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開戦そして籠城戦
ユーリ女王代行
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期間限定で相談役を引き受けたとは昨夜聞いたが、一日も経たずに女王代行になっている。
なにがあった、どうしてそうなった。
「クチキ様、これはどういうことでしょうか」
伝令を受け取ったアンナも戸惑っている。モーリの住む大使館馬車でモニター越しに訊ねられるが、もちろんオレも分からない。
「署名はユーリ様のようですが、印は玉璽です。本物です」
「ということは」
スピーカーツタで訊き返す。
「ユーリ様が本当にお母様の代行になったということです」
「おきゃーせ!!」
あ、思わずいにしえの名古屋弁で、そんなバカなと言ってしまった。もとい。
「ホントか、本当にそうなのか」
「間違いありません、玉璽の印は何度も見ていますから」
となると……、ユーリとアンナの人質交換の関係は無くなり、オレがカーキ=ツバタに人質をとられる形となる。
いや、もう帝国軍と開戦してしまったのだから、どちらにしろカーキ=ツバタの盾になるのは決定してる。だからカーキ=ツバタとしては人質を引き上げれば、知らぬ存ぜぬで済ませる話になるのか。
──エルザめ──
とは思ったが、それならユーリを女王代行、しかも玉璽を渡す必要はないだろう。そこのところが謎だな。
「クチキ様」
アンナのすがるような目が背中を押し、デンワツタとモニターでユーリと連絡を取ってみる。しかし対応に出てきたのはユーリではなくヒトハだった。おや? と思う。
──考えてみれば昨夜もなぜヒトハは城外で待っていたのだろうか。
上級ドライアドであるヒトハが生け垣城壁にいる。それ自体は不自然ではないが、まるで待ちかまえていたようなたたずまいだったのが、今さら気になった。
──ヒトハ、ユーリに連絡したのに何故お前が出るんだ──
──ユーリ様は今、連絡をとれる状態ではないので……──
──何があった──
──いえ、とくには……──
──ならユーリに代わってくれ──
──ですから今は……──
──ヒトハ! 代われと言ってるんだ──
声を荒らげてしまったので、ヒトハがビクッと首を引っ込める。そんなつもりはなかったのだが、どうにももどかしくて、ついやってしまった。
「ヒトハ、もういいぞ」
ユーリの声だ。
画面を緑の背景とともに立ちはだかっていたヒトハが下がり、かわりにユーリが映し出される。が、……。
映し出されたのは、いつものユーリの部屋ではなく、なんとなく見覚えのある部屋で、豪奢な椅子に装飾をほどこした豪華なドレスを着たユーリが座っている。
「ユーリ様、何していらっしゃるのですか。そこは玉座ですのよ」
驚いて言うアンナに、場所を訊く。
──アンナ、あそこは何処だ──
「謁見の間です」
──ああ、あそこか。カイマ事件のときに初めてエルザ女王に会った部屋だ。だが何故そこが映っているんだ? ──
「ヒトハにモニターとカメラツタ、それにマイクツタとスピーカーツタを作らせた。クチキ国王よ、これよりは謁見の間からの交信となる」
な……。クチキ国王だと、いつもはクッキーと呼ぶくせに。
「さて、なんの用かな」
他人行儀なユーリに話しかけようとしたが、それより先にアンナが詰問する。
「どうしてユーリ様がそこに座っているのかと訊いているのです」
「どうしても何も、私は今女王代行だからな。このように女王冠を被り玉璽を持っているのが、その証拠だ」
「なぜ、女王代行になどと」
「それはアンナ王女がご存知であろう」
その言葉を聞いて、アンナはハッとする。顔から血の気が引いていくのがわかる、身体が小刻みに震えだす。
「まさか……」
アンナの続く言葉を遮るようにユーリが質問する。
「ところでそこは何処であるか。この先は王族と親衛隊のみの話になる。それ以外の者はいるのか」
この言葉に反応をしたのが親衛隊のシンシアだった。
「親衛隊のシンシアがいます。場所は大使館馬車で、他には侍従長のヨセフと大使のモーリがいます」
「そうか。ではカーキ=ツバタ王国女王代行として命ずる、アンナとシンシア以外は出ていくように。もちろんクチキ国王もだ」
──オレもかよ──
「当然だろう。大使館の中はわが国の領土だ。他国の者が許可なく入れる所ではないぞ」
そんなことも分からないのかという言い方にカチンとくる。
──ユーリ、いい加減に……──
言い返そうとしたら、ヒトハが割って入る。
──お父様、いえ、クチキ国王、どうか御心を安らかに──
ヒトハの他人行儀な物言いにも気に障る。が、シンシアとアンナにも申し訳ないがユーリの言葉に従ってほしいと頼まれ、仕方なく言う通りにした。
「ヒトハ、クチキ国王にはお前が相手せよ」
──はい、ユーリ様──
デンワツタ回線はヒトハに見張られて覗けない。露骨に秘密にされたのが、どうにも気に入らない。
──ヒトハ、いったいどうなっているんだ──
──今は話せません──
──この──
危うくまた怒鳴りかけたが、それは悪手だと気づき心を落ち着かせる。肉体の身だったら深呼吸して落ち着くところだが、精霊体の身(?)だからかわりに自問自答して考えを整理した。
なにがあった、どうしてそうなった。
「クチキ様、これはどういうことでしょうか」
伝令を受け取ったアンナも戸惑っている。モーリの住む大使館馬車でモニター越しに訊ねられるが、もちろんオレも分からない。
「署名はユーリ様のようですが、印は玉璽です。本物です」
「ということは」
スピーカーツタで訊き返す。
「ユーリ様が本当にお母様の代行になったということです」
「おきゃーせ!!」
あ、思わずいにしえの名古屋弁で、そんなバカなと言ってしまった。もとい。
「ホントか、本当にそうなのか」
「間違いありません、玉璽の印は何度も見ていますから」
となると……、ユーリとアンナの人質交換の関係は無くなり、オレがカーキ=ツバタに人質をとられる形となる。
いや、もう帝国軍と開戦してしまったのだから、どちらにしろカーキ=ツバタの盾になるのは決定してる。だからカーキ=ツバタとしては人質を引き上げれば、知らぬ存ぜぬで済ませる話になるのか。
──エルザめ──
とは思ったが、それならユーリを女王代行、しかも玉璽を渡す必要はないだろう。そこのところが謎だな。
「クチキ様」
アンナのすがるような目が背中を押し、デンワツタとモニターでユーリと連絡を取ってみる。しかし対応に出てきたのはユーリではなくヒトハだった。おや? と思う。
──考えてみれば昨夜もなぜヒトハは城外で待っていたのだろうか。
上級ドライアドであるヒトハが生け垣城壁にいる。それ自体は不自然ではないが、まるで待ちかまえていたようなたたずまいだったのが、今さら気になった。
──ヒトハ、ユーリに連絡したのに何故お前が出るんだ──
──ユーリ様は今、連絡をとれる状態ではないので……──
──何があった──
──いえ、とくには……──
──ならユーリに代わってくれ──
──ですから今は……──
──ヒトハ! 代われと言ってるんだ──
声を荒らげてしまったので、ヒトハがビクッと首を引っ込める。そんなつもりはなかったのだが、どうにももどかしくて、ついやってしまった。
「ヒトハ、もういいぞ」
ユーリの声だ。
画面を緑の背景とともに立ちはだかっていたヒトハが下がり、かわりにユーリが映し出される。が、……。
映し出されたのは、いつものユーリの部屋ではなく、なんとなく見覚えのある部屋で、豪奢な椅子に装飾をほどこした豪華なドレスを着たユーリが座っている。
「ユーリ様、何していらっしゃるのですか。そこは玉座ですのよ」
驚いて言うアンナに、場所を訊く。
──アンナ、あそこは何処だ──
「謁見の間です」
──ああ、あそこか。カイマ事件のときに初めてエルザ女王に会った部屋だ。だが何故そこが映っているんだ? ──
「ヒトハにモニターとカメラツタ、それにマイクツタとスピーカーツタを作らせた。クチキ国王よ、これよりは謁見の間からの交信となる」
な……。クチキ国王だと、いつもはクッキーと呼ぶくせに。
「さて、なんの用かな」
他人行儀なユーリに話しかけようとしたが、それより先にアンナが詰問する。
「どうしてユーリ様がそこに座っているのかと訊いているのです」
「どうしても何も、私は今女王代行だからな。このように女王冠を被り玉璽を持っているのが、その証拠だ」
「なぜ、女王代行になどと」
「それはアンナ王女がご存知であろう」
その言葉を聞いて、アンナはハッとする。顔から血の気が引いていくのがわかる、身体が小刻みに震えだす。
「まさか……」
アンナの続く言葉を遮るようにユーリが質問する。
「ところでそこは何処であるか。この先は王族と親衛隊のみの話になる。それ以外の者はいるのか」
この言葉に反応をしたのが親衛隊のシンシアだった。
「親衛隊のシンシアがいます。場所は大使館馬車で、他には侍従長のヨセフと大使のモーリがいます」
「そうか。ではカーキ=ツバタ王国女王代行として命ずる、アンナとシンシア以外は出ていくように。もちろんクチキ国王もだ」
──オレもかよ──
「当然だろう。大使館の中はわが国の領土だ。他国の者が許可なく入れる所ではないぞ」
そんなことも分からないのかという言い方にカチンとくる。
──ユーリ、いい加減に……──
言い返そうとしたら、ヒトハが割って入る。
──お父様、いえ、クチキ国王、どうか御心を安らかに──
ヒトハの他人行儀な物言いにも気に障る。が、シンシアとアンナにも申し訳ないがユーリの言葉に従ってほしいと頼まれ、仕方なく言う通りにした。
「ヒトハ、クチキ国王にはお前が相手せよ」
──はい、ユーリ様──
デンワツタ回線はヒトハに見張られて覗けない。露骨に秘密にされたのが、どうにも気に入らない。
──ヒトハ、いったいどうなっているんだ──
──今は話せません──
──この──
危うくまた怒鳴りかけたが、それは悪手だと気づき心を落ち着かせる。肉体の身だったら深呼吸して落ち着くところだが、精霊体の身(?)だからかわりに自問自答して考えを整理した。
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