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ユーリの辣腕
コーサク・ノブル・コットン伯爵
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ユーリが合図すると、隣室から親衛隊に両脇を抱えられた男が出てくる。それをみてコットン伯爵はひっと声をあげる。男はカーキ=ツバタ王国にあるギルドのマスターであった。
「ギルドマスター、名はシャイン・ロックだったな。コットン伯爵と帝国の繋ぎを協力したのはお前だな」
「……はい、その通りです」
シャイン・ロックはしおらしく返事をし、コットン伯爵に向けて話す。
「伯爵、すまない。ギルドメンバーにも階級があって、私は逆らえないのです」
それからユーリに、というかそこにいる面々に説明するように話しはじめる。
「ユーリ様は今あるギルドの礎を創られるのに貢献された方で、その功績により[最高位メンバー]のひとりである方なのです。私などではとてもさからえません」
そして深々と頭を下げる。もう疑いようのない確実に決まった空気だった。ギルドを通じてコットン伯爵が帝国と内通していたのだと。
「あとでさらに尋問する。シャイン・ロックを牢屋に連れて行け」
ユーリの命により親衛隊に連れて行かれ退室すると、コットン伯爵に視線が集まる。まず問い詰めたのはブラパン伯爵だった。
「コットン、どうしてこんな真似を。自分でもわかっているだろう、貴侯は内政には感心するほどの才覚はあるが、外交手腕はそれほどでもないということを。何故なんだ」
「……知っているとも。だが、それでも、どうしても……女王陛下を、エルザを助けたかったんだ……」
コットン伯爵は絞り出すように己の思いを吐露しはじめた。
──内政に特異な才能を持つコーサク・ノブル・コットン伯爵。その理由は周りの人の仕草や言動で内面を見抜き、相性の良い相手と組ませたり、さり気なく不満を解消させていたからだ。
誰もが欲しくなるような才覚だが、欠点として実際に会ってる人でないと分からないということだった。
その能力ゆえ、エルザ女王がカイマ事件以降、体調が悪いのを見抜いており、それを知られたくないまでわかっていた。そして帝国との交渉によりさらに悪化。
同じく肌を合わせた他の貴族達は誰もが気づかなかった。それほどエルザは気丈に、弱みを見せずに、女王としての責務を果たし続けていたのだった。
だが、コットン伯爵だけは気がついていた。このままでは倒れてしまう、最悪の場合は死んでしまうのではないかと──なんとか助けてやりたいと思っているところへ、ギルドを通じて帝国から打診があったのだ。
「……王国と領土を保障するから帝国との交渉を有利にするよう働きかけてくれといってきた」
「相手は」
「わからない。だが封書の印と手紙の印は間違いなく帝国のものだった」
「いつから」
「──はじめてきたのはふた月くらい前だったと思う」
「……」
皆、沈黙してしまった。
誰もがエルザ女王の不調に気づかなかった、そのことが罪悪感として重しのように背中にのしかかっているのと、さらには失敗したとはいえそれに気づいて動いていたのはコットン伯爵のみ。とても彼を責められなかったのだ。
「だが動機はなんであれ、国難を招いたのは事実。コーサク・ノブル・コットン伯爵、ユーリ・アッシュ・エルフネッド女王代行の名において屋敷での謹慎を命じる。沙汰が決まるまで大人しくしているように」
ゾフィに促すように合図を送ると、親衛隊2名が此方へと案内する。コットン伯爵はうなだれながら静かに退場した。
※ ※ ※ ※ ※
残ったのは5名の貴族とマリカ司祭長そしてゾフィ親衛隊長とユーリ。その中のひとりが声を出して嘆きはじめる。
「ああなんという事だ。カイマ襲撃で大打撃を受けてまだ復興しきれてないうちに、帝国の侵攻。そんな最中に女王が倒れてコットン伯爵が内通をしていたなんて……。我が国は、カーキ=ツバタ王国はどうなってしまうのだ」
この言葉にブラパン伯爵が奮い立たせるように声を出す。
「狼狽えるなブラン男爵!! 貴侯はそれでも貴族か。なるほど確かに我らの先祖は田舎の村長であった。だが代を重ねる間に他国の王族貴族と婚姻関係をもうけ貴族の名に恥じない血筋とふるまいを身につけたのではないか。我らは貴族、領民と領地をまもる義務がある、それこそが貴族の義務であろう」
ブラン男爵はコットン派で、さらにはその陰にかくれてブラパン派を悪く言う程度の器、ブラパン伯爵の一喝に震え上がる。
「貴侯の言うとおりカーキ=ツバタ王国建国100年以来、おそらく最大の危機であろう。だからこそ我々の存在価値を民に、そして帝国と世に知らしめる絶好の機会だと思え」
黙って聞いていたユーリは心の中で感心していた。
──ブラパンという男、なかなか気骨のある人物のようだな。マリカからの提案を託す価値はありそうか──
そんなことを考えていると、ブラパン伯爵はこちらを向きうやうやしく礼をとる。
「エルフ、いや、ユーリ・アッシュ・エルフネッドよ。そなたを女王代行として認めよう。そのうえで尋ねる。この国をどのようにするつもりだ」
返答次第ではただではおかんぞ、と言わんばかりの気迫。ユーリはつい顔がほころびそうになったが、すぐに気を引き締め真顔となる。
「ギルドマスター、名はシャイン・ロックだったな。コットン伯爵と帝国の繋ぎを協力したのはお前だな」
「……はい、その通りです」
シャイン・ロックはしおらしく返事をし、コットン伯爵に向けて話す。
「伯爵、すまない。ギルドメンバーにも階級があって、私は逆らえないのです」
それからユーリに、というかそこにいる面々に説明するように話しはじめる。
「ユーリ様は今あるギルドの礎を創られるのに貢献された方で、その功績により[最高位メンバー]のひとりである方なのです。私などではとてもさからえません」
そして深々と頭を下げる。もう疑いようのない確実に決まった空気だった。ギルドを通じてコットン伯爵が帝国と内通していたのだと。
「あとでさらに尋問する。シャイン・ロックを牢屋に連れて行け」
ユーリの命により親衛隊に連れて行かれ退室すると、コットン伯爵に視線が集まる。まず問い詰めたのはブラパン伯爵だった。
「コットン、どうしてこんな真似を。自分でもわかっているだろう、貴侯は内政には感心するほどの才覚はあるが、外交手腕はそれほどでもないということを。何故なんだ」
「……知っているとも。だが、それでも、どうしても……女王陛下を、エルザを助けたかったんだ……」
コットン伯爵は絞り出すように己の思いを吐露しはじめた。
──内政に特異な才能を持つコーサク・ノブル・コットン伯爵。その理由は周りの人の仕草や言動で内面を見抜き、相性の良い相手と組ませたり、さり気なく不満を解消させていたからだ。
誰もが欲しくなるような才覚だが、欠点として実際に会ってる人でないと分からないということだった。
その能力ゆえ、エルザ女王がカイマ事件以降、体調が悪いのを見抜いており、それを知られたくないまでわかっていた。そして帝国との交渉によりさらに悪化。
同じく肌を合わせた他の貴族達は誰もが気づかなかった。それほどエルザは気丈に、弱みを見せずに、女王としての責務を果たし続けていたのだった。
だが、コットン伯爵だけは気がついていた。このままでは倒れてしまう、最悪の場合は死んでしまうのではないかと──なんとか助けてやりたいと思っているところへ、ギルドを通じて帝国から打診があったのだ。
「……王国と領土を保障するから帝国との交渉を有利にするよう働きかけてくれといってきた」
「相手は」
「わからない。だが封書の印と手紙の印は間違いなく帝国のものだった」
「いつから」
「──はじめてきたのはふた月くらい前だったと思う」
「……」
皆、沈黙してしまった。
誰もがエルザ女王の不調に気づかなかった、そのことが罪悪感として重しのように背中にのしかかっているのと、さらには失敗したとはいえそれに気づいて動いていたのはコットン伯爵のみ。とても彼を責められなかったのだ。
「だが動機はなんであれ、国難を招いたのは事実。コーサク・ノブル・コットン伯爵、ユーリ・アッシュ・エルフネッド女王代行の名において屋敷での謹慎を命じる。沙汰が決まるまで大人しくしているように」
ゾフィに促すように合図を送ると、親衛隊2名が此方へと案内する。コットン伯爵はうなだれながら静かに退場した。
※ ※ ※ ※ ※
残ったのは5名の貴族とマリカ司祭長そしてゾフィ親衛隊長とユーリ。その中のひとりが声を出して嘆きはじめる。
「ああなんという事だ。カイマ襲撃で大打撃を受けてまだ復興しきれてないうちに、帝国の侵攻。そんな最中に女王が倒れてコットン伯爵が内通をしていたなんて……。我が国は、カーキ=ツバタ王国はどうなってしまうのだ」
この言葉にブラパン伯爵が奮い立たせるように声を出す。
「狼狽えるなブラン男爵!! 貴侯はそれでも貴族か。なるほど確かに我らの先祖は田舎の村長であった。だが代を重ねる間に他国の王族貴族と婚姻関係をもうけ貴族の名に恥じない血筋とふるまいを身につけたのではないか。我らは貴族、領民と領地をまもる義務がある、それこそが貴族の義務であろう」
ブラン男爵はコットン派で、さらにはその陰にかくれてブラパン派を悪く言う程度の器、ブラパン伯爵の一喝に震え上がる。
「貴侯の言うとおりカーキ=ツバタ王国建国100年以来、おそらく最大の危機であろう。だからこそ我々の存在価値を民に、そして帝国と世に知らしめる絶好の機会だと思え」
黙って聞いていたユーリは心の中で感心していた。
──ブラパンという男、なかなか気骨のある人物のようだな。マリカからの提案を託す価値はありそうか──
そんなことを考えていると、ブラパン伯爵はこちらを向きうやうやしく礼をとる。
「エルフ、いや、ユーリ・アッシュ・エルフネッドよ。そなたを女王代行として認めよう。そのうえで尋ねる。この国をどのようにするつもりだ」
返答次第ではただではおかんぞ、と言わんばかりの気迫。ユーリはつい顔がほころびそうになったが、すぐに気を引き締め真顔となる。
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