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ユーリの試練
あたえられた試練
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──試練、それは下界の信仰心を持つ者が、神々に願うときに与えられるもの──
元来、神とヒトの間柄は絶対なる上下関係が存在する。ヒトはなんの見返りが無くても神のいうことをきかなければならない。逆にヒトのいうことを神が何の見返りなくきくことは絶対あり得ないのである。
だがヒトは神に願う。
普段からお供え物や信仰心を与えても、それは普段加護を与えているから足りぬという。
ヒトが神に願い、それを聞き届けてもらうには神々を楽しませなければならない。それが試練なのだ。
──エルザはおそらく私を女王代理にできるか、という試練を与えられたのだろう。ならば私も試練を──
──許さぬ──
フレイヤはユーリの申し出を拒絶する。
──なぜ──
──ユーリよ、己が精神体を見よ──
何をされたのかわからぬが、ユーリの精神体がくっきりと下界の肉体と同じように再現され、心臓のあたりから放射状に大きく傷が刻まれていた。
ユーリがそれをそっと触る。
途端、幼い頃の記憶が鮮明に蘇る。大繁殖期によるトテップ族の襲来、無惨に殺されるエルフネッド村の男エルフ達、連れ去られる女エルフ達、母を守るため殺された父、抵抗の末死んだ母、逃げ出して生き別れになった双子の姉妹ケーナ、全てを奪われたあの夜……。
──こ、これは、いったい……──
──それが己の心の傷だ。それがある限り己自身を責める──
──責める……あの時、力があれば、知恵があれば、なんとかできたのではないかと後悔している事をいってるのか──
──それを取り除いてやろう、さすれば女王を続けられるであろう──
──触るな!! ──
フレイヤに対して敵意に近い拒絶の感情を向ける。
──たとえ神々であろうとこれに触れることは許さぬ。この傷はケーナと会うことによって雪がれるのだ。たとえ後悔の念の源であろうと心の傷であろうとこれは私の生きる理であり、私の人生の、心の一部、そして生きる理由なのだ──
周辺の女神族がまた移動する、フレイヤからユーリに移るもの、逆にフレイヤのもとに戻るもの。まるで支持率が変化するように入れ替わる。
──懇願ではなく拒絶か、生意気な──
そうは言いながらもフレイヤはユーリに嫌悪はせず、むしろ気に入ったような感情を醸し出す。
──よかろう、試練を与えてやる。望みはなんだ──
──神聖痕紋が無いエルザをふたたび女王戻してほしい──
──よかろう、ならば試練は……王国の信者を倍にして増やせ。それができたときエルザを解放しよう──
その言葉、いや、神託とともにユーリ達は神霊界から下界に戻されたのだった。
※ ※ ※ ※ ※
戻った先はもとのエルザの自室ではなかった。
「ここは……」
ユーリの問いにマリカが答える。
「神殿です。そこの礼拝堂ですね」
エルザ女王の自室からそれぞれの肉体を移動させてくれたらしい。神霊界に行く前の服装の三人、そして氷漬けとなったエルザ女王がそこにいた。
「女王様」
「お母様」
ゾフィとマリカがそれぞれ近寄り氷を触る。
「これは……氷じゃない、石? 水晶か」
「聞いたことがあります。時の女神によって造られる時の棺、この中にいると生きてもいなければ死んでもいないままでいると」
エルザ女王を中心に直方体のような形の巨大な水晶は神殿の祭壇に置かれ、女王のドレス姿で姿勢正しくかためられていた。
「少しは気を利かせてくれたか」
ユーリはそう呟きながら、頭の中を整理していた。
本来なら黙って思考するのだが、あえてゾフィとマリカに聞かせるためひとり言のように状況を再確認しはじめた。
「……ことの起こりはカイマ襲撃事件か。王国を護る為処女でないのに美聖女戦士を召喚、そのために神聖痕紋の神罰を受けた。
……エルザ女王は重く辛い身体の状態のまま、次世代であるアンナの成長を待った。だが海神ファスティトカロン帝国が侵攻してくるという事態となり、最初は外交でかわすつもりだったのが、つい先日五千の軍隊が進軍してくることになった」
それを聞きマリカが驚く。
「て、帝国の軍隊が来ているんですか」
「ああ。本当だマリカ司祭。私が実際に見てきている」
ゾフィの肯定にマリカは驚愕の表情となる。
「……その前に王国に来ていた私に、女王代行を頼んだのは対応の補佐が欲しかったんだろうな。もちろん断った、だがそれはエルザの思惑で、代わりに相談役ならと言われて引き受けてしまった。この時点でまんまと策にはまってしまってたな。
……そして帝国軍は友好国である[ユグラシドル樹立国]がくい止めている、現行の目的は帝国に停戦させるために徹底抗戦だ。カーキ=ツバタ王国としてもその方が都合がいい。その間に外交ができるからな。しかし予想外の出来事が起きた、王国に内通者がいるのではないかという疑惑だ。
……そしてそれはゾフィとエニスタからもたらされた証拠により確実となってしまった。内通者は誰だか私には分からなかったが、エルザには分かったようだ。だからさらに体調を崩してしまったのだろう」
元来、神とヒトの間柄は絶対なる上下関係が存在する。ヒトはなんの見返りが無くても神のいうことをきかなければならない。逆にヒトのいうことを神が何の見返りなくきくことは絶対あり得ないのである。
だがヒトは神に願う。
普段からお供え物や信仰心を与えても、それは普段加護を与えているから足りぬという。
ヒトが神に願い、それを聞き届けてもらうには神々を楽しませなければならない。それが試練なのだ。
──エルザはおそらく私を女王代理にできるか、という試練を与えられたのだろう。ならば私も試練を──
──許さぬ──
フレイヤはユーリの申し出を拒絶する。
──なぜ──
──ユーリよ、己が精神体を見よ──
何をされたのかわからぬが、ユーリの精神体がくっきりと下界の肉体と同じように再現され、心臓のあたりから放射状に大きく傷が刻まれていた。
ユーリがそれをそっと触る。
途端、幼い頃の記憶が鮮明に蘇る。大繁殖期によるトテップ族の襲来、無惨に殺されるエルフネッド村の男エルフ達、連れ去られる女エルフ達、母を守るため殺された父、抵抗の末死んだ母、逃げ出して生き別れになった双子の姉妹ケーナ、全てを奪われたあの夜……。
──こ、これは、いったい……──
──それが己の心の傷だ。それがある限り己自身を責める──
──責める……あの時、力があれば、知恵があれば、なんとかできたのではないかと後悔している事をいってるのか──
──それを取り除いてやろう、さすれば女王を続けられるであろう──
──触るな!! ──
フレイヤに対して敵意に近い拒絶の感情を向ける。
──たとえ神々であろうとこれに触れることは許さぬ。この傷はケーナと会うことによって雪がれるのだ。たとえ後悔の念の源であろうと心の傷であろうとこれは私の生きる理であり、私の人生の、心の一部、そして生きる理由なのだ──
周辺の女神族がまた移動する、フレイヤからユーリに移るもの、逆にフレイヤのもとに戻るもの。まるで支持率が変化するように入れ替わる。
──懇願ではなく拒絶か、生意気な──
そうは言いながらもフレイヤはユーリに嫌悪はせず、むしろ気に入ったような感情を醸し出す。
──よかろう、試練を与えてやる。望みはなんだ──
──神聖痕紋が無いエルザをふたたび女王戻してほしい──
──よかろう、ならば試練は……王国の信者を倍にして増やせ。それができたときエルザを解放しよう──
その言葉、いや、神託とともにユーリ達は神霊界から下界に戻されたのだった。
※ ※ ※ ※ ※
戻った先はもとのエルザの自室ではなかった。
「ここは……」
ユーリの問いにマリカが答える。
「神殿です。そこの礼拝堂ですね」
エルザ女王の自室からそれぞれの肉体を移動させてくれたらしい。神霊界に行く前の服装の三人、そして氷漬けとなったエルザ女王がそこにいた。
「女王様」
「お母様」
ゾフィとマリカがそれぞれ近寄り氷を触る。
「これは……氷じゃない、石? 水晶か」
「聞いたことがあります。時の女神によって造られる時の棺、この中にいると生きてもいなければ死んでもいないままでいると」
エルザ女王を中心に直方体のような形の巨大な水晶は神殿の祭壇に置かれ、女王のドレス姿で姿勢正しくかためられていた。
「少しは気を利かせてくれたか」
ユーリはそう呟きながら、頭の中を整理していた。
本来なら黙って思考するのだが、あえてゾフィとマリカに聞かせるためひとり言のように状況を再確認しはじめた。
「……ことの起こりはカイマ襲撃事件か。王国を護る為処女でないのに美聖女戦士を召喚、そのために神聖痕紋の神罰を受けた。
……エルザ女王は重く辛い身体の状態のまま、次世代であるアンナの成長を待った。だが海神ファスティトカロン帝国が侵攻してくるという事態となり、最初は外交でかわすつもりだったのが、つい先日五千の軍隊が進軍してくることになった」
それを聞きマリカが驚く。
「て、帝国の軍隊が来ているんですか」
「ああ。本当だマリカ司祭。私が実際に見てきている」
ゾフィの肯定にマリカは驚愕の表情となる。
「……その前に王国に来ていた私に、女王代行を頼んだのは対応の補佐が欲しかったんだろうな。もちろん断った、だがそれはエルザの思惑で、代わりに相談役ならと言われて引き受けてしまった。この時点でまんまと策にはまってしまってたな。
……そして帝国軍は友好国である[ユグラシドル樹立国]がくい止めている、現行の目的は帝国に停戦させるために徹底抗戦だ。カーキ=ツバタ王国としてもその方が都合がいい。その間に外交ができるからな。しかし予想外の出来事が起きた、王国に内通者がいるのではないかという疑惑だ。
……そしてそれはゾフィとエニスタからもたらされた証拠により確実となってしまった。内通者は誰だか私には分からなかったが、エルザには分かったようだ。だからさらに体調を崩してしまったのだろう」
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