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開戦前夜
草壁防護柵
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とりあえずひと晩の足どめは成功した。問題はこのあとどうするかだ。
本来なら(というか予想ならだが)少数の使節団を相手に交渉するという流れだったが、いきなり軍勢を連れてくるとは意表を突かれた。[兵は詭道なり]というが、まんまとそれを喰らった。
「さて、明日の朝はどう話すかだな」
そう呟くとエニスタが口をはさむ。
「あまいなクチキ殿」
「というと」
「戦は情報戦でもあるし、バカ正直に朝まで待つ必要もあるまい。今夜にでも何か仕掛けてくると考えた方がいい」
「そのくらいは考えているよ。だから上級──じゃない、うーんとそうだな、アドバンス、そうアドバンスドライアドに下級じゃなくてベースドライアドを使って見張らせているよ。だから──」
「お父さまー、ヨツハですー。アイツ等が数人離れていきますよー」
「お父さま、イツハです。見張りがバレて攻撃されました」
「お父さまん、ムツハよん。アイツ等境界線を超えてきたよん」
いきなりかい!!
「早くないか、行動が」
「[戦いは遅巧より拙速を尊ぶ]だよ。たしかにルシアというヤツ、やり手のようだな」
そうだよな、その通りだよな、約束を守るとどこか甘い考えでいた自分に腹が立つ。ならば迎え撃つまでだ。
「イツハ、戻ってこい。作戦を与える。ヨツハとムツハはそれぞれ動いてるヤツラを見張ってろ」
アンナ達に挨拶すると触手ツタで躯体を世界樹本体を持っていくと、精霊体となってイツハと同期して作戦を伝える。
「お、お父さま、あたしだけでは無理です」
「ムツハとやればいい」
「それでも厳しいです」
半泣きのイツハを見て苛ついてる自分に気がつき、慰める。
「すまなかったなイツハ。お父さんが悪かった。アディを連れてくるからそれまでふたりで頑張っててくれ」
「はい」
現場に戻るイツハを見送り、娘を泣かすなんて悪いお父さんだなと反省する──これが父性愛なのだろうか。
などと考えているヒマはない。やらなくちゃいけないことを確認する。
まずは帝国軍の足留め、それにはアディが必要だ、迎えに行く。同時にオレの躯体を持ってくる。
急いでカーキ=ツバタまでの街道に行くと、半分くらいのところで寝ているアディを発見する。
「アディ、何やってるんだ」
「へ? あ?! クッキー!? ね、寝てないわよ、戻るのがイヤでサボってなんかいないわよ」
正直なヤツめ。さっさと同期して現状を伝える。
「え!? そんなことになってるの。わかった、急いで戻るわ」
躯体から抜け出し、アディは森に戻る。
オレの躯体を持ってくるつもりだったが、タイムロスを考えると、精霊体で戻ったほうがいいなと考え直し、躯体である程度進んでから街路樹に隠して精霊体で戻る。
※ ※ ※ ※ ※
戻るとアディの協力を得て、イツハとムツハはオレの作戦をやってくれている。
帝国軍の境界線からある森までは足首くらいまでの草が生えているが、半分くらいのところから少しづつ成長させ、森の手前近くになると急に高くしてヒトの背丈以上にして迷うようにした。
ついでに細くて丈夫な蔦を、転びやすい高さで張り巡らす。世界樹製防護柵だ。
「あとは……アディ、樹木がなくても下級ドライアド達は誘惑使えるか」
「うーん、ちょっと無理。あ、でも森の近くならなんとかなるかな」
「それじゃ近過ぎるな」
樹木を生やすかとか考えたが、そうすると今度は森の広さが足を引っ張る。カーキ=ツバタ王国より広いからひと晩では無理だ。
「お父さまん、ムツハですん。こっちに来てた数人はん、草壁で迷わせてますん、どうしますん」
「んー、よし、捕まえよう。ムツハ、触手ツタで捕まえて眠らせておいてくれ。ヨツハ、そっちはどうだ」
「見張ってたー、数人はー、ウマに乗ってー、外回り街道にー、向かいましたー」
「街道からどっちに向かった」
「わかりませんー、まだー、街道にー、出てませんー」
「となると……ヨツハ、アディと協力してその辺りの草壁を造ってくれ。東方面担当はミツハだな。見張りはミツハと交代だ」
別動隊が向かうのがカーキ=ツバタ王国なら、捕まえて情報を吐き出させる。ムツハが捕まえたヤツラからもそのつもりだが、アテにはならないだろうな。
とりあえず夜間防衛戦の指示をすませると、アンナ達にそれを伝える。するとエニスタがアンナに進言する。
「アンナ様、その別動隊に私を向かわせてください」
「どうするの」
「おそらく明日はこのまま帝国軍とクチキ殿との攻防戦になります。私たちは出番が無いでしょう。ならば少しでも貢献できるよう別動隊を抑える役目を与えてほしいのです」
「それならシンシアとふたりで」
「いえ、シンシアの知識は攻防戦に役立つと思いますので、武辺一辺倒の私だけでじゅうぶんです」
「それならゾフィも行ってくれる」
アンナがそう言いだす。
「シンシアとヨセフ様がいれば、私の護衛はじゅうぶんだわ。ゾフィ、いいわね」
「よろしいのですか」
「あなたなら現場判断ができるでしょ。エニスタができないとは言わないわ、でも親衛隊隊長であるゾフィならより高度な政治判断ができるから行ってほしいの」
「……わかりました。クチキ殿、それでよろしいか」
「御任せします。微力ながら援助します、王国までの街道を使って回り込んでください。夜中でもウマが走れるようにします」
さっき思いついた方法を試してみることにした。
本来なら(というか予想ならだが)少数の使節団を相手に交渉するという流れだったが、いきなり軍勢を連れてくるとは意表を突かれた。[兵は詭道なり]というが、まんまとそれを喰らった。
「さて、明日の朝はどう話すかだな」
そう呟くとエニスタが口をはさむ。
「あまいなクチキ殿」
「というと」
「戦は情報戦でもあるし、バカ正直に朝まで待つ必要もあるまい。今夜にでも何か仕掛けてくると考えた方がいい」
「そのくらいは考えているよ。だから上級──じゃない、うーんとそうだな、アドバンス、そうアドバンスドライアドに下級じゃなくてベースドライアドを使って見張らせているよ。だから──」
「お父さまー、ヨツハですー。アイツ等が数人離れていきますよー」
「お父さま、イツハです。見張りがバレて攻撃されました」
「お父さまん、ムツハよん。アイツ等境界線を超えてきたよん」
いきなりかい!!
「早くないか、行動が」
「[戦いは遅巧より拙速を尊ぶ]だよ。たしかにルシアというヤツ、やり手のようだな」
そうだよな、その通りだよな、約束を守るとどこか甘い考えでいた自分に腹が立つ。ならば迎え撃つまでだ。
「イツハ、戻ってこい。作戦を与える。ヨツハとムツハはそれぞれ動いてるヤツラを見張ってろ」
アンナ達に挨拶すると触手ツタで躯体を世界樹本体を持っていくと、精霊体となってイツハと同期して作戦を伝える。
「お、お父さま、あたしだけでは無理です」
「ムツハとやればいい」
「それでも厳しいです」
半泣きのイツハを見て苛ついてる自分に気がつき、慰める。
「すまなかったなイツハ。お父さんが悪かった。アディを連れてくるからそれまでふたりで頑張っててくれ」
「はい」
現場に戻るイツハを見送り、娘を泣かすなんて悪いお父さんだなと反省する──これが父性愛なのだろうか。
などと考えているヒマはない。やらなくちゃいけないことを確認する。
まずは帝国軍の足留め、それにはアディが必要だ、迎えに行く。同時にオレの躯体を持ってくる。
急いでカーキ=ツバタまでの街道に行くと、半分くらいのところで寝ているアディを発見する。
「アディ、何やってるんだ」
「へ? あ?! クッキー!? ね、寝てないわよ、戻るのがイヤでサボってなんかいないわよ」
正直なヤツめ。さっさと同期して現状を伝える。
「え!? そんなことになってるの。わかった、急いで戻るわ」
躯体から抜け出し、アディは森に戻る。
オレの躯体を持ってくるつもりだったが、タイムロスを考えると、精霊体で戻ったほうがいいなと考え直し、躯体である程度進んでから街路樹に隠して精霊体で戻る。
※ ※ ※ ※ ※
戻るとアディの協力を得て、イツハとムツハはオレの作戦をやってくれている。
帝国軍の境界線からある森までは足首くらいまでの草が生えているが、半分くらいのところから少しづつ成長させ、森の手前近くになると急に高くしてヒトの背丈以上にして迷うようにした。
ついでに細くて丈夫な蔦を、転びやすい高さで張り巡らす。世界樹製防護柵だ。
「あとは……アディ、樹木がなくても下級ドライアド達は誘惑使えるか」
「うーん、ちょっと無理。あ、でも森の近くならなんとかなるかな」
「それじゃ近過ぎるな」
樹木を生やすかとか考えたが、そうすると今度は森の広さが足を引っ張る。カーキ=ツバタ王国より広いからひと晩では無理だ。
「お父さまん、ムツハですん。こっちに来てた数人はん、草壁で迷わせてますん、どうしますん」
「んー、よし、捕まえよう。ムツハ、触手ツタで捕まえて眠らせておいてくれ。ヨツハ、そっちはどうだ」
「見張ってたー、数人はー、ウマに乗ってー、外回り街道にー、向かいましたー」
「街道からどっちに向かった」
「わかりませんー、まだー、街道にー、出てませんー」
「となると……ヨツハ、アディと協力してその辺りの草壁を造ってくれ。東方面担当はミツハだな。見張りはミツハと交代だ」
別動隊が向かうのがカーキ=ツバタ王国なら、捕まえて情報を吐き出させる。ムツハが捕まえたヤツラからもそのつもりだが、アテにはならないだろうな。
とりあえず夜間防衛戦の指示をすませると、アンナ達にそれを伝える。するとエニスタがアンナに進言する。
「アンナ様、その別動隊に私を向かわせてください」
「どうするの」
「おそらく明日はこのまま帝国軍とクチキ殿との攻防戦になります。私たちは出番が無いでしょう。ならば少しでも貢献できるよう別動隊を抑える役目を与えてほしいのです」
「それならシンシアとふたりで」
「いえ、シンシアの知識は攻防戦に役立つと思いますので、武辺一辺倒の私だけでじゅうぶんです」
「それならゾフィも行ってくれる」
アンナがそう言いだす。
「シンシアとヨセフ様がいれば、私の護衛はじゅうぶんだわ。ゾフィ、いいわね」
「よろしいのですか」
「あなたなら現場判断ができるでしょ。エニスタができないとは言わないわ、でも親衛隊隊長であるゾフィならより高度な政治判断ができるから行ってほしいの」
「……わかりました。クチキ殿、それでよろしいか」
「御任せします。微力ながら援助します、王国までの街道を使って回り込んでください。夜中でもウマが走れるようにします」
さっき思いついた方法を試してみることにした。
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