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ユーリの苦悩
[コト]が起きる
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そして翌日の朝、クッキーによって[はじまりの村]が襲われているのを知る。明け方近くまで下調べをしていて、ようやく寝入ったところでヒトハに起こされてしまったのだ。
容姿を気にしている余裕もなく、ボサボサ頭の不機嫌顔で寝室の樹液モニターに出る。
「クッキー、[はじまりの村]が燃えているというのは本当か」
「ああ。フタハが報せてくれた。原因は分からないが、まるで村全体が燃えてるようだった」
「それを見られないか」
中継で見せられた[はじまりの村]。どう見ても村そのものが燃えてるとしか見えない炎の勢いに、村人が全滅の可能性が頭をよぎる。どうしようもない様子にイラつきながらぼりぼりと頭を掻く。
「これが[コト]というやつか」
吐き捨てるように呟いたあと、両の頬をパシパシと叩きクッキーに話す。
「ユグドラシル樹立国のクチキ殿に、カーキ=ツバタ王国の友好国として要望する。[はじまりの村]の村人救出に力を貸していただきたい」
「ああ、それはいいが、具体的にはどうすればいい」
「おそらく村はもう無理だ。だから逃げ出した人々をできるだけ我が国まで連れてきてほしい。方法はまかせる」
「ユーリは」
「女王代行だぞ、しかも成りたての。命令しても聞く耳を持たれるわけない。しかも問題も抱えているし──」
「問題って」
「なんでもない。とにかく村人救出をお願いする──と、そういえばアンナがいたな。では彼女を救出隊の隊長に任命する。あとは話し合ってくれ」
それだけ言うと着替えるからとモニターを切る。
「これが本当に[コト]というのならコットンに恩情をかける裁きはできない、死罪確定の出来事だ。そしてアンナにも累はどうしてもおよぶ。どうすればいいんだ」
エルザを復活させても、アンナを後継者として残すことができなければ王国の存亡に関わることになる。そこまで考えてハッとする。
「──まさかここまで謀ってコットンを内通者に選んだのか」
考え過ぎかと思おうとしたが、それを振りはらった。考えるから考え過ぎるくらいまでが丁度いいのだ。考えないは論外だ。
予定ではブラパン伯爵とともにシャイン・ロックの尋問をしたあと、コットン伯爵を貴族議会で喚問するつもりだったが、順番を逆にすることにする。
※ ※ ※ ※ ※
コットン伯爵以外、ブラパン伯爵をはじめとする貴族全員に緊急招集の報せを出したあと、親衛隊全員を謁見の間に来るように指示。それまでに着替えと簡単な食事を済ませる。
謁見の間には[はじまりの村]の映像を常時映させて順不同に来た隊員に何が起きてるかを見せ、司令塔であるゾフィが来てすぐに事態の説明をはじめた。
「なんと、[はじまりの村]が襲われているとは」
「これが例の[コト]だとすると、どうなるかわかるか」
「……わかります」
ゾフィだけがこたえる。コットン伯爵の裏切りはまだ広めるわけにはいかない、他の隊員には言うわけにはいかなかった。
「一刻も早く衛兵隊を出したいところだが議会の承認がいる」
「事情はわかりました。ユーリ様、御命令を」
「うむ。アンナ王女はこちらに向かっている途中で、そのまま救援隊の編成をし指揮を任せた。ゾフィ親衛隊長、親衛隊より数名をこちらより派遣し、救援隊の応援をせよ」
「はっ」
拝命の儀を終えるとゾフィは隊員達に向き、指示をとばす。
「エニスタ、ジャクリーン、レオーネそしてアルス、以上の者は直ちにアンナ王女のもとへ向え。合流するまでの隊長はエニスタ。合流後はアンナ王女に従うように」
4名は敬礼をするとすぐさま出ていき、それを見送ったあとゾフィはユーリに説明する。
「彼女らは親衛隊でも武辺者です。シンシアがアンナ王女の指揮のサポートをするので大丈夫でしょう」
「うむ、助かる。ではコットン伯爵を王宮に連れてきてくれ。議会が始まるまで別室で控えされておくように。ほかに何か新しい事実はないか」
「昨夜はブラパン伯爵がまっすぐ帰らず、ブラン男爵の屋敷に行かれました。他の3方はブラパン伯爵の屋敷に向かい、帰るのを待ってから遅くまで居てからの帰宅。
コットン伯爵の屋敷は見張りを立てましたから、いずれ異変に気づくでしょう。今のところまだ目立った動きはありません」
「うむ」
「それとは別にギルドからシャイン・ロックを王宮まで連行したのは見られていますから、いずれ異変があったと知られるかと」
「そうだな……、国民に知られるのは時間の問題か」
早急に現状を説明しなければならない、女王が倒れ、貴族が内通し、帝国が攻めてきていて、(国民にとっては)何処かのウマの骨が女王代行していることを。
ざっと考えただけでうんざりして、今すぐ祭殿にいってエルザを叩き起こしたい衝動にかられる。
「ゾフィ、エルザを復活させたら一発張り倒すのを見逃せよ」
「……聞かなかったことにします」
容姿を気にしている余裕もなく、ボサボサ頭の不機嫌顔で寝室の樹液モニターに出る。
「クッキー、[はじまりの村]が燃えているというのは本当か」
「ああ。フタハが報せてくれた。原因は分からないが、まるで村全体が燃えてるようだった」
「それを見られないか」
中継で見せられた[はじまりの村]。どう見ても村そのものが燃えてるとしか見えない炎の勢いに、村人が全滅の可能性が頭をよぎる。どうしようもない様子にイラつきながらぼりぼりと頭を掻く。
「これが[コト]というやつか」
吐き捨てるように呟いたあと、両の頬をパシパシと叩きクッキーに話す。
「ユグドラシル樹立国のクチキ殿に、カーキ=ツバタ王国の友好国として要望する。[はじまりの村]の村人救出に力を貸していただきたい」
「ああ、それはいいが、具体的にはどうすればいい」
「おそらく村はもう無理だ。だから逃げ出した人々をできるだけ我が国まで連れてきてほしい。方法はまかせる」
「ユーリは」
「女王代行だぞ、しかも成りたての。命令しても聞く耳を持たれるわけない。しかも問題も抱えているし──」
「問題って」
「なんでもない。とにかく村人救出をお願いする──と、そういえばアンナがいたな。では彼女を救出隊の隊長に任命する。あとは話し合ってくれ」
それだけ言うと着替えるからとモニターを切る。
「これが本当に[コト]というのならコットンに恩情をかける裁きはできない、死罪確定の出来事だ。そしてアンナにも累はどうしてもおよぶ。どうすればいいんだ」
エルザを復活させても、アンナを後継者として残すことができなければ王国の存亡に関わることになる。そこまで考えてハッとする。
「──まさかここまで謀ってコットンを内通者に選んだのか」
考え過ぎかと思おうとしたが、それを振りはらった。考えるから考え過ぎるくらいまでが丁度いいのだ。考えないは論外だ。
予定ではブラパン伯爵とともにシャイン・ロックの尋問をしたあと、コットン伯爵を貴族議会で喚問するつもりだったが、順番を逆にすることにする。
※ ※ ※ ※ ※
コットン伯爵以外、ブラパン伯爵をはじめとする貴族全員に緊急招集の報せを出したあと、親衛隊全員を謁見の間に来るように指示。それまでに着替えと簡単な食事を済ませる。
謁見の間には[はじまりの村]の映像を常時映させて順不同に来た隊員に何が起きてるかを見せ、司令塔であるゾフィが来てすぐに事態の説明をはじめた。
「なんと、[はじまりの村]が襲われているとは」
「これが例の[コト]だとすると、どうなるかわかるか」
「……わかります」
ゾフィだけがこたえる。コットン伯爵の裏切りはまだ広めるわけにはいかない、他の隊員には言うわけにはいかなかった。
「一刻も早く衛兵隊を出したいところだが議会の承認がいる」
「事情はわかりました。ユーリ様、御命令を」
「うむ。アンナ王女はこちらに向かっている途中で、そのまま救援隊の編成をし指揮を任せた。ゾフィ親衛隊長、親衛隊より数名をこちらより派遣し、救援隊の応援をせよ」
「はっ」
拝命の儀を終えるとゾフィは隊員達に向き、指示をとばす。
「エニスタ、ジャクリーン、レオーネそしてアルス、以上の者は直ちにアンナ王女のもとへ向え。合流するまでの隊長はエニスタ。合流後はアンナ王女に従うように」
4名は敬礼をするとすぐさま出ていき、それを見送ったあとゾフィはユーリに説明する。
「彼女らは親衛隊でも武辺者です。シンシアがアンナ王女の指揮のサポートをするので大丈夫でしょう」
「うむ、助かる。ではコットン伯爵を王宮に連れてきてくれ。議会が始まるまで別室で控えされておくように。ほかに何か新しい事実はないか」
「昨夜はブラパン伯爵がまっすぐ帰らず、ブラン男爵の屋敷に行かれました。他の3方はブラパン伯爵の屋敷に向かい、帰るのを待ってから遅くまで居てからの帰宅。
コットン伯爵の屋敷は見張りを立てましたから、いずれ異変に気づくでしょう。今のところまだ目立った動きはありません」
「うむ」
「それとは別にギルドからシャイン・ロックを王宮まで連行したのは見られていますから、いずれ異変があったと知られるかと」
「そうだな……、国民に知られるのは時間の問題か」
早急に現状を説明しなければならない、女王が倒れ、貴族が内通し、帝国が攻めてきていて、(国民にとっては)何処かのウマの骨が女王代行していることを。
ざっと考えただけでうんざりして、今すぐ祭殿にいってエルザを叩き起こしたい衝動にかられる。
「ゾフィ、エルザを復活させたら一発張り倒すのを見逃せよ」
「……聞かなかったことにします」
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