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ユーリの辣腕

恥ずか死させるきか、まったく

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「アンナ王女、事態の深刻さは解ってくれたか」

「……はい」

「事は後継者問題でもあるのだ。それゆえの帰国命令だとわかってほしい」

「じゅうぶん承知しております。急ぎ帰国します」

「うむ。それとわかっていると思うが、クチキ国王にはいっさい知らさぬように。今後は私がユグラシドル樹立国と対応する」

「受けたまりました」

 ゾフィからシンシアによろしく頼むぞと伝えたあと、通信を切る。

「ユーリ様、大丈夫ですか。なにやら途中で言葉につまったり顔色が変わったりしましたが」

「な、なんでもない。だがさすがに疲れたな。少し休んでから部屋に戻るから、ゾフィももう休んでくれ。あとは明日だ」

「了解しました。それでは外に護衛を残しておきますので、お戻りの際は声をかけてください」

「ありがとう」

 ゾフィが謁見の間から出ていったのを確認してから、ユーリはジタバタする。ヒトハが樹液モニターにでる。

「ユーリ様、大丈夫ですか」

「大丈夫な訳ないだろう、まったく。時と場合を考えてもらいたいな」

 エルフ特有の長い耳の先まで真っ赤になった顔を手で扇ぎながらユーリは怒っているような、恥ずかしくて照れているような困った顔をしていた。

「アンナと王国について深刻で真面目な話をしている最中に、あんな恥ずかしい事を言い出しおって」

(──どうする、ここは孫子の兵法だな、[彼を知り己を知れば百戦危うからず]だ。ユーリはどんなヤツだ。キレイだ。……いやそうだけどそうじゃなくて、長い金髪とか白い素肌とかしなやかな肢体とか、形の良い乳房とか、よくしまったお尻とか、スラリとした手足とかじゃなくて、ツンとすました顔をしていながら意外と照れ屋でそこがまた可愛いとかじゃなくて……──)

 クッキーのだだ漏れ本心を止めさせることもできず、周りに覚られないよう顔色を変えないのに苦労した。それなのに。

(──しかしさすがだね、大賢者なんて二つ名を持つだけのことはあるよ。
 いいオンナだよなぁ、知的美人ってやつかな。見てるだけでウットリしちゃうよなぁ。普段は狩りをしているだけあって動きも俊敏だし、カイマと戦った時も強くて戦乙女バルキリーと見間違うかと思ったし、ああそういや口移しで世界樹の実を渡してくれたっけ。いい思い出だなぁ──)

 気にしないようにしてたのに、クッキーもずっと触れてなかったから覚えていないか忘れてると思っていたのに、ちゃんと口移しのことを覚えていたので真っ赤になってしまったのだ。

「申し訳ありません。お父様との会話を伝えるように心を繋いでましたのに、まさかあんな事を言い続けるとは」

「おかげでアンナに悟られぬよう、顔に出さないのに苦労してしまったわ」

 ぷりぷりと頬を膨らませながら文句を言うユーリだったが、ヒトハは何となく嬉しそうだなと感じていた。

※ ※ ※ ※ ※

 王宮地下の牢屋では、ギルドマスターのシャイン・ロックが簡易ベッドの上でまんじりとした気持ちで横たわっていた。

「シャイン・ロック、起きているか」

 聞こえてはいるがあえて寝たふりをする。

「返答が無いとはいえ、そこにいるのは確認したから女王代行からの伝言を伝える。[カーキ=ツバタ王国任地のギルドマスター、シャイン・ロックを大陸本部へ今回の一件を報告する]とのことだ。伝えたからな」

 さすがに慌てて起き上がる。

「ちょ、ちょ、ちょっと、ちょっと待ってくださいよユーリ様。いきなりそれは無いですよ」

「だったらさっさと起きんか。用件はわかっているだろう」

「へいへい」

「まだ目覚めてないようだな、やっぱり報告するか」

「いえ、ちゃんと起きてます。ほらこの通り貴女の前で膝をついて用件を聞く姿勢ができてますよね」

 初めてあったときは礼儀正しかったのに、同じ人物かと思うほどふてぶてしい。どうやらこっちが地のようだなとユーリは笑う。

「いちおう訊くが、どんな用件だと思っているのか」

「帝国との繋ぎ、ですよね。そしてその役目はラングル・ノブル・ブラパン伯爵でしょうか」

「ほう。どうしてそう思った」

「タカ派で軍隊を創設しようと普段から声高にしてますが、それは帝国の軍事力を目の当たりにしてのことだと思います。あれでけっこう愛国心がありますからね。国を守るためには戦うより交渉だと地に足がついた考えの持ち主とみてます」

「交渉するにはどうしたらいい」

「やはり中立の立場の者に、あいだに立ってもらうのがいいでしょう。そこでギルドの出番となります。そしてカーキ=ツバタ王国ではこの私、ということになりますね」

「ならば助かるにはどうしていいか、わかってるな」

「もちろん、ブラパン伯爵に協力して交渉に尽力をつくしますとも」

「ふん、調子のいいヤツだな。明日あらためて尋問するから同席するブラパンに嫌われないようにな」

「わかりましたとも」

「話はそれだけだ。いや──ひとつ訊いておきたいことがある」

「なんでしょう」

「どうしてブラパンではなくコットンに話を持ちかけたのだ」

「それを決めたのは私じゃありません。帝国から届いた手紙をコットン伯爵に渡してくれと言われただけですから」
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