コドク 〜ミドウとクロ〜

藤井ことなり

文字の大きさ
上 下
7 / 49
第一話 ある老人の死

ミドウと黒田班 その3

しおりを挟む
「カドマ、オーケーだ。提出してきたぞ」

玉ノ井がやれやれという顔で戻ってくる。それを受けて門間さんが、じゃあねと手をあげて離れていく。

「班長からしばらく忙しかったから、今日は早く帰って休めってさ。帰ろうぜ、マキは……ぐっ……」

 マキに向かってなにか言おうとしたが、カドマがタマの口をふさぐように肩を抱え込んで部屋から出ていった。
 おそらくろくでもない事を言おうとしたのだろうと推測しマキはカドマに感謝した。

 今出ていくと、また鉢合わせになるかも知れないから、もう少し居ることにし仕舞ったばかりのお茶を取り出し、ひと口飲んだ。

──しかしあの二人が同期なんて、いまだに信じられないなぁ──

 玉ノ井は、ライトグレーのシングルスーツに青のストライプのクレリックシャツをよく着ている。顔も精悍で、不良高校あたりに赴任して野球部かラグビー部の顧問になって日本一にしそうな熱血体育教師のようだ。

一方、門間はこげ茶系統のシングルスーツに白シャツをよく着る。くすり指にマジックでたれ目の顔を書いたような老け顔で、人あたりも良く、班の人間関係を調節している班のお袋さん的な存在だ。

そして信じられないのは共に三十三歳で同い年だということだ。玉ノ井は二十代に見えるし門間は下手すると五十代にみえる。
 マキは赴任した時に班長と間違えて挨拶して、苦笑されたことを思い出し赤面する。



 そろそろ大丈夫だろうと、部屋を出て宿舎に向かう。
 署から出るところで夜勤の三ツ法寺巡査長にバッタリあったので、敬礼した。

「お疲れ様です」

「ああ」

自分を見ているのかいないのか分からないくらいうつむき加減に歩き、力なく片手を挙げて挨拶する三ツ法寺に、この人はなんで、いやいや、なにが楽しくて、生きているんだろうとマキはいつも思ってた。そのくらい陰鬱とした顔しか見たことないからだ。

 背が高いがスリムなミツは、だいたいオーバーサイズで紺のシングルスーツを着ている。顔も小顔で大きな黒縁メガネがトレードマークになっている。

すれ違い様に呟かれる。

「……報告書」

「はい? 」

「報告書、よく書けてたよ……」

そう言うとそのまま署内に入っていった。

 おそらく今から事務仕事なんだろう。
 玉ノ井を避けているとは薄々感じていたけど、そのために夜勤を多めにとっているとは思わなかったし、それにどうやら班長とのペアをとられてしまったと思われているらしいのを、先程の会話で気がついた。

「なんか面倒くさくなってきたなぁ」

ミドウに出会ったことで、マキは何かが動きだしたような、そんな予感がした。



 翌朝出勤すると、黒田班は課長に呼ばれる。
 課長のデスクの前に黒田が立ち、その後ろに左からカドマ、タマ、マキそしてミツが横並びする。
 タマの横にいたくないミツが間にマキを挟んだが、採用条件ぎりぎり身長のマキでは意味がない。一人分の空間の向こうにはタマの顔が見えるので、ミツはすでにお腹を押さえていた。

──まるでナポレオンね──

 そんなことを考えていると課長からの話がはじまった。

「黒田班は昨日の不審死事件を担当すること。クロ、ミドウはどうした」

「は。昨日病院に戻ったところ、すでに抜け出していて今のところ所在不明です」

「探してこい。検死結果と身元確認それにあらためて事故か事件かを調べるように。以上」

黒田は敬礼してから振り返り、班員に命令する。

「カドマとタマは周辺の聞き込みを地域課と連携してやってくれ。マキくんはミツと組んでご遺族の田中弘美さんに事情聴取を。俺はミドウのバカを探してくる。行動開始」

 全員敬礼したあと、各々の担当に向かった。



 ──マキははじめてペアを組むミツとの距離をどう詰めようか考えながら運転していた。

「三ツ法寺先輩、徹夜明けで大丈夫ですか」

「ああ……、大丈夫だよ。班長とはうまくやってるかい」

「いちおう。……まだ慣れていないので足を引っ張ってばかりですが」

「そうだな、早く慣れるといいな……。ああ、僕のことはミツでいいよ、僕もマキと呼ぶから」

「じゃあ……ミッツ先輩でいいてすか」

「なんかカッコいいな。いいよそれで」

少し微笑みながら受け入れてくれたので、マキは少しホッとした。

「ところでご遺族さんに会ったことあるんだよね。どんな感じだい」

「診てもらった医師によると、会話が困難なくらいお爺さん──夫に依存しているようです」

マキは昨日の様子を客観的に説明する。

「ふぅん、依存症の疑いありか。慎重に話さないとな」



 病院に到着し、ロビーの受付で案内してもらい病室に向かおうとしたところで、ふたりは予想外の人物に出食わした。

「ミドウさん」

思わず声をかけるミツの声に、朗らかに返事をする。

「よう、ミツじゃないか。どうしたこんなところで」

事の関係者というか張本人なのに、他人事のように言うミドウにマキは不快感をしめした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

秘められた遺志

しまおか
ミステリー
亡くなった顧客が残した謎のメモ。彼は一体何を託したかったのか!?富裕層専門の資産運用管理アドバイザーの三郷が、顧客の高岳から依頼されていた遺品整理を進める中、不審物を発見。また書斎を探ると暗号めいたメモ魔で見つかり推理していた所、不審物があると通報を受けた顔見知りであるS県警の松ケ根と吉良が訪れ、連行されてしまう。三郷は逮捕されてしまうのか?それとも松ケ根達が問題の真相を無事暴くことができるのか!?

リモート刑事 笹本翔

雨垂 一滴
ミステリー
 『リモート刑事 笹本翔』は、過去のトラウマと戦う一人の刑事が、リモート捜査で事件を解決していく、刑事ドラマです。  主人公の笹本翔は、かつて警察組織の中でトップクラスの捜査官でしたが、ある事件で仲間を失い、自身も重傷を負ったことで、外出恐怖症(アゴラフォビア)に陥り、現場に出ることができなくなってしまいます。  それでも、彼の卓越した分析力と冷静な判断力は衰えず、リモートで捜査指示を出しながら、次々と難事件を解決していきます。  物語の鍵を握るのは、翔の若き相棒・竹内優斗。熱血漢で行動力に満ちた優斗と、過去の傷を抱えながらも冷静に捜査を指揮する翔。二人の対照的なキャラクターが織りなすバディストーリーです。  翔は果たして過去のトラウマを克服し、再び現場に立つことができるのか?  翔と優斗が数々の難事件に挑戦します!

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

魔女の虚像

睦月
ミステリー
大学生の星井優は、ある日下北沢で小さな出版社を経営しているという女性に声をかけられる。 彼女に頼まれて、星井は13年前に裕福な一家が焼死した事件を調べることに。 事件の起こった村で、当時働いていたというメイドの日記を入手する星井だが、そこで知ったのは思いもかけない事実だった。 ●エブリスタにも掲載しています

ARIA(アリア)

残念パパいのっち
ミステリー
山内亮(やまうちとおる)は内見に出かけたアパートでAR越しに不思議な少女、西園寺雫(さいおんじしずく)と出会う。彼女は自分がAIでこのアパートに閉じ込められていると言うが……

処理中です...