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開戦そして籠城戦

決闘(VSアイン・トーカー)

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 背中までのグレーの長髪を紐で結び、薄いブラウンの長袖服に同色のズボンとブーツ。顔は眼光鋭い切れ長の目で面長、うーむ、剣の達人という雰囲気だな。腰に着けている剣がとても似合う。

 「それがしの名はアイン・トーカー。クチキとやら、決闘を申し込む」

 またかよ。

「なんで決闘を」

「無論、それがしが最強の剣士であることを証明するため」

「そっちで最強兵決定戦とかやってるんじゃないのか」

「5人抜きしてきたところだ。だがヌルくてな、もっと強者と戦いたい。いざ尋常に勝負」

 そう言いながら腰の剣を抜く。

 鞘も柄も立派な剣を想像させる。こちらも精霊力剣ソウルソードを再度具現化してかまえる。そして頭がフリーズする。
 アイン・トーカーが抜いた剣は鞘の3分の1くらいの細い刀身しかなかったのだ。なんというアンバランス、しかもあの刀身の形はまるで……ニホントウじゃないか。

「なんだそのカタナは」

「これはカタナなどというものではない、ソードだ。我が愛剣はすでにそれがしと一心同体、寝食を共にし一緒にお風呂に入り、風呂上がりにはサビないように研いで研いで研ぎまくるゆえに、このようなスレンダーなスタイルになっただけだ」

 研ぎ過ぎだっつーの。熟練の寿司職人愛用の出刃包丁みたいな理由だな。

「では参るぞ我が愛剣と共に。我が愛剣、その名もザンテツケ──」

「その先は言うなーーーーー」

 精霊力剣ソウルソードを思いっ切り振りかぶって突撃した。いきなり袈裟斬りをしたが、アイン・トーカーはそれをニホントウ、じゃない、細身の剣で受けとめる。

「いきなり斬りかかるとは無礼なヤツだな」

「やかましい、なんでいちいちメンドくさい名前ばかりつけるんだ。コッチの身にもなれー」

「ワケの分からんことを言うな、ザンテツケ──」

「だから言うなっつーの」

 喋らせないように、やたらめったら斬りかかる。だが流石は言うだけのある剣士、アイン・トーカー。オレの攻撃をすべて受けとめる。

「ふん、どうやら魔法剣の類いのようだな。当たればただではすまないだろうが、それだけだ。強者ではあるようだが剣技は児戯に等しいようだな」

 精霊力剣ソウルソードは精霊力の塊だ。だから確かに当たれば勝てるんだが、アイン・トーカーはそれを剣で受け止めたり流したりする。

ん?

ちょっとまて?

「アイン・トーカー、なんでお前の剣は平気なんだ」

 いったん離れて疑問をぶつけてみる。それに対して得意気に自慢する。

「ふふん、知らないのか、なら教えてやろう。剣士の中でも達人級マスタークラスともなれば、その剣身に己の闘気を宿すことができる。そうすると魔力をも斬ることがてきるのだ。ましてや我が愛剣ザンテツケ──」

「言うなっつーの」

 ふただび斬りかかるが、文字どおり刃が立たない。ダメだ、無策ではとても勝てない、策を考えなくては。
 剣技はまず及ばないだろう、ライナー・ヨッパーみたいに大技をかますか。いや、コイツなら躱すだろうな。確実に当てて受け止めきれない攻撃をしなくては。

精霊力剣士ソウルソードを強化してみるか。両刃の剣ではなく、片刃の、そう、青龍刀タイプにしてみよう。名前コールは[ソウルブレード]だ。

精霊力青龍刀ソウルブレード

 イメージ通りのカタチになる。あとは剣技だな。アイン・トーカーの戦意を失くすためには……。

 精霊力青龍刀ソウルブレードを正眼に構える。小学生低学年の頃だったか、ちょこっとだけ剣道を習っていた。面、胴、小手、突きという技は覚えている。だが今それをやれるかというと無理だ。だから──。

「いくぞアイン・トーカー」

 駆け寄り、突きと見せ掛けて下から左切上げをするが、やはり見切られて剣で受け止められる。
 だがそれがオレの狙いだ。
 精霊力ソウルを込めた精霊力青龍刀ソウルブレードで、アイン・トーカーの剣を切る。

バキィィィン

 剣は鋭い音とともに真っ二つになった。

 それを見た、見てしまったアイン・トーカーはこの世の終わりのような絶望の顔をして、膝から崩れ落ちる。

「あ、ああ、哀哀哀哀哀ーーーーー、それがしの、それがしの、ザンテツケンジーがぁぁぁぁ」

はい?

ザンテツ、ケンジー?

「ユニオンの剣鍛冶ソードブラックスミスザンテツ部門の鍛えし、ケンジーの銘を与えられた我が剣がぁぁぁぁ」

え? 斬鉄剣じゃないの? オレの早とちり?

「哀哀哀哀哀哀哀ーーーーー」

 アイン・トーカーの嘆きに申し訳なくなり、うわぁ、なんか罪悪感がぁ。

──ペッター、ペッター、聞こえるか。起きてるか──

 地下工房で寝ているはずのペッターに問いかけると、工房で悶絶しているペッターがいた。

──どうしたペッター、どこかおかしいのか──

「お、おかしい」

──どこが痛い、苦しいのか、どこが悪いんだ──

「腹が痛い、息苦しい、……笑い過ぎて……。ワハハハハ、ザンテツの剣を斬り倒してやったぞ、ワハハハハ」

ん? どういうこと?

「ユニオンにいた時、ザンテツの野郎にハーフドワーフなことで散々な目にあったんだ。あいつ自慢の剣を斬り倒してやったんだ、ザマアミロ。ワハハハハ」

 そういう個人的な理由ね。それはともかくとして。

──ザンテツに恨みはあってもアイン・トーカーにはないだろ? あの剣、なんとかなんないかな──

「んー、まあそうだな。キレイに切れているから、それを芯にして同一素材で打ち直せばいいんじゃないかな」

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