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第一話 ある老人の死

割田内外 その5

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 どうやら割田内外という人物はあまり評判がよくないが、奥さんの人徳で世間とつながっている、そんな感じのようだ。

「ところで割田先生がどうかなされたんですか?」

「あ、いや、先生がではなくて作品の方でちょっと調べてまして」

「なにか事件に絡んでるんですか」

「そのへんはちょっと」

 クロの捜査上言えないから察してという空気を感じとり、店主は勝手に納得して頷く。

「先生はアレですけど、作品は良いんですよね。今は安値ですけど、話題になってた頃はかなりの高値で売れてましたから」

 それを聞いてクロの目が光る。

「ほう、そんなもんですか。ちなみに今は売れてたときどの差はどれくらいなんですか」

「そうですねぇ……まあ半値より下というところですかね」

「預かっている作品はいくつあるんですか」

「たぶん二十数点くらいかな、どうしてそんなことを訊くんです」

「良い作品と言われたんで、ちょっとだけ興味がわきましてね。御協力ありがとうございました」

 クロは挨拶すると、画廊内を興味深げに見ていたミツとともに店を出る。
 ふと思いつき、足を止めて振り返り店主に訊ねる。

「ところで西御堂という人を知りませんか」

 急に言われて目を白黒させる店主だが、ちょっと考えて知らないと答える。
 あらためて挨拶するとミツとともにクルマへと戻った。

「ミドウが絡んでるかと思ってカマをかけてみたが、どうやら本当に知らない感じだったな」

「そんな感じでしたね。割田先生のことも知らないみたいでしたし」

「昨日の今日だからな。まだ情報が入ってないんだろう──ミツ、もどるぞ」



 タマ以外の四人が署に戻り、それぞれ報告し合う。

「タマはどうしてる」

クロから訊かれてカドマが答える。

「ミドウさんの事務所を張り込んでます。いつかは戻ってくるからだと」

「タマらしいな。さて、絵の方だがずっと描いていないし、作品が画廊にあることのウラがとれたな。あとはミドウがどう絡んでるかなんだが……」

 クロは腕を組み目をとじ沈思黙考する。

「……アイツが逃げ回ってるのは時間稼ぎだ、それで間違いないだろう、ナンのために? 時間のかかることをやってるからだ、ナニがかかる? ……絵の値上がり? いや、所有権はアイツにはない、誰にある? 画廊は預かっていると言った、ならば割田先生のモノか。いや、今は奥さんのモノとなるのか。しかしあの様子では売買が可能なのか……」

クロの独り言を聞きながらメンバーもそれに頷く。

「班長、先程の画廊の証言からすると、売れれば五千万ほどの利益が出ると思われます」

ミツの言葉が聴こえていないみたいにクロは無反応だったが、独り言に反応が出る。

「……値上がりした絵を売り弘美さんの今後の生活費にする……ミドウの考えそうなことだが、それに関わってない……、今は関わってないということか? いや、それは無いな、もう関わってないと泥縄過ぎる、おかしい、何かがおかしい」

「ミドウさんは割田氏からの依頼でしたよね。それはどんな依頼だったんでしょう」

マキの言葉に今度は反応する。

「ミドウは割田氏から[異変があったら来てほしい]と言われていた。そうか、そういうことか」

クロは目を開くと、メンバーにまとめた考えを話す。

「おそらく割田氏は自らの死期を悟ったんだ。弘美さんの様子をみて、何もできないと思って……、カドマ、冷蔵庫はどうだった、食料は残ってたか」

「はい。そういえば野菜などの生鮮食品はありませんでしたが、保存食ばかりでした」

「やはりな。となれば芳香剤を大量に購入したのも、そのためということか」

クロが頷く。

「じゃあミドウさんへの依頼内容は[遺体の発見役]ということですか」

「で、何も知らない弘美さんに叩かれて気絶、それでややこしくなったと」

「となると、ミドウさんは時間稼ぎじゃなくて、ただ単にすれ違っているだけなんじゃないですか」

マキとミツの言葉にも頷いて、この件はそれで始末をつけることで決定した。
 主な関係者はクロとマキだったので、マキの担当となり報告書を作成、タマにも片付いたことを連絡して張り込みから戻ってもらう。

「一件落着だな。お疲れ様、帰って休んでくれ」

 報告書を作成しているマキと、それを待つクロ以外は帰途につく。

 夜の八時を過ぎた頃に報告書は出来上がり、クロのオーケーが出てマキもやっと帰ることができた。

 寮に住んでるマキはまっすぐ帰るつもりだったが、なんとなく一杯飲みたくなり、反対方向の駅前まで行き、居酒屋に入る。

 カウンターに案内され、生中とポテトサラダを頼んでひと息つく。

──おかしな事件だったなぁ、まあ解決して良かったけど。──事件は解明したけど、弘美さんはこれからどうなるんだろう、いつまでも入院というわけにはいかないだろうし、独りで生きていくんだろうか、やっていけるかな──

 考えてもしょうがない、警察の仕事はここまでだと頭を切り替えることにした。



 生中を飲み切ると化粧直しに席を立つ。
 途中、座敷席の前を横切ると何か違和感を感じてさりげなく見回す。

──み、ミドウさん!! ──

 座敷席のひとつに、ミドウが座っていた。

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