上 下
14 / 19
第一話 ある老人の死

ミドウからの挑戦

しおりを挟む

「マキくん、賭博行為の現行犯だ。時間は」

「午後十時二十一分です」

「待て待て待て、ちょっと言っただけだろうが。取り消し取り消し」

「さんざん探し回ってイラついてるんだ、さっさと言え」

「こっちも仕事でやっている以上、守秘義務ってのがあるんだよ。だから……勝負して勝ったら賞品として質問に答えてやるよ」

「なんでマキくんなんだよ」

「クロじゃ面白くない」

「どんな問題だ」

「おいおい、先に問題を訊いてやるやらないを決めるのは無しだぞ」

「いいから言えよ」

「二人とも現場に来てたんだろう、クロなら判るよな、外から視て御遺体があるのかどうか」

「まあな。つまりマキくんに、なぜ御遺体が外から見ただけで判ったかを当てさせるというのが問題か」

「その通り。どうする、やるか」

クロはマキを見ながら少し考えたあと、やるとこたえた。

「オーケー決まりだ。さ、マキちゃん、答えてもらおうか。どうやって外から判ったと思う」

 自分抜きで勝手に決まった勝負に、マキは内心ふたりを罵倒したが、どうにもならない。
 探偵と上司をかわるがわる見てから、考えはじめる。

「時間制限は無いんだ、慌てることはない」

「クロ、余計なこと言うなよ」

「このくらいいいだろうが、当てればお前を抑えられるし、マキくんの失点も取り返せるし、オレとしては一石二鳥なんだよ」

「失点?  なんかやったのマキちゃん」

「ミドウさんには関係ありません」

「おお怖」

──当たり前だ、こんなことになっているのはミドウさんのせいなんだから。睨み付けたくもなるわ。
班長も班長よ、現場でリバースした事をここで言わなくてもいいじゃない、ホントにもうオッサン達め。
こうなったらもう当てるしかないじゃないの──


 マキの目の前でミドウは、三杯目のジョッキを飲み始めていた。
 隣のクロも注文をし、レモン酎ハイとから揚げを楽しんでいる。

──私はもう飲み終わっているし、というか今は呑気にアルコール摂取している場合ではない──

「どう、マキちゃん、わかった」

ミドウがにやにやしながら訊く。

「時間はあるんだ、あわてなくていい。すいません、酎ハイお代わり」

呑気なふたりと違って、マキは現着した時の状況を必死に思い出していた。

──現場は風変わりな建物だったが、それは理由にならない。
扉は開いていたが、それを開けたのはミドウさんだから、それも関係無い。
室内に入ってからなら解る、腐敗臭に満たされた部屋は、嗅いだことの無い人でもおかしいと分かるだろう。だが、ミドウさんも班長も外から見て分かったのだ。それじゃない──

マキは頭を抱えて、うーうー唸りはじめた。

「マキちゃん無理しなくていいよ、部下が困っているのに知らん顔しているなんて、非道い上司だねぇ」

「元上司がなに言ってやがる」

「オレが鍛えた部下は役に立っているだろうが」

「お前が鍛えたんじゃない、オレが育てたんだ」

「オレだよ」

「オレだ」

──どっちでもいいわっ、私にとっては二人ともパワハラ上司だっ──

「クロよ、時間はあると言ったが、オレはそれに付き合う気は無いぞ。これを飲み切ったら帰るからな」

「そんなにあわてるなよ、どうせ暇なんだろ」

「暇じゃねぇよ、明日だってやることがあるんだから」

「何やるんだよ」

「内緒、探偵には守秘義務があるんだよ。だからマキちゃん、オレがこのジョッキを飲み切るのがタイムリミットだからね」

「途中でルール変えないでください」

「しょうがねぇなぁ、けどミドウ、大急ぎで飲むなよ。おねえさん、お代わり」


レモン酎ハイが残り少なくなりクロはジョッキの中のレモンを取り出し、私の前に置いた。それだけでなくから揚げのレモンを絞ると、そのレモンも並べて置いた。

「あ、クロ、ヒントを出すなんて反則だぞ」

ミドウの言葉に班長はニヤリとする、その顔を見てさらにしまったという顔をした。

それを聞いてマキは目の前に置かれたレモンをじっと見る。

──あの現場にはレモンなんてなかった。ならばどういうことだ。連想するのものがある、何を連想する、レモン、酸っぱい、黄色い、黄色か。黄色があの現場にあったか、思い出せ──


「すいませーん、桂花陳酒のロックくださーい」

隣のOLグループらしいお客さんの声が聴こえ、それで閃いた。

「……芳香剤、芳香剤ですね」

顔を上げ、喰い気味にオジサン二人にマキは言った。

 ミドウはむすっとし、班長はよくやったという顔をした。

「くそう、卑怯だぞクロ、ヒントを出すなんて」

「何の事だ、オレは何もしていないぞ。勝負はオレの勝ちだな、最後のジョッキまだ飲み切ってないだろ」

 たしかにジョッキには三分の一ほど残っている。

やった、賭けに勝ったと、マキは全身で喜びを表した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

リモート刑事 笹本翔

雨垂 一滴
ミステリー
 『リモート刑事 笹本翔』は、過去のトラウマと戦う一人の刑事が、リモート捜査で事件を解決していく、刑事ドラマです。  主人公の笹本翔は、かつて警察組織の中でトップクラスの捜査官でしたが、ある事件で仲間を失い、自身も重傷を負ったことで、外出恐怖症(アゴラフォビア)に陥り、現場に出ることができなくなってしまいます。  それでも、彼の卓越した分析力と冷静な判断力は衰えず、リモートで捜査指示を出しながら、次々と難事件を解決していきます。  物語の鍵を握るのは、翔の若き相棒・竹内優斗。熱血漢で行動力に満ちた優斗と、過去の傷を抱えながらも冷静に捜査を指揮する翔。二人の対照的なキャラクターが織りなすバディストーリーです。  翔は果たして過去のトラウマを克服し、再び現場に立つことができるのか?  翔と優斗が数々の難事件に挑戦します!

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

青い祈り

速水静香
キャラ文芸
 私は、真っ白な部屋で目覚めた。  自分が誰なのか、なぜここにいるのか、まるで何も思い出せない。  ただ、鏡に映る青い髪の少女――。  それが私だということだけは確かな事実だった。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

百合系サキュバスにモテてしまっていると言う話

釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。 文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。 そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。 工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。 むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。 “特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。 工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。 兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。 工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。 スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。 二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。 零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。 かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。 ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

処理中です...