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ユーリの苦悩

貴族連合

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 集まってきたブラパン伯爵達が議会室に入ると、昨日とは空気が一変していた。ブラパン伯爵を筆頭にひとつの集団となっていたのだ。もちろんブラン男爵もだ。

──昨夜のうちに懐柔させたようだな。さて、どうくるか──

「おはようございます女王陛下代行。我々を緊急招集するとは、ずいぶんとはりきっておられるようですな」
「左様左様、長きにわたりこの国を護り支えてきた我らをですな」
「役目と法に則り要請に応えておりますが、あまりないがしろにしてもらっては沽券にかかわる」
「まったくその通り」
「……」

「別にないがしろにしているつもりはありませんな。成り立ての女王代行の要請に応えてくれただけで、貴公らの王国への忠誠心がよくわかる。ならばこそ呼んだのだ」

「どういうことですか。来る途中、親衛隊の者がなにやら出ていくのを見かけましたが」

「朝早く、友好国のユグドラシル樹立国から連絡があり、[はじまりの村]が何者かに襲われているらしい」

「何者かとは」

「まだ分かっていない。なので女王代行権限で親衛隊の者を様子見に行かせたのだ」

「つまりまだ何も分かってないのに我々を呼び出したというわけですか。少々早計というか早とちりしてませんか」

「後手にまわるよりよかろう。確かめたあと救援隊を編成して出動では遅いかもしれん」

「誤確認で無駄足かもしれませんな。だいたい友好国とやらのユグドラシル樹立国となぜ連絡をとれるのです。女王陛下代行は樹立国とどういう関係なのです」

「それは……知己としか言いようがないな」

「ほう、知己ですか。そういえばクチキ殿といいましたか、彼の者とは宮殿で愛を確かめ合う仲と聞いておりますが……」

「あれは……」

 人質交換をしていた頃にユーリ自身の価値を高めるためにした芝居であったが、まさかこんなところで追求されるとは思わなかった。

──どういうことだ? 昨夜とはうってかわって攻撃的になっている。円滑に物事を進めなければ不安要素がふえるというのに──

 会話をしながら各々の貴族の様子を伺っていたが、誰もが敵意とまではいかないが邪魔者めという空気をかもし出していた。
 どうしてそうなったかを、末席のブラン男爵をみて気がついた。

──そうか。私が女王代行になったのは内通している貴族が分からなかったからだ。それがコットンだと分かった以上、ブラパン達にとっては他所者の私が女王の座にいる必要は無いというわけか──

 ユーリ自身、さっさと女王の座を降りたいのだが、この国の行く先次第では[女神フレイヤからの試練]を果たせないかもしれない。そうすれば[試練]をしている以上、[神聖痕紋]という神罰を受けるかもしれない。

──ブラパン達の真意がわかるまでは迂闊なことはできないな──

 ユーリはとりあえずこのくだらない追求をかわすことにした。

「少々誤解があるようなので訂正したいが──クチキ殿とは愛し合ってるのではなく……愛されているのだ」

「は? あ?」

「男というものは愛してる女のために色々としてくれるものでな、べつに頼んではいないのに報せてくれたのだ」

 ユーリがブラパン達を見回したあと言葉をつづける、あえて自信たっぷりに自慢気に。

「先日、帝国軍を食い止めているのをクチキ殿の能力で観たであろう。彼の者がどれほどの威力を持っているかは[カイマ事件]においてもご存知のはずだ、そんな男に愛されているのだよ。この私はな。何が言いたいかというとな、私がこの座に座っている限り彼の者はこのカーキ=ツバタ王国を全力で護ってくれるということだ」

 愛されている自信があるゆえの余裕。それは男にとっては理解しづらい。なぜならそれは女が女に対しておこなう優劣のアピールだからだ。

「まあそう言われたらエルザ女王なら『わたくしは6人の男性に愛されてますわ』と言い返すだろうな。なにしろ己が命を賭けてまで守ろうとした者までいるのだから」

 そう言われて全員が眉をひそめる。やり方や結果はともかく、エルザ女王の不調に気づき行動したのはコットン伯爵だけなのだから。

「口を慎んでもらおうか。我らとてエルザ女王を愛し守る敬愛精神は引けを取らぬ。だからこそ祖国カーキ=ツバタを侵略の手から防ごうとしているのではないか」

「ならば[はじまりの村]は守らなくてもよいと」

「[はじまりの村]こそ我が国の出発点、我等が先祖の故郷、守って当然」

「しかし様子見をしないと」

「そうは言ってない。ただ軽々と動くには……」

 途中で衛兵がひとり、議会室に入ってくる。

「会議中申し訳ありません、先程街道の関からハヤウマにて報せがありました。[はじまりの村]に異変ありとのことです」

 ヒートアップしていたブラパン伯爵が衛兵に噛みつくように訊ねる。

「何事か」

「は、はい。西側と北側の物見台より、遠方に黒煙を確認。それとは別に[はじまりの村]への定期便が向う途中で同じく黒煙を視認、街道の関まで戻り異常を報告してハヤウマにて先程伝えられました。[はじまりの村]に異変ありと」
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