内外氏はあの通り偏屈でな、なかなか心をひらいてくれなかったが、探偵という職業に興味を持ったらしい。それ以降ちょくちょく話すようになったよ」
「なんか狙いがあって近づいたのか」
「たぶん生前の内外氏に会ったことないから分からないだろうけど、アレはヤバいと感じた。犯罪をおかすタイプ独特のニオイがしたんだ」
「……なるほど」
クロはそう返事をし、マキは、おしどり夫婦と評判だったのに調べれば調べるほどそうじゃないことを思い出していた。
「奥さん、内外氏の言いなりになっていただろう。あれはな、偶然そうなったわけじゃない。内外氏が意図的にそうしたんだ」
「なんですって」
マキが思わず叫ぶ。
「ずっとおしどり夫婦だった、しかし売れた時に調子に乗って奥さんを蔑ろにした、また落ち目になった、だけども離れなかった、そんな奥さんが怖くなった、どうして離れないんだろう、それが分からない内外氏は不安でたまらなくなり、奥さんを完全支配関係にするようになったらしい」
「さ、サイテー、サイテーなヤツですね」
感情的になるマキと対象に、クロは押し黙ったまま話をうながす。
「自分で計画したってヤツは自慢したくなる。オレは内外氏からその話を聞いて、阻止しようとした。最善の方法は引き離すことだが無理だった。もう完全に支配されたあとだった」
「それでどうした」
「完全支配者の発想は最後はなんだと思う」
「──破滅か」
「そうだ、加齢のための衰えと、自分では何もできない内外氏はこう考えた。自分が生きているうちは世話をさせて、死んだら後追い自殺するように仕向けようと」
「──────!!」
マキの声にならない怒りは、おしぼりを握り締めることで何とか抑えられた。
「以上だ、あとは話せない」
クロはしばらく黙ったままだったが、ポツリと呟く。
「なるほど、それで芳香剤か」
その言葉にはミドウは反応しなかった。
「さて、それじゃオレは失礼するよ。明日も早いんでな」
「まだ何かやるのか」
「おやすみ、マキちゃん」
クロの質問に答えず、ミドウは席を立つ。
残ったマキとクロはしばらく無言だった。
「……班長、どうしましょう。病死だと思ったら無理心中未遂だなんて……」
「証明のしようがないだろうな。仕掛けた方はもう死んでるし、結果的には未遂だ。だがこれでひとつ謎が解けたよ」
「謎ですか」
「芳香剤だよ。普通、あんなにまとめて買わないだろう? どうして買ったのか不思議だったんだが、わかったよ。ミドウが買わせたんだ」
「ミドウさんが」
「アイツは内外氏の計画に関係しているんだ、おそらく無理心中するためにはどうしたらいいか依頼されたんだろう」
「え、え、え、どういう意味ですか」
驚くマキに、クロは内ポケットから名刺入れを取り出し、中から一枚の名刺を出してマキに見せる。
そこには[TMS探偵事務所]と印刷されており、その下には、所長 西御堂あずら と表示されていた。
「ティーエムエスたんていじむしょ、ですか。何の略称なんですか」
「ティーはトラブル、エムはメイカー、エスはシューターだ。ヤツはトラブルの解決と創造をするって看板を上げているんだよ。つまり今回の依頼というのは、内外氏の無理心中を助けるという内容だったんだ」
「なんですってぇ。は、犯罪、犯罪に加担してるってことじゃないですか」
「落ち着けマキくん。実際にはそうなってないだろう? そういうことじゃないんだ」
慌てるマキにクロは説明する。
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