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ユーリの辣腕
貴族達と内通者
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──日没してしばらく経ったとき、衛兵が王宮を走り回っていた。会議中に抜け出したまま戻らないエルザ女王とユーリを、貴族達がしびれを切らして探させていたのだ。
そこへユーリのみがゾフィとマリカを伴い戻ってきた。
「貴様、今まで何をしていたっ。陛下は、女王陛下はどうしたのだ」
血気盛んなブラパン伯爵が野獣のように問い詰める。それを無表情なまま受け流すと、ユーリは無言のまま歩みそのまま玉座に座る。
「無礼者、そこは陛下の玉座なるぞ。いますぐその下賤な身体をどかさぬか」
ブラパン伯爵の飛びかからんとする猛攻の口撃のなか、ゾフィとマリカがそれぞれユーリの隣に立つ。それを見てブラパン伯爵だけでなく全貴族がぎょっとして黙った。
「諸事情によりエルザ=クワハラ=カーキツバタ女王から頼まれて代行をすることになった。ユーリ・アッシュ・エルフネッドだ。今後は私が指揮をとる」
ユーリが威厳と力を込めてそう言い放つと、一瞬静まり返ったがブラパン伯爵を皮切りに全員が怒号と批難を浴びせる。──しばらく黙って聞き、静かになりかけたところで、あらためて口を開く。
「まずはこれを見るがよい」
ユーリは女王冠と玉璽を取り出して見せる。
「正式にカーキ=ツバタ王国の女王になるには、女王冠、玉璽そして女神の神器を継承するのが通例だそうだな。女神の神器を継承するには美聖女戦士になるのが必要、そして私はそれにはなれない。だからあくまで代行で、今現在も女王はエルザ=クワハラ=カーキツバタだ。そこをわきまえてほしい」
「どういうことだ」
「マリカ、説明を」
ユーリにうながされてマリカが説明をする。
カイマ事件以来エルザの体調が悪かったこと、事件処理の最中、帝国からの交渉そして侵攻への対処、それらの激務で倒れてしまったと。
「女神フレイヤ様はエルザ女王の身を案じられ、[時の棺]により養生することになりました。その間はユーリ様に代行するようにと」
「それがわからんのだ、我々貴族議会があるのに何故他所者のエルフが代行するのだ。おかしいではないか」
「それは……」
マリカはちらりとゾフィを見るが、小さく顔を振る。まだ時を稼がねばならぬと判じたユーリは、それを説明するからと貴族達を礼拝堂に移るように言う。
エルザ女王が本当に[時の棺]にされているのかを確認するために、全員が向かうことになった。
マリカを先頭にユーリと続き、その後ろをブラパン伯爵とコットン伯爵が並んで歩く。ブラパンの後ろに3人、コットンの後ろにひとりと、派閥で並んでいた。最後尾にはゾフィが続いている。
※ ※ ※ ※ ※
礼拝堂に着くと中央にあらたに鎮座したエルザの姿を見て貴族達6人は驚愕した。巨大な水晶に閉じ込められたエルザに話しかける者、嘆く者、水晶に触れる者、壊そうとする者……。だが何をしても無駄だと誰もが現実を受け入れた頃、ゾフィがユーリに耳打ちをする。
「マリカの言ったとおりエルザは無事だ。安心してほしい。そして彼女が復活したあかつきには王位を返すことを約束しよう」
エルザの現状に関しては納得したようだが、やはり他所者が代行するのは納得できず、ブラパン伯爵はユーリを詰問する。
「エルザ女王が動けなくなったことは認めよう、それが女神フレイヤ様の御力だということもマリカがいうなら信じよう。だが代行を貴様に譲ったということは納得できん、どうして貴様なのだ」
「……この中に内通者がいるからだ。帝国とのな」
「だから私は違うと言ってるてはないか。そこまで疑うなら証拠はあるのか」
「ある」
ユーリのその言葉で他の者がブラパン伯爵から離れ遠巻きになる。
「帝国軍から伝令を持った者がこちらに来るのを察知したアンナ王女の隊から、ゾフィとエニスタが追いそれを阻止、そしてこの紙を奪ってきた」
ユーリがうながすとゾフィが隠し持っていた証拠品の紙を取り出し皆に見せる。そこにはギルド常用文字で[コトが起きたら動け]と書いてあった。
「それがどうした。宛名でも書いてあれば私が疑われてもしょうがないが、それだけで疑うつもりか」
「むろんそんなつもりはない。貴族は使い慣れているから気がつかないかもしれないが、一般では羊皮紙か質の悪い紙を使っている。これほど上質な紙を使うのは貴族達の間だけなのだ。これを持っていても不思議でない貴族のな。
そして、この1年は誰も王国から出ていないのは確認済みだ。となると帝国と橋渡しをしている協力者がいるとみていい。そうだな──コーサク・ノブル・コットン伯爵」
ユーリの言葉にコットン以外の者が驚きの表情を見せる。まさか、穏健派でアンナ王女の父親が、内通者だと!?
だが、無言のまま顔面蒼白となり顔から、いや、全身から冷や汗を出しているコットン伯爵を見て、誰もが認めざるをえなかった。
それでもコットン伯爵はふりしぼるように抵抗の声を上げる。
「わ、私が内通者ですと? い、言いがかりも甚だしい……し、証拠はあるのですか」
「証拠ではないが証人はいる。協力者はもう捕まえてある、そして証言も得てる」
そこへユーリのみがゾフィとマリカを伴い戻ってきた。
「貴様、今まで何をしていたっ。陛下は、女王陛下はどうしたのだ」
血気盛んなブラパン伯爵が野獣のように問い詰める。それを無表情なまま受け流すと、ユーリは無言のまま歩みそのまま玉座に座る。
「無礼者、そこは陛下の玉座なるぞ。いますぐその下賤な身体をどかさぬか」
ブラパン伯爵の飛びかからんとする猛攻の口撃のなか、ゾフィとマリカがそれぞれユーリの隣に立つ。それを見てブラパン伯爵だけでなく全貴族がぎょっとして黙った。
「諸事情によりエルザ=クワハラ=カーキツバタ女王から頼まれて代行をすることになった。ユーリ・アッシュ・エルフネッドだ。今後は私が指揮をとる」
ユーリが威厳と力を込めてそう言い放つと、一瞬静まり返ったがブラパン伯爵を皮切りに全員が怒号と批難を浴びせる。──しばらく黙って聞き、静かになりかけたところで、あらためて口を開く。
「まずはこれを見るがよい」
ユーリは女王冠と玉璽を取り出して見せる。
「正式にカーキ=ツバタ王国の女王になるには、女王冠、玉璽そして女神の神器を継承するのが通例だそうだな。女神の神器を継承するには美聖女戦士になるのが必要、そして私はそれにはなれない。だからあくまで代行で、今現在も女王はエルザ=クワハラ=カーキツバタだ。そこをわきまえてほしい」
「どういうことだ」
「マリカ、説明を」
ユーリにうながされてマリカが説明をする。
カイマ事件以来エルザの体調が悪かったこと、事件処理の最中、帝国からの交渉そして侵攻への対処、それらの激務で倒れてしまったと。
「女神フレイヤ様はエルザ女王の身を案じられ、[時の棺]により養生することになりました。その間はユーリ様に代行するようにと」
「それがわからんのだ、我々貴族議会があるのに何故他所者のエルフが代行するのだ。おかしいではないか」
「それは……」
マリカはちらりとゾフィを見るが、小さく顔を振る。まだ時を稼がねばならぬと判じたユーリは、それを説明するからと貴族達を礼拝堂に移るように言う。
エルザ女王が本当に[時の棺]にされているのかを確認するために、全員が向かうことになった。
マリカを先頭にユーリと続き、その後ろをブラパン伯爵とコットン伯爵が並んで歩く。ブラパンの後ろに3人、コットンの後ろにひとりと、派閥で並んでいた。最後尾にはゾフィが続いている。
※ ※ ※ ※ ※
礼拝堂に着くと中央にあらたに鎮座したエルザの姿を見て貴族達6人は驚愕した。巨大な水晶に閉じ込められたエルザに話しかける者、嘆く者、水晶に触れる者、壊そうとする者……。だが何をしても無駄だと誰もが現実を受け入れた頃、ゾフィがユーリに耳打ちをする。
「マリカの言ったとおりエルザは無事だ。安心してほしい。そして彼女が復活したあかつきには王位を返すことを約束しよう」
エルザの現状に関しては納得したようだが、やはり他所者が代行するのは納得できず、ブラパン伯爵はユーリを詰問する。
「エルザ女王が動けなくなったことは認めよう、それが女神フレイヤ様の御力だということもマリカがいうなら信じよう。だが代行を貴様に譲ったということは納得できん、どうして貴様なのだ」
「……この中に内通者がいるからだ。帝国とのな」
「だから私は違うと言ってるてはないか。そこまで疑うなら証拠はあるのか」
「ある」
ユーリのその言葉で他の者がブラパン伯爵から離れ遠巻きになる。
「帝国軍から伝令を持った者がこちらに来るのを察知したアンナ王女の隊から、ゾフィとエニスタが追いそれを阻止、そしてこの紙を奪ってきた」
ユーリがうながすとゾフィが隠し持っていた証拠品の紙を取り出し皆に見せる。そこにはギルド常用文字で[コトが起きたら動け]と書いてあった。
「それがどうした。宛名でも書いてあれば私が疑われてもしょうがないが、それだけで疑うつもりか」
「むろんそんなつもりはない。貴族は使い慣れているから気がつかないかもしれないが、一般では羊皮紙か質の悪い紙を使っている。これほど上質な紙を使うのは貴族達の間だけなのだ。これを持っていても不思議でない貴族のな。
そして、この1年は誰も王国から出ていないのは確認済みだ。となると帝国と橋渡しをしている協力者がいるとみていい。そうだな──コーサク・ノブル・コットン伯爵」
ユーリの言葉にコットン以外の者が驚きの表情を見せる。まさか、穏健派でアンナ王女の父親が、内通者だと!?
だが、無言のまま顔面蒼白となり顔から、いや、全身から冷や汗を出しているコットン伯爵を見て、誰もが認めざるをえなかった。
それでもコットン伯爵はふりしぼるように抵抗の声を上げる。
「わ、私が内通者ですと? い、言いがかりも甚だしい……し、証拠はあるのですか」
「証拠ではないが証人はいる。協力者はもう捕まえてある、そして証言も得てる」
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