コドク 〜ミドウとクロ〜

藤井ことなり

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第一話 ある老人の死

ミドウからの挑戦

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「マキくん、賭博行為の現行犯だ。時間は」

「午後十時二十一分です」

「待て待て待て、ちょっと言っただけだろうが。取り消し取り消し」

「さんざん探し回ってイラついてるんだ、さっさと言え」

「こっちも仕事でやっている以上、守秘義務ってのがあるんだよ。だから……勝負して勝ったら賞品として質問に答えてやるよ」

「なんでマキくんなんだよ」

「クロじゃ面白くない」

「どんな問題だ」

「おいおい、先に問題を訊いてやるやらないを決めるのは無しだぞ」

「いいから言えよ」

「二人とも現場に来てたんだろう、クロなら判るよな、外から視て御遺体があるのかどうか」

「まあな。つまりマキくんに、なぜ御遺体が外から見ただけで判ったかを当てさせるというのが問題か」

「その通り。どうする、やるか」

クロはマキを見ながら少し考えたあと、やるとこたえた。

「オーケー決まりだ。さ、マキちゃん、答えてもらおうか。どうやって外から判ったと思う」

 自分抜きで勝手に決まった勝負に、マキは内心ふたりを罵倒したが、どうにもならない。
 探偵と上司をかわるがわる見てから、考えはじめる。

「時間制限は無いんだ、慌てることはない」

「クロ、余計なこと言うなよ」

「このくらいいいだろうが、当てればお前を抑えられるし、マキくんの失点も取り返せるし、オレとしては一石二鳥なんだよ」

「失点?  なんかやったのマキちゃん」

「ミドウさんには関係ありません」

「おお怖」

──当たり前だ、こんなことになっているのはミドウさんのせいなんだから。睨み付けたくもなるわ。
班長も班長よ、現場でリバースした事をここで言わなくてもいいじゃない、ホントにもうオッサン達め。
こうなったらもう当てるしかないじゃないの──


 マキの目の前でミドウは、三杯目のジョッキを飲み始めていた。
 隣のクロも注文をし、レモン酎ハイとから揚げを楽しんでいる。

──私はもう飲み終わっているし、というか今は呑気にアルコール摂取している場合ではない──

「どう、マキちゃん、わかった」

ミドウがにやにやしながら訊く。

「時間はあるんだ、あわてなくていい。すいません、酎ハイお代わり」

呑気なふたりと違って、マキは現着した時の状況を必死に思い出していた。

──現場は風変わりな建物だったが、それは理由にならない。
扉は開いていたが、それを開けたのはミドウさんだから、それも関係無い。
室内に入ってからなら解る、腐敗臭に満たされた部屋は、嗅いだことの無い人でもおかしいと分かるだろう。だが、ミドウさんも班長も外から見て分かったのだ。それじゃない──

マキは頭を抱えて、うーうー唸りはじめた。

「マキちゃん無理しなくていいよ、部下が困っているのに知らん顔しているなんて、非道い上司だねぇ」

「元上司がなに言ってやがる」

「オレが鍛えた部下は役に立っているだろうが」

「お前が鍛えたんじゃない、オレが育てたんだ」

「オレだよ」

「オレだ」

──どっちでもいいわっ、私にとっては二人ともパワハラ上司だっ──

「クロよ、時間はあると言ったが、オレはそれに付き合う気は無いぞ。これを飲み切ったら帰るからな」

「そんなにあわてるなよ、どうせ暇なんだろ」

「暇じゃねぇよ、明日だってやることがあるんだから」

「何やるんだよ」

「内緒、探偵には守秘義務があるんだよ。だからマキちゃん、オレがこのジョッキを飲み切るのがタイムリミットだからね」

「途中でルール変えないでください」

「しょうがねぇなぁ、けどミドウ、大急ぎで飲むなよ。おねえさん、お代わり」


レモン酎ハイが残り少なくなりクロはジョッキの中のレモンを取り出し、私の前に置いた。それだけでなくから揚げのレモンを絞ると、そのレモンも並べて置いた。

「あ、クロ、ヒントを出すなんて反則だぞ」

ミドウの言葉に班長はニヤリとする、その顔を見てさらにしまったという顔をした。

それを聞いてマキは目の前に置かれたレモンをじっと見る。

──あの現場にはレモンなんてなかった。ならばどういうことだ。連想するのものがある、何を連想する、レモン、酸っぱい、黄色い、黄色か。黄色があの現場にあったか、思い出せ──


「すいませーん、桂花陳酒のロックくださーい」

隣のOLグループらしいお客さんの声が聴こえ、それで閃いた。

「……芳香剤、芳香剤ですね」

顔を上げ、喰い気味にオジサン二人にマキは言った。

 ミドウはむすっとし、班長はよくやったという顔をした。

「くそう、卑怯だぞクロ、ヒントを出すなんて」

「何の事だ、オレは何もしていないぞ。勝負はオレの勝ちだな、最後のジョッキまだ飲み切ってないだろ」

 たしかにジョッキには三分の一ほど残っている。

やった、賭けに勝ったと、マキは全身で喜びを表した。
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