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第一話 ある老人の死
ミドウと黒田班 その2
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「そうそう、そのミドウさんです。ここの刑事課の人だった方なんですってね、班長に聞きました」
「通報もミドウ案件てあっただったろう? 」
「ええ、確かにそうです。そういえばそれを聞いたとき、班長も門間部長と同じ顔しましたね」
「で、班長ご指名だったろう 」
「はい。現場に到着するまで車の中でも不機嫌でしたし、サイレンの必要も無いと指示がありました」
「……マキくん警察官になって何年目だっけ」
「警察学校を出て二年になります」
「交番勤務を経て、うちについ最近配属されたんだよね。そういやしばらくおとなしかったからミドウ案件は無かったっけ──話しておいたほうがいいか」
カドマは頭をかきながら思案顔となる。しばらくすると慎重そうな感じで話しはじめた。
「ウチの班の検挙率が高いのは知ってるかい」
「はい。署の刑事課内はもちろん、県下でもトップに近い成績ですよね」
「検挙率が高いという事は検挙数も多いんだが、反面、事件数が多くて未決が少ないという事なんだよ」
「はい」
何が言いたいんだろうと、マキは首をかしげる。
「その訳はというと、ミドウさんは事件をつくっては警察、いや班長に連絡してくるからなんだ」
「事件をつくる? 」
「いや、つくるは違うか。警察や世間にまだ知られてない事件をミドウさんが掘り起こして、おおやけにしてしまうんだよ」
「ああ」
なるほどとマキは理解した。だから事件数が多いけど、すでにミドウさんの手によって犯人や被疑者が見つかっているから、あとは逮捕して調書をとり送検するだけなのか。
もっとも、その[だけ]の方が大変なのだが。
「ミドウさんは、毎度うちの刑事課に連絡するんだけど、他の班の者が行ってもめたことがあってね、それ以来うちの班の者が行くようになったんだ。けど、私やタマだと元上司の民間人を相手する感じになるからやりにくい」
「そう……ですね。三ツ法寺先輩はどうなんです」
「ミツは──ミドウさんと班長は憧れの人だから腰砕けもいいとこでな。だから結局班長が行くことになるんだ」
「ということは……班長とペアの私も行くことになるんですか」
「そういうことになるね」
だから班長は覚えておけと言ったのかとマキは納得した。
その件については納得したが、いい機会だから疑問に思っていた事をカドマに訊ねることにする。
「まえから思っていたんですけど、うちの班、ペアの組み方が不自然ではないですか」
「まあそうだね」
普通、刑事というか警察官は二人一組のペアを組む。そしてそれは先輩と後輩もしくは上司と部下の筈なのだ。だから班長と私のペアはおかしくないが、後輩の三ツ法寺巡査長がいるのに、門間部長と玉ノ井部長は同じ階級でペアを組んでいる。
「いちおう刑事課長公認というか黙認なんだけどね、こうなったのには歴史があるんだ。
マキくんが来る前、ミドウさんが班長で班長はタマと、私はミツと組んでいた。それから数年して、ミドウさんが辞めた。理由は知らない、班長は知っている様だけどね。その後、黒田さんが班長となったんだけど、補充員が来なかったのでデスクワークが増えてね。だから一時期はタマが独りで現場に行くことが多くなった」
それを聞いてマキはすぐピンときた。おそらくというか間違いなく現場でもめたに違いない。玉ノ井さんは脳筋というか力ずくで解決したがるからだ。
「案の定、タマは現場でもめることが多くてな。その処理にまた班長が行くんで、二度手間になることが多くなり、配置替えしてみることにした」
「それで玉ノ井さんと門間さんのペアになったんですか」
「いや、タマとミツのペアになった」
「それは……」
地獄だったろうな三ツ法寺先輩、とマキは想像する。
「ミツは元々サイバー犯罪対策で来ているからな、頭脳労働派なんだけど、タマは現場主義の肉体労働派。だからうまく噛み合えばいいコンビになると思ったんだ」
「噛み合いませんでしたか」
「破壊したな」
──せめて故障とか噛み合わせが悪かったくらいならいいのに──
「破壊といいますと」
「タマの顔を見るたびにミツがトイレに駆け込み吐くようになってしまったんだよ」
「よく辞めませんでしたね」
「ミツはミドウさんと班長が好きだからな。好きといってもそういう意味じゃないぞ」
「わかってます」
「尊敬しているというか憧れているという意味だからな。二人とも知性派でありながら、行動的であり腕っぷしも強いから、そういうところを憧れていたそうだ。それで班長の下で働いていたいから頑張ったんだが、限界がみえたから、タマとのペアを解消して班長とペアとなり、私がタマのペアとなったんだ」
「それで私が来て、班長とペアになったんですか」
「またゼロから再編するよりも楽だからな。ミツは不満そうだったが、マキくんとタマのコンビは合わないと感じたし、そうなると私とタマ、班長とマキくんがペアで現場に出て、ミツがデスクワークというカタチがしっくりくるからね」
「そういうことでしたか」
マキは現状になるまでを知り、すっきりした。同時にタマとペアにならなかったことにも感謝するのだった。
「通報もミドウ案件てあっただったろう? 」
「ええ、確かにそうです。そういえばそれを聞いたとき、班長も門間部長と同じ顔しましたね」
「で、班長ご指名だったろう 」
「はい。現場に到着するまで車の中でも不機嫌でしたし、サイレンの必要も無いと指示がありました」
「……マキくん警察官になって何年目だっけ」
「警察学校を出て二年になります」
「交番勤務を経て、うちについ最近配属されたんだよね。そういやしばらくおとなしかったからミドウ案件は無かったっけ──話しておいたほうがいいか」
カドマは頭をかきながら思案顔となる。しばらくすると慎重そうな感じで話しはじめた。
「ウチの班の検挙率が高いのは知ってるかい」
「はい。署の刑事課内はもちろん、県下でもトップに近い成績ですよね」
「検挙率が高いという事は検挙数も多いんだが、反面、事件数が多くて未決が少ないという事なんだよ」
「はい」
何が言いたいんだろうと、マキは首をかしげる。
「その訳はというと、ミドウさんは事件をつくっては警察、いや班長に連絡してくるからなんだ」
「事件をつくる? 」
「いや、つくるは違うか。警察や世間にまだ知られてない事件をミドウさんが掘り起こして、おおやけにしてしまうんだよ」
「ああ」
なるほどとマキは理解した。だから事件数が多いけど、すでにミドウさんの手によって犯人や被疑者が見つかっているから、あとは逮捕して調書をとり送検するだけなのか。
もっとも、その[だけ]の方が大変なのだが。
「ミドウさんは、毎度うちの刑事課に連絡するんだけど、他の班の者が行ってもめたことがあってね、それ以来うちの班の者が行くようになったんだ。けど、私やタマだと元上司の民間人を相手する感じになるからやりにくい」
「そう……ですね。三ツ法寺先輩はどうなんです」
「ミツは──ミドウさんと班長は憧れの人だから腰砕けもいいとこでな。だから結局班長が行くことになるんだ」
「ということは……班長とペアの私も行くことになるんですか」
「そういうことになるね」
だから班長は覚えておけと言ったのかとマキは納得した。
その件については納得したが、いい機会だから疑問に思っていた事をカドマに訊ねることにする。
「まえから思っていたんですけど、うちの班、ペアの組み方が不自然ではないですか」
「まあそうだね」
普通、刑事というか警察官は二人一組のペアを組む。そしてそれは先輩と後輩もしくは上司と部下の筈なのだ。だから班長と私のペアはおかしくないが、後輩の三ツ法寺巡査長がいるのに、門間部長と玉ノ井部長は同じ階級でペアを組んでいる。
「いちおう刑事課長公認というか黙認なんだけどね、こうなったのには歴史があるんだ。
マキくんが来る前、ミドウさんが班長で班長はタマと、私はミツと組んでいた。それから数年して、ミドウさんが辞めた。理由は知らない、班長は知っている様だけどね。その後、黒田さんが班長となったんだけど、補充員が来なかったのでデスクワークが増えてね。だから一時期はタマが独りで現場に行くことが多くなった」
それを聞いてマキはすぐピンときた。おそらくというか間違いなく現場でもめたに違いない。玉ノ井さんは脳筋というか力ずくで解決したがるからだ。
「案の定、タマは現場でもめることが多くてな。その処理にまた班長が行くんで、二度手間になることが多くなり、配置替えしてみることにした」
「それで玉ノ井さんと門間さんのペアになったんですか」
「いや、タマとミツのペアになった」
「それは……」
地獄だったろうな三ツ法寺先輩、とマキは想像する。
「ミツは元々サイバー犯罪対策で来ているからな、頭脳労働派なんだけど、タマは現場主義の肉体労働派。だからうまく噛み合えばいいコンビになると思ったんだ」
「噛み合いませんでしたか」
「破壊したな」
──せめて故障とか噛み合わせが悪かったくらいならいいのに──
「破壊といいますと」
「タマの顔を見るたびにミツがトイレに駆け込み吐くようになってしまったんだよ」
「よく辞めませんでしたね」
「ミツはミドウさんと班長が好きだからな。好きといってもそういう意味じゃないぞ」
「わかってます」
「尊敬しているというか憧れているという意味だからな。二人とも知性派でありながら、行動的であり腕っぷしも強いから、そういうところを憧れていたそうだ。それで班長の下で働いていたいから頑張ったんだが、限界がみえたから、タマとのペアを解消して班長とペアとなり、私がタマのペアとなったんだ」
「それで私が来て、班長とペアになったんですか」
「またゼロから再編するよりも楽だからな。ミツは不満そうだったが、マキくんとタマのコンビは合わないと感じたし、そうなると私とタマ、班長とマキくんがペアで現場に出て、ミツがデスクワークというカタチがしっくりくるからね」
「そういうことでしたか」
マキは現状になるまでを知り、すっきりした。同時にタマとペアにならなかったことにも感謝するのだった。
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