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ユーリの試練
ゾフィ女王親衛隊長とマリカ司祭長
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「な、内通者って、それは本当なの、ゾフィ」
「まだ確証はありませんが、おそらく……」
「なんてこと……」
新たな真実を次々と聞かされマリカは次第に生気をなくしてくるが、お構いなしにユーリはひとり言を続ける。
「──このままではもたないとエルザは判断したのだろう。だから試練を受けて神聖痕紋を取り除こうとした。どういう経緯があったかは判らないが、私を女王代行にするという内容だったのは間違いない。そしてそれを成し遂げた。おそらくエルザの思惑は、その後宰相とか後見人という立場になって当初の目的であるふたりで事に対処しようというものだったろう。しかし予想外の事態となった」
「ユーリ様がフレイヤ様に気に入られたということですね」
マリカの言葉に、ユーリはため息で応えた。
「神々の気まぐれというやつだろう。まさかこんなことになるとは……」
「試練は避けることはできません。なんとしてもあと十万人の信者を……」
「違うぞマリカ。信者を倍にしろ、じゃない。信者を倍にして増やせだ。つまりあと二十万人増やして合わせて三十万人にしなければならない」
「そんな無茶な。ただでさえ辺境でヒトがいないのに、戦争になるかもしれないこの状況でなんて無理です」
マリカが絶望的な声で言うと、ゾフィがユーリに訊ねる。
「大賢者たるユーリ様ならどういたします」
別に皮肉で言ったわけでなく、ゾフィ自身どうすればいいのか分からなかったので素直に口に出ただけであったが、ユーリはすこしカチンときた。
だがそれは自分にも余裕が無いからだと気づき、すぐに気を取り直して今度は無言のまま考え、そしてふたりに向かって口を開いた。
「最後の最後の手段としてなら、やれないことはない」
「おお。それはどのような方法で」
「その前にマリカ。女神教徒の洗礼は何歳でなるのだ」
「十歳になる年に洗礼式をおこないますが、それがなにか」
「カーキ=ツバタ王国十万人のうち六万の女性に子を産むように令をだす、さすれば翌年には六万増える。それを四年繰り返せば二十四万人ほど増える、そしてその十年後に洗礼式をすれば試練を応えたことになる」
「承服できません、そんなやり方!!」
ゾフィが怒りにまかせ拒絶する。
「慌てるなゾフィ、言ったとおり最後の最後の手段だ。それにこれは悪手でな、老人から子供までいるのだ。六万人全員が子を産めるわけでは無いし、途中で天に召されたり寿命で亡くなる者もいる。おおまかに二十年くらいかかるのだ。そんなに在位してたら私が女王でいるのが当たり前となり、エルザが女王に復帰しても国民が納得できなくなる。ゆえに使えぬという訳だ」
ユーリの説明を聞き、ゾフィとマリカはホッとするが、それならばどうするのかという顔になる。
「ヒト族の寿命を考えると──三年か。その間に試練を成さねばならぬ」
「できるのですか」
「できぬな──」
そしてユーリはゾフィとマリカの目を見て言う。
「この試練はひとりではできぬ。だが女王親衛隊隊長のゾフィと女神教司祭長のマリカが手伝ってくれれば光明がある。頼む、力を貸してくれ」
そして心を込めて頭を下げた。
ゾフィとマリカは互いを見ると、すぐに膝を折りユーリに臣下の礼をとる。
「頭をお上げくださいユーリ・アッシュ・エルフネッド様。このゾフィ・ナイト・ニーサン、女王親衛隊隊長として女王代行に力を貸すと約束します」
「同じく、女神教の司祭長マリカ・シャン・ブラパン、フレイヤ様に仕える者として協力することをお約束します」
ともに神霊界に行き、これまでのやり取りを知っている。三人ともにエルザを救うという目的は一緒だ、そして時間がおしいのも同じくする。聡明で行動力のあるふたりは、すぐに協力を約束した。
「ありがとう、感謝する。ではさっそく頼む。ゾフィは親衛隊を集めてくれ、マリカはあてになる神殿の者──」
「神官を連れてきます」
「──を集めてきてくれ。エルザの状態を見せるのが一番説明しやすいから、ここで話す。その間に私は策を立てておく」
ふたりは、わかりましたと言うと、すぐに行動に出た。残ったユーリはあらためて水晶に閉じ込められたエルザに向かい、ため息をつく。
「まったく、この女ギツネめ。助け出したら貸しをたっぷり返してもらうからな……」
※ ※ ※ ※ ※
──陽は、間もなく暮れようとしていた。
祭殿の隣室に集められた親衛隊と神官達が揃うと、ゾフィとマリカの手で扉を開けられた。
すると祭殿の上にある水晶に閉じ込められたエルザと、その前に立つ女王の王冠を身に着けたユーリの姿が目に入る。
「痴れ者!!」
血気にはやった親衛隊が数人、ユーリに飛びかかる。
それをエニスタとゾフィが止めるが、ひとりがユーリを肉薄し短刀を突きつける。だがユーリは微動だにしなかった。
「落ち着けレオナ、手を出すことは許さん。何が起きたかちゃんと説明するから下がれ」
ゾフィの命令を聞きながらもユーリの目をじっと見るレオナは、ようやく短刀を下げて下がった。
「まだ確証はありませんが、おそらく……」
「なんてこと……」
新たな真実を次々と聞かされマリカは次第に生気をなくしてくるが、お構いなしにユーリはひとり言を続ける。
「──このままではもたないとエルザは判断したのだろう。だから試練を受けて神聖痕紋を取り除こうとした。どういう経緯があったかは判らないが、私を女王代行にするという内容だったのは間違いない。そしてそれを成し遂げた。おそらくエルザの思惑は、その後宰相とか後見人という立場になって当初の目的であるふたりで事に対処しようというものだったろう。しかし予想外の事態となった」
「ユーリ様がフレイヤ様に気に入られたということですね」
マリカの言葉に、ユーリはため息で応えた。
「神々の気まぐれというやつだろう。まさかこんなことになるとは……」
「試練は避けることはできません。なんとしてもあと十万人の信者を……」
「違うぞマリカ。信者を倍にしろ、じゃない。信者を倍にして増やせだ。つまりあと二十万人増やして合わせて三十万人にしなければならない」
「そんな無茶な。ただでさえ辺境でヒトがいないのに、戦争になるかもしれないこの状況でなんて無理です」
マリカが絶望的な声で言うと、ゾフィがユーリに訊ねる。
「大賢者たるユーリ様ならどういたします」
別に皮肉で言ったわけでなく、ゾフィ自身どうすればいいのか分からなかったので素直に口に出ただけであったが、ユーリはすこしカチンときた。
だがそれは自分にも余裕が無いからだと気づき、すぐに気を取り直して今度は無言のまま考え、そしてふたりに向かって口を開いた。
「最後の最後の手段としてなら、やれないことはない」
「おお。それはどのような方法で」
「その前にマリカ。女神教徒の洗礼は何歳でなるのだ」
「十歳になる年に洗礼式をおこないますが、それがなにか」
「カーキ=ツバタ王国十万人のうち六万の女性に子を産むように令をだす、さすれば翌年には六万増える。それを四年繰り返せば二十四万人ほど増える、そしてその十年後に洗礼式をすれば試練を応えたことになる」
「承服できません、そんなやり方!!」
ゾフィが怒りにまかせ拒絶する。
「慌てるなゾフィ、言ったとおり最後の最後の手段だ。それにこれは悪手でな、老人から子供までいるのだ。六万人全員が子を産めるわけでは無いし、途中で天に召されたり寿命で亡くなる者もいる。おおまかに二十年くらいかかるのだ。そんなに在位してたら私が女王でいるのが当たり前となり、エルザが女王に復帰しても国民が納得できなくなる。ゆえに使えぬという訳だ」
ユーリの説明を聞き、ゾフィとマリカはホッとするが、それならばどうするのかという顔になる。
「ヒト族の寿命を考えると──三年か。その間に試練を成さねばならぬ」
「できるのですか」
「できぬな──」
そしてユーリはゾフィとマリカの目を見て言う。
「この試練はひとりではできぬ。だが女王親衛隊隊長のゾフィと女神教司祭長のマリカが手伝ってくれれば光明がある。頼む、力を貸してくれ」
そして心を込めて頭を下げた。
ゾフィとマリカは互いを見ると、すぐに膝を折りユーリに臣下の礼をとる。
「頭をお上げくださいユーリ・アッシュ・エルフネッド様。このゾフィ・ナイト・ニーサン、女王親衛隊隊長として女王代行に力を貸すと約束します」
「同じく、女神教の司祭長マリカ・シャン・ブラパン、フレイヤ様に仕える者として協力することをお約束します」
ともに神霊界に行き、これまでのやり取りを知っている。三人ともにエルザを救うという目的は一緒だ、そして時間がおしいのも同じくする。聡明で行動力のあるふたりは、すぐに協力を約束した。
「ありがとう、感謝する。ではさっそく頼む。ゾフィは親衛隊を集めてくれ、マリカはあてになる神殿の者──」
「神官を連れてきます」
「──を集めてきてくれ。エルザの状態を見せるのが一番説明しやすいから、ここで話す。その間に私は策を立てておく」
ふたりは、わかりましたと言うと、すぐに行動に出た。残ったユーリはあらためて水晶に閉じ込められたエルザに向かい、ため息をつく。
「まったく、この女ギツネめ。助け出したら貸しをたっぷり返してもらうからな……」
※ ※ ※ ※ ※
──陽は、間もなく暮れようとしていた。
祭殿の隣室に集められた親衛隊と神官達が揃うと、ゾフィとマリカの手で扉を開けられた。
すると祭殿の上にある水晶に閉じ込められたエルザと、その前に立つ女王の王冠を身に着けたユーリの姿が目に入る。
「痴れ者!!」
血気にはやった親衛隊が数人、ユーリに飛びかかる。
それをエニスタとゾフィが止めるが、ひとりがユーリを肉薄し短刀を突きつける。だがユーリは微動だにしなかった。
「落ち着けレオナ、手を出すことは許さん。何が起きたかちゃんと説明するから下がれ」
ゾフィの命令を聞きながらもユーリの目をじっと見るレオナは、ようやく短刀を下げて下がった。
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