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開戦そして籠城戦
籠城戦 三日目
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軍議を終えて、老将コルレニオス・マイヨルは外で待っていた副官とともに自陣に戻る途中、作戦内容を説明する。
「わかりました。では火炎魔法が得意な魔術師で部隊を編成します」
「うむ。魔術師といえば、ヤラン・レーヤクはどうしてる」
「抗魔法縄で縛って簡易牢に放り込んであります」
クチキとの交渉の際、兵士を操って盾にしたことを生き残った兵士達に報告されたコルレニオスは、前々から不信に思っていたヤラン・レーヤクを拘束したのだ。
のちに[帝国統一戦]と呼ばれるガリアニアや隣国との戦争において、ヤラン・レーヤクが所属する部隊が全滅しても彼だけが生き延びてくることが多々あったので何度か問い詰められたが、「不敗の魔術師ゆえに」と、自らの魔法で生きのびたというような匂わせな発言のみで要領は得なかった。
それに部隊は全滅しても戦果はあげていたのと、リュキアニア最強の魔術師であるゆえにとりあえず不問にしていた。
だが、今回のことでヤラン・レーヤクは味方を盾にして自分だけ助かったのではないかという[疑念]が、[確かな疑い]に変わった。
この戦いが終わったら正式に尋問のうえ裁判にかけられるということになるだろう。
「ヤラン・レーヤク抜きでも部隊は編成できるか」
「可能です。明朝より収集して訓練をおこないます」
「頼む」
コルレニオスは副官に下がるように言うと、自軍の寝所に向かった。
寝る前に長年連れ添った妻からの御守に話しかけ、考えをまとめるのが彼の習慣である。
「貧乏兵士の家に生まれ、少年兵の頃から戦いに明け暮れ、運良く将軍となり子や孫にも恵まれて六十の歳となりどうやら無事退役して余生を過ごせそうだったのに、ここに来て不可思議な相手に戦いとはな。まったく人生というのは油断ならん。コーシャ、今日も守ってくれてありがとう」
妻の御守に感謝すると、コルレニオスは顔に似合わない静かな寝息で夢の世界へとおちいった。
※ ※ ※ ※ ※
コルレニオスの副官は、明日の編成の草案を簡単にまとめると、従兵の少年とともに寝所に入る。
まだまだ三十二歳と若い副官は、少年に心地良く癒やしてもらうと腕枕をしながら寝物語を語る。
「明日はお休みなんですね」
「ああ。戦闘行為というか草刈りは二日ばかりだが、行軍が長かったからな。それもよかろう」
「よくわかりませんが、この戦いはどんな相手でどうなったら勝ちなんです」
痛いところを突くなと副官は、さあと言ってとぼける。
「休みは休みだが私には仕事があるのは間違いない。今夜はもう寝ることにする」
「わかりました、おやすみなさい」
少年はするりと副官の腕から抜けると、身支度をしてから敬礼をし、寝所から出ていった。
※ ※ ※ ※ ※
「──という話です。リュキアニアは魔術師部隊を編成するそうですよ」
先ほどの少年は、とても少年とは思えぬどちらかというと老人のような声で集まった仲間に話す。
「カリステギアも一緒です、草刈りを認められてもなぁとぼやいてましたが」
くすくすと笑いながら、昨夜の怪しい連中がそれぞれの報告をしあう。
「草刈りが上手いのは良いことだぞ、戦争が無くても農民としてやっていけるからな」
「戦争は無くなりますか」
「さあな、そんなことは知ったことではない。我等の目的は世界樹があるかどうかだし、それ以外に木製憑依型人形らしきものの確認が増えたからな」
昨夜、姉御と呼ばれたものはそううそぶく。
「ふむ──そうか、明日は休みというのなら──ひとつ唆してみるか」
「どうするつもりです」
「お前たちの軍にも傭兵がいるだろ」
「ええ。正規の兵だけでなく、傭兵部隊、個人の傭兵、戦士、食詰め者もいますが」
「血の気の多そうな奴をみつくろって、一騎討ちを申し込ませろ。それで木製憑依型人形が出てきて相手にしてくれれば、少しは分かるかもしれぬ」
「なるほど。姉御はどうします」
「それをやりやすいように、能無しを焚きつけておく」
「わかりました」
そして連中は昨夜のように離れていった──。
※ ※ ※ ※ ※
帝国軍にしろユーリにしろ、何をしているのか何を考えているのか分からないオレは、当面のやることである明日の帝国軍侵攻に備えているのと、試作BAの試運転をしていた。
精霊力を宝珠から出すことにより、例えるなら気体が粘性のある流体になるということが分かったので、それを固定化することに成功。
とりあえず精霊力剣と精霊力盾と名づける。
それ以外に全身を鎧のように覆う精霊力装を使いこなせるようになった。
「とりあえずこれで、大抵の奴には勝てるだろうな」
データをまとめながらペッターはそう言うと、大きな欠伸をする。
「眠いのか」
「さすがにな。とはいえ、これでおいらが想定する事態には対応できるはずだ。すまんがしばらく休ませてもらうぞ」
「ああ。お疲れ様。休んでいる間のことは菌糸コンピュータに記録しておくよ」
というオレの言葉を最後まで聞かずに、ペッターはその場でイスに座ったままだらしなく寝入ってしまった。
ずっと不眠不休だったからな、とりあえず寝床に移してありがとうなと呟いた。
男性型世界樹製製躯体四号に男性用BAを装備したまま所定の場所に置くと、精霊体となって世界樹に戻り、三日目の夜明けを迎えた。
「わかりました。では火炎魔法が得意な魔術師で部隊を編成します」
「うむ。魔術師といえば、ヤラン・レーヤクはどうしてる」
「抗魔法縄で縛って簡易牢に放り込んであります」
クチキとの交渉の際、兵士を操って盾にしたことを生き残った兵士達に報告されたコルレニオスは、前々から不信に思っていたヤラン・レーヤクを拘束したのだ。
のちに[帝国統一戦]と呼ばれるガリアニアや隣国との戦争において、ヤラン・レーヤクが所属する部隊が全滅しても彼だけが生き延びてくることが多々あったので何度か問い詰められたが、「不敗の魔術師ゆえに」と、自らの魔法で生きのびたというような匂わせな発言のみで要領は得なかった。
それに部隊は全滅しても戦果はあげていたのと、リュキアニア最強の魔術師であるゆえにとりあえず不問にしていた。
だが、今回のことでヤラン・レーヤクは味方を盾にして自分だけ助かったのではないかという[疑念]が、[確かな疑い]に変わった。
この戦いが終わったら正式に尋問のうえ裁判にかけられるということになるだろう。
「ヤラン・レーヤク抜きでも部隊は編成できるか」
「可能です。明朝より収集して訓練をおこないます」
「頼む」
コルレニオスは副官に下がるように言うと、自軍の寝所に向かった。
寝る前に長年連れ添った妻からの御守に話しかけ、考えをまとめるのが彼の習慣である。
「貧乏兵士の家に生まれ、少年兵の頃から戦いに明け暮れ、運良く将軍となり子や孫にも恵まれて六十の歳となりどうやら無事退役して余生を過ごせそうだったのに、ここに来て不可思議な相手に戦いとはな。まったく人生というのは油断ならん。コーシャ、今日も守ってくれてありがとう」
妻の御守に感謝すると、コルレニオスは顔に似合わない静かな寝息で夢の世界へとおちいった。
※ ※ ※ ※ ※
コルレニオスの副官は、明日の編成の草案を簡単にまとめると、従兵の少年とともに寝所に入る。
まだまだ三十二歳と若い副官は、少年に心地良く癒やしてもらうと腕枕をしながら寝物語を語る。
「明日はお休みなんですね」
「ああ。戦闘行為というか草刈りは二日ばかりだが、行軍が長かったからな。それもよかろう」
「よくわかりませんが、この戦いはどんな相手でどうなったら勝ちなんです」
痛いところを突くなと副官は、さあと言ってとぼける。
「休みは休みだが私には仕事があるのは間違いない。今夜はもう寝ることにする」
「わかりました、おやすみなさい」
少年はするりと副官の腕から抜けると、身支度をしてから敬礼をし、寝所から出ていった。
※ ※ ※ ※ ※
「──という話です。リュキアニアは魔術師部隊を編成するそうですよ」
先ほどの少年は、とても少年とは思えぬどちらかというと老人のような声で集まった仲間に話す。
「カリステギアも一緒です、草刈りを認められてもなぁとぼやいてましたが」
くすくすと笑いながら、昨夜の怪しい連中がそれぞれの報告をしあう。
「草刈りが上手いのは良いことだぞ、戦争が無くても農民としてやっていけるからな」
「戦争は無くなりますか」
「さあな、そんなことは知ったことではない。我等の目的は世界樹があるかどうかだし、それ以外に木製憑依型人形らしきものの確認が増えたからな」
昨夜、姉御と呼ばれたものはそううそぶく。
「ふむ──そうか、明日は休みというのなら──ひとつ唆してみるか」
「どうするつもりです」
「お前たちの軍にも傭兵がいるだろ」
「ええ。正規の兵だけでなく、傭兵部隊、個人の傭兵、戦士、食詰め者もいますが」
「血の気の多そうな奴をみつくろって、一騎討ちを申し込ませろ。それで木製憑依型人形が出てきて相手にしてくれれば、少しは分かるかもしれぬ」
「なるほど。姉御はどうします」
「それをやりやすいように、能無しを焚きつけておく」
「わかりました」
そして連中は昨夜のように離れていった──。
※ ※ ※ ※ ※
帝国軍にしろユーリにしろ、何をしているのか何を考えているのか分からないオレは、当面のやることである明日の帝国軍侵攻に備えているのと、試作BAの試運転をしていた。
精霊力を宝珠から出すことにより、例えるなら気体が粘性のある流体になるということが分かったので、それを固定化することに成功。
とりあえず精霊力剣と精霊力盾と名づける。
それ以外に全身を鎧のように覆う精霊力装を使いこなせるようになった。
「とりあえずこれで、大抵の奴には勝てるだろうな」
データをまとめながらペッターはそう言うと、大きな欠伸をする。
「眠いのか」
「さすがにな。とはいえ、これでおいらが想定する事態には対応できるはずだ。すまんがしばらく休ませてもらうぞ」
「ああ。お疲れ様。休んでいる間のことは菌糸コンピュータに記録しておくよ」
というオレの言葉を最後まで聞かずに、ペッターはその場でイスに座ったままだらしなく寝入ってしまった。
ずっと不眠不休だったからな、とりあえず寝床に移してありがとうなと呟いた。
男性型世界樹製製躯体四号に男性用BAを装備したまま所定の場所に置くと、精霊体となって世界樹に戻り、三日目の夜明けを迎えた。
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