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ユーリの辣腕
ヒトを動かす
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全員が礼拝堂に入ると厳重に扉を閉め、ゾフィとマリカはユーリの左右に立つ。
そしてユーリにうながされ、マリカは今に至るまでの経緯を説明する。さすがは司祭長というべきか、ユーリの話をさらにわかり易く聞き入れるように話したので、全員が現状を理解した。
「──これらを踏まえて私とゾフィ隊長は、エルザ女性陛下を助けるためにユーリ様を助けることにしました」
「女王親衛隊としてエルザ女王を助けることと、ユーリ女王代行を補佐するのは義務でもある。皆も力を貸してほしい」
マリカ、ゾフィのそれぞれの言葉に皆が当惑した。
少しして親衛隊のひとりが質問する。
「隊長、事情はわかりました。そのうえでお訊きしたい、ユーリ様の意見を聞かせてほしい」
視線がユーリに集まる。当然の流れだとしてゾフィはユーリに無言でうながした。
「初めて会う者もいるので、あらためて名乗らせてもらう。ユーリ・アッシュ・エルフネッドだ。見ての通りエルフで皆より少しだけ長生きしている」
威厳を込めて静かにそこまで言うと全員の顔を見回す。それぞれの思いのこもった眼差しを受けると、ふたたび話しはじめる。
「さきほどマリカ司祭長が申した通り、エルザ女王と女神フレイヤによって女王代行として王国を守りつつ、信者を二十万人増やすという試練を受けることになった。
これはエルザ女王の信念である[女の希望の旗印となる]に感銘を受けたがためである。強き者が弱き者を好き勝手できる世の中では女という弱き者は泣きをみて蹂躙されてしまう、だがここに女だけで栄えている国があれば、そのような立場でいる者たちの希望となろう。ゆえにその責務は重大である。それを踏まえたうえで代行することとなった。
だが私ひとりでは成し遂げ得ぬことである。試練を成し遂げればエルザ女王はふたたび女王の座に返り咲こう。そのためにどうかチカラを貸してほしい」
そこまで言うとユーリは頭を下げた。少し遅れてマリカとゾフィも下げる。
それでも急な出来事ゆえ神官たちはどうしていいか分からず、親衛隊の面々もかたまっていた。が、親衛隊のひとりが手を挙げる。
「質問をよろしいでしょうか」
ユーリ達が頭を上げ顔を見ると、どこかで見たことあるなと思ったが思い出せなかった。ゾフィが応じる。
「ジャクリーン、何を訊きたい」
──ジャクリーン……はじめて聞く名だ。思い違いか──
「ユーリ様の先程の言葉は本心でしょうか。ふらりとやって来て急に王国を任されるなんてことになって、そのように考えるというのはいささか無理があるのではと愚考します」
「ジャクリーン、ひかえよ。女王代行であるぞ」
頭ごなしに抑えようとするゾフィをユーリが手で制し、質問に答える。
「よい。ジャクリーンよ、そなたの言うことはもっともだ。だが先程の言葉に偽りはないぞ──建て前としてはな」
先程とうってかわり、今度はくだけた感じで話しだした。
「本音を言えばだ、エルザ女王のおかげでとばっちりに巻き込まれたのだ、文句のひとつも言ってやりたいがこのように[時の棺]に閉じ込められてしまっている。言いたくても言えないだろ、言うためには助けねばならん。どっちにしろやるしかないのさ」
なるべく女王らしく振る舞っていたのに、地というか冒険者や狩人らしい平民のような態度ともの言い。その落差にジャクリーンをはじめほぼ全員が驚くとともに──まるで魅了をかけられたように好感を持った。
「……御心の内、解りました。このジャクリーン・ナイト・エクセル、お助けさせていただきます」
「ありがとう。皆もよろしいか」
ユーリの問いに神官も親衛隊も臣下の礼をとる。
──とりあえず第一関門突破だな──
ユーリは心の中で胸を撫で下ろした。
「ではこれからどのようにするのか指示をお願いします」
マリカ司祭長にうながされてユーリは先程まで練っていた策を話しはじめた。
「まずはこの国を守らねばならぬ。それは友好国であるユグラシドル樹立国に任せよう。帝国との国力の差は歴然としている、いくさにはしたくない。ユグラシドルは徹底抗戦して交渉に持ち込もうとしている、我等はそれに便乗して交渉にもっていく。そのために貴族議会の掌握が今いちばんの課題だ。
次に信者の保持と獲得だが、これらは停戦させてから行う。ゴタゴタしている国の言うことなど信頼されないからだ」
ユーリの話が止まると、マリカ司祭長が手を挙げる。
「その信者の保持のところは私達にお任せください」
「頼めるか」
「はい。もともとも私達はそれがお役目です」
「では頼む。ゾフィ、親衛隊は議会掌握の方を手伝ってもらう」
「は。さしあたっては何をしましょうか」
「議会の手助けできる者を私の側に。誰がいる?」
「適任なのはシンシアですが、アンナ王女様のところにいます」
「クッキーのところか。なら呼び戻そう、アンナ王女も一緒にきてもらう。早馬を出してくれ」
その後、ユーリはいくつかの指示を出し、親衛隊と神官達はそれぞれ動き出す。命令書を書いたユーリは、それを持たせて早馬を送り出すと王宮へと向かった。
「──エルザめ、この貸しは必ず返してもらうからな。たっぷりとな」
そしてユーリにうながされ、マリカは今に至るまでの経緯を説明する。さすがは司祭長というべきか、ユーリの話をさらにわかり易く聞き入れるように話したので、全員が現状を理解した。
「──これらを踏まえて私とゾフィ隊長は、エルザ女性陛下を助けるためにユーリ様を助けることにしました」
「女王親衛隊としてエルザ女王を助けることと、ユーリ女王代行を補佐するのは義務でもある。皆も力を貸してほしい」
マリカ、ゾフィのそれぞれの言葉に皆が当惑した。
少しして親衛隊のひとりが質問する。
「隊長、事情はわかりました。そのうえでお訊きしたい、ユーリ様の意見を聞かせてほしい」
視線がユーリに集まる。当然の流れだとしてゾフィはユーリに無言でうながした。
「初めて会う者もいるので、あらためて名乗らせてもらう。ユーリ・アッシュ・エルフネッドだ。見ての通りエルフで皆より少しだけ長生きしている」
威厳を込めて静かにそこまで言うと全員の顔を見回す。それぞれの思いのこもった眼差しを受けると、ふたたび話しはじめる。
「さきほどマリカ司祭長が申した通り、エルザ女王と女神フレイヤによって女王代行として王国を守りつつ、信者を二十万人増やすという試練を受けることになった。
これはエルザ女王の信念である[女の希望の旗印となる]に感銘を受けたがためである。強き者が弱き者を好き勝手できる世の中では女という弱き者は泣きをみて蹂躙されてしまう、だがここに女だけで栄えている国があれば、そのような立場でいる者たちの希望となろう。ゆえにその責務は重大である。それを踏まえたうえで代行することとなった。
だが私ひとりでは成し遂げ得ぬことである。試練を成し遂げればエルザ女王はふたたび女王の座に返り咲こう。そのためにどうかチカラを貸してほしい」
そこまで言うとユーリは頭を下げた。少し遅れてマリカとゾフィも下げる。
それでも急な出来事ゆえ神官たちはどうしていいか分からず、親衛隊の面々もかたまっていた。が、親衛隊のひとりが手を挙げる。
「質問をよろしいでしょうか」
ユーリ達が頭を上げ顔を見ると、どこかで見たことあるなと思ったが思い出せなかった。ゾフィが応じる。
「ジャクリーン、何を訊きたい」
──ジャクリーン……はじめて聞く名だ。思い違いか──
「ユーリ様の先程の言葉は本心でしょうか。ふらりとやって来て急に王国を任されるなんてことになって、そのように考えるというのはいささか無理があるのではと愚考します」
「ジャクリーン、ひかえよ。女王代行であるぞ」
頭ごなしに抑えようとするゾフィをユーリが手で制し、質問に答える。
「よい。ジャクリーンよ、そなたの言うことはもっともだ。だが先程の言葉に偽りはないぞ──建て前としてはな」
先程とうってかわり、今度はくだけた感じで話しだした。
「本音を言えばだ、エルザ女王のおかげでとばっちりに巻き込まれたのだ、文句のひとつも言ってやりたいがこのように[時の棺]に閉じ込められてしまっている。言いたくても言えないだろ、言うためには助けねばならん。どっちにしろやるしかないのさ」
なるべく女王らしく振る舞っていたのに、地というか冒険者や狩人らしい平民のような態度ともの言い。その落差にジャクリーンをはじめほぼ全員が驚くとともに──まるで魅了をかけられたように好感を持った。
「……御心の内、解りました。このジャクリーン・ナイト・エクセル、お助けさせていただきます」
「ありがとう。皆もよろしいか」
ユーリの問いに神官も親衛隊も臣下の礼をとる。
──とりあえず第一関門突破だな──
ユーリは心の中で胸を撫で下ろした。
「ではこれからどのようにするのか指示をお願いします」
マリカ司祭長にうながされてユーリは先程まで練っていた策を話しはじめた。
「まずはこの国を守らねばならぬ。それは友好国であるユグラシドル樹立国に任せよう。帝国との国力の差は歴然としている、いくさにはしたくない。ユグラシドルは徹底抗戦して交渉に持ち込もうとしている、我等はそれに便乗して交渉にもっていく。そのために貴族議会の掌握が今いちばんの課題だ。
次に信者の保持と獲得だが、これらは停戦させてから行う。ゴタゴタしている国の言うことなど信頼されないからだ」
ユーリの話が止まると、マリカ司祭長が手を挙げる。
「その信者の保持のところは私達にお任せください」
「頼めるか」
「はい。もともとも私達はそれがお役目です」
「では頼む。ゾフィ、親衛隊は議会掌握の方を手伝ってもらう」
「は。さしあたっては何をしましょうか」
「議会の手助けできる者を私の側に。誰がいる?」
「適任なのはシンシアですが、アンナ王女様のところにいます」
「クッキーのところか。なら呼び戻そう、アンナ王女も一緒にきてもらう。早馬を出してくれ」
その後、ユーリはいくつかの指示を出し、親衛隊と神官達はそれぞれ動き出す。命令書を書いたユーリは、それを持たせて早馬を送り出すと王宮へと向かった。
「──エルザめ、この貸しは必ず返してもらうからな。たっぷりとな」
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