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開戦そして籠城戦
ヨツジ
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ユーリは両の頬をパシパシと叩くと、オレに目を向ける。
「ユグドラシル樹立国のクチキ殿に、カーキ=ツバタ王国の友好国として要望する。[はじまりの村]の村人救出に力を貸していただきたい」
「ああ、それはいいが、具体的にはどうすればいい」
「おそらく村はもう無理だ。だから逃げ出した人々をてきるだけ我が国まで連れてきてほしい。方法はまかせる」
「ユーリは」
「女王代行だぞ、しかも成りたての。命令しても聞く耳を持たれるわけない。しかも問題も抱えているし──」
「問題って」
「なんでもない。とにかく村人救出をお願いする──と、そういえばアンナがいたな。では彼女を救出隊の隊長に任命する。あとは話し合ってくれ」
それだけ言うと着替えるからとモニターを切られてしまった。
──ヒトハはどうするんだ──
──ユーリ様の指示待ちです。お父様、大丈夫ですか──
答えられなかった。正直、現場が遠過ぎて現状が分からないうえに助けかたが分からない。
とりあえずアディに手伝ってもらい精霊力を大量に送り、村人達のそばに早く行くことしか思いつかなかった。だがアディには拒否されてしまった。
──クッキー、最近ちょっとおかしくない? あたし達の目的は次期世界樹候補となるために支配地を増やすことなのよ、それなのにヒト族の争いに肩入れしちゃってさ。いったい何しているのよ──
ぷりぷりと不貞腐れながらアディはそっぽ向く。
──そんなことないってば。ヒト族との調和のためにさ──
──それがおかしいのよ、あいつら神霊族の信者なんでしょ。助けたって意味無いじゃん。それとも精霊信仰に変わる約束でもしたの──
──いや、してないけどさ──
──だったら肩入れすることなんかないじゃん。もうほっといて支配地を増やしましょうよ、どうせあいつ等ほっといても死んじゃうんだしさ──
ほぼ不死である精霊からすれば、ヒト族をはじめとするほとんどの生き物は短命にみえるし、関わってもしょうがないだろう。だがしかしだ。
──アディ、オレの知識をコピーしたなら前世の出来事を知っているだろう。奢った知性体は自然を滅ぼすって。いくら支配地を増やしたところで、いずれはヒト族をはじめとする自然に敬意を持たない連中に破壊されるんだ──
──そうなったら、そいつ等を滅ぼしてやればいいじゃない──
──そして精霊は敵だ、滅ぼしてしまえと敵対して殲滅し合うのか。それでは何もかも滅んでしまうんだよ、世界樹になる意味は何だ、アディ──
──それは……。とにかく意味なくヒト族の争いに関わるのはイヤなの、やりたくないの──
アディはオレの相棒であって、部下や手下ではない。対等な立場だと思っている。だから納得してもらわないと手伝ってもらえない。
今までは、世界樹を、森を守るため、そしてそれを攻めようとする神霊族信仰の帝国軍を倒すためだから手伝ってくれだが、カーキ=ツバタ王国と[はじまりの村]を守るためなのは不本意なのだろう。
説得して手伝ってもらいたいが、今は時間がない。
──アディ、わかった。やりたくないんなら仕方ない、フタハ達となんとかやってみるよ。──けどこっち側は頼めるかい、森を守るのはやってくれるんだろう──
──それは……もちろんそうよ──
──じゃあこっちを頼む──
ヨツハ、イツハ、ムツハを前線に、サポートにミツハとナノハを置くと、とヤツハを連れてフタハのいる北面に向かう。
実体のある男性型世界樹製製躯体を使えれば──いや、まだあの辺りは支配地じゃない。遠すぎて使えない。
やはりここはアンナ達にやってもらうしか無い、オレはそう判断すると移動中のアンナにスピーカーツタでユーリの命令を伝える。
「私が救出隊の長に」
「ユーリ女王代行の要請でオレも手伝う。さしあたってどうすればいい」
「そうですね……クチキ様なら様子を見ることができるんですよね、まずは状況を逐一お報せください。それと救出に向かった衛兵隊長達に早く着けるよう便宜をはかってもらえますか」
妥当な判断と要請だな。オレは了解すると、フタハに見張りを、ヤツハに衛兵隊長達の通り道を地ならししてウマが走りやすくするように指示した。
外回り街道の四辻はそのまま[ヨツジ]と呼称することにし、そこにはすでに王国の駐屯地というか拠点がある。
だが、王国からの指示もアンナからの指示もまだ届いてない。
オレが電話ツタと樹液モニターを設置すれば解決するが、それこそまずどちらかからの指示がいる。今はそれ待ちだ。
となると、ぼーっと待っていてもしょうがない。オレはヨツジの北西辺りに(この辺りはまだ地面がやわらかい)植樹し小さな森を創りオレ用の拠点をつくる。ついでに南西にも小森をつくり、上の方で絡み合わせてアーチ上にした。
そして、村からの避難民がまず必要になるだろう水と食料を兼ねた果実を実らせる。
──ここまでか──
今やれることは全部やった。あとはそれぞれがやって来るのを待つだけか。
だが甘かった。
そう、時は平等に経っているのだ。
帝国軍から決闘の申し込みがきた──。
「ユグドラシル樹立国のクチキ殿に、カーキ=ツバタ王国の友好国として要望する。[はじまりの村]の村人救出に力を貸していただきたい」
「ああ、それはいいが、具体的にはどうすればいい」
「おそらく村はもう無理だ。だから逃げ出した人々をてきるだけ我が国まで連れてきてほしい。方法はまかせる」
「ユーリは」
「女王代行だぞ、しかも成りたての。命令しても聞く耳を持たれるわけない。しかも問題も抱えているし──」
「問題って」
「なんでもない。とにかく村人救出をお願いする──と、そういえばアンナがいたな。では彼女を救出隊の隊長に任命する。あとは話し合ってくれ」
それだけ言うと着替えるからとモニターを切られてしまった。
──ヒトハはどうするんだ──
──ユーリ様の指示待ちです。お父様、大丈夫ですか──
答えられなかった。正直、現場が遠過ぎて現状が分からないうえに助けかたが分からない。
とりあえずアディに手伝ってもらい精霊力を大量に送り、村人達のそばに早く行くことしか思いつかなかった。だがアディには拒否されてしまった。
──クッキー、最近ちょっとおかしくない? あたし達の目的は次期世界樹候補となるために支配地を増やすことなのよ、それなのにヒト族の争いに肩入れしちゃってさ。いったい何しているのよ──
ぷりぷりと不貞腐れながらアディはそっぽ向く。
──そんなことないってば。ヒト族との調和のためにさ──
──それがおかしいのよ、あいつら神霊族の信者なんでしょ。助けたって意味無いじゃん。それとも精霊信仰に変わる約束でもしたの──
──いや、してないけどさ──
──だったら肩入れすることなんかないじゃん。もうほっといて支配地を増やしましょうよ、どうせあいつ等ほっといても死んじゃうんだしさ──
ほぼ不死である精霊からすれば、ヒト族をはじめとするほとんどの生き物は短命にみえるし、関わってもしょうがないだろう。だがしかしだ。
──アディ、オレの知識をコピーしたなら前世の出来事を知っているだろう。奢った知性体は自然を滅ぼすって。いくら支配地を増やしたところで、いずれはヒト族をはじめとする自然に敬意を持たない連中に破壊されるんだ──
──そうなったら、そいつ等を滅ぼしてやればいいじゃない──
──そして精霊は敵だ、滅ぼしてしまえと敵対して殲滅し合うのか。それでは何もかも滅んでしまうんだよ、世界樹になる意味は何だ、アディ──
──それは……。とにかく意味なくヒト族の争いに関わるのはイヤなの、やりたくないの──
アディはオレの相棒であって、部下や手下ではない。対等な立場だと思っている。だから納得してもらわないと手伝ってもらえない。
今までは、世界樹を、森を守るため、そしてそれを攻めようとする神霊族信仰の帝国軍を倒すためだから手伝ってくれだが、カーキ=ツバタ王国と[はじまりの村]を守るためなのは不本意なのだろう。
説得して手伝ってもらいたいが、今は時間がない。
──アディ、わかった。やりたくないんなら仕方ない、フタハ達となんとかやってみるよ。──けどこっち側は頼めるかい、森を守るのはやってくれるんだろう──
──それは……もちろんそうよ──
──じゃあこっちを頼む──
ヨツハ、イツハ、ムツハを前線に、サポートにミツハとナノハを置くと、とヤツハを連れてフタハのいる北面に向かう。
実体のある男性型世界樹製製躯体を使えれば──いや、まだあの辺りは支配地じゃない。遠すぎて使えない。
やはりここはアンナ達にやってもらうしか無い、オレはそう判断すると移動中のアンナにスピーカーツタでユーリの命令を伝える。
「私が救出隊の長に」
「ユーリ女王代行の要請でオレも手伝う。さしあたってどうすればいい」
「そうですね……クチキ様なら様子を見ることができるんですよね、まずは状況を逐一お報せください。それと救出に向かった衛兵隊長達に早く着けるよう便宜をはかってもらえますか」
妥当な判断と要請だな。オレは了解すると、フタハに見張りを、ヤツハに衛兵隊長達の通り道を地ならししてウマが走りやすくするように指示した。
外回り街道の四辻はそのまま[ヨツジ]と呼称することにし、そこにはすでに王国の駐屯地というか拠点がある。
だが、王国からの指示もアンナからの指示もまだ届いてない。
オレが電話ツタと樹液モニターを設置すれば解決するが、それこそまずどちらかからの指示がいる。今はそれ待ちだ。
となると、ぼーっと待っていてもしょうがない。オレはヨツジの北西辺りに(この辺りはまだ地面がやわらかい)植樹し小さな森を創りオレ用の拠点をつくる。ついでに南西にも小森をつくり、上の方で絡み合わせてアーチ上にした。
そして、村からの避難民がまず必要になるだろう水と食料を兼ねた果実を実らせる。
──ここまでか──
今やれることは全部やった。あとはそれぞれがやって来るのを待つだけか。
だが甘かった。
そう、時は平等に経っているのだ。
帝国軍から決闘の申し込みがきた──。
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