上 下
129 / 182
オーケストラピットかよー

不敗の魔術師

しおりを挟む
火竜の息吹ファイヤブレス
火竜の息吹ファイヤブレス
火竜の息吹ファイヤブレス

 ヤラン・レーヤクは連続して火炎魔法を放つが、その度に分厚い草の壁を創るのでまるで届かない。
 その間にスキル[品種改良]をつかって草を改良する。

ええっと、葉蘭型の葉を細胞壁を硬く厚くして、水分を多めに含むようにして、垂直に真っ直ぐヒトの大きさまで成長させると。

火竜の息吹ファイヤブレス」「火竜の息吹ファイヤブレス」「火竜の息く吹ファイヤブレス」「火竜の息吹ファイヤブレス」「火竜の息吹ファイヤブレス」「火竜の息吹ファイヤブレスゥゥゥゥ」

 厚みのある盾の草が無数に並ぶので、なかなか燃えない。ヤラン・レーヤクはだんだんヤケクソみたいになってきたな。

──アンナ、コイツ強いのか? ──

面倒くさくなってきたので、イツハに厚盾草を任せて、アンナ達と会話をする。

──エニスタが詳しいから代わります──
──代わりました、エニスタです。ヤラン・レーヤクはリュキアニア王国最強の魔術師で不敗の名をほしいままにしています。帝国との戦争では王国は敗北ましたが、彼自身は敗走していないときいております──

──エニスタさんからみてコイツの実力はどうなの? ──

──私は戦士なので魔法はそれほど詳しくありませんが中級火炎系攻撃魔法の火竜の息吹ファイヤブレスをあれほど放てるのは、かなりの実力だと思います──

──そうなんだ。で、このあとどうしたらいいと思う──

──魔力が尽きるまで耐えて、勝てないことを思い知ってもらいましょう。それから交渉してみたらどうでしょうか──

まあそんなとこかな。横綱相撲ってとこか。

──お父様、もう攻撃が止まってますよ──

イツハに教えてもらって、攻撃が止まっていることに気がついた。
 厚盾草を左右に分けてヤラン・レーヤクを見ると、肩で息をして今にも倒れそうになっている。

「こ、こんな馬鹿な……リュキアニア最強の魔術師であるこの私が……不敗の魔術師と呼ばれたこのワタシが……」

 その二つ名はやめておけ。

「ヤラン・レーヤクさん、あらためてお伝えします。私の森に立ち入ることもましてや駐屯することも許しません、お引取りを」

「そ、そんなわけには……」

「譲歩して、今いる場所に駐屯するなら水を分けて差し上げましょう。それで如何です」

 これを聞いてアンナが咎める。

──ちょっとクチキ殿、駐屯を認めるんですか──

──落とし所をつくってあげないと向こうも意地になるからな。場所的には何もできない所だから大丈夫──

 帝国軍がいるところは中途半端なところで、カーキ=ツバタ王国に行くには戻って旧街道を使わなくてはならない。
 旧街道は整備されていないから、あれだけの大軍となると行軍はかなり大変だろう。とりあえず足留めにはなる。

 休んで少しは回復したのか、ヤラン・レーヤクはなにやらブツブツ呟いたあと、話しかけてきた。

「ここで引き下がるわけにはいかぬのだよ、このやり取りはもう本隊に見られている。ワタシは帝国との戦争でかなり戦果をあげてしまったので、属国となった今は肩身が狭いのだ。それなりの功をあげないと戻れぬのだよ」

「……個人的事情は分かりました。ですが今は私情ではなく大義で行なうときでは」

「大義ならあるとも。得体のしれない森の怪物で兵士が倒された。不敗の魔術師である私は敵を討ち、帝国軍の駐屯地を確保するというな」

「貴殿の実力ではそれは無理かと」

「ふ、ふん、今までのは小手調べだ。私の真の実力を思い知るがいい」

 ヤラン・レーヤクは懐から小瓶を取り出すと中の液体を飲み干す。

──あれは何? ──

──魔力回復薬マジックポーションですね。なるほど火竜の息吹を連発出来たわけだ──

なんだ、魔力回復薬を飲みながらやってたのか。厚盾草で見えてなかったから気がつかなかったよ。

 回復を待ってからまた攻撃を防ぎきってやるかと考えていたら、酔っぱらい状態の兵士二人が切りかかってきた。

 おお、もう花粉が抜けたのかと思ったが、どう見てもまだ酔っぱらい状態だ。だが剣をかまえてオレに挑んでくる。
 厚盾草コウジュンソウで防ごうとしたが切り裂かれる。火に強いが刃物に弱かったか。
 ならばと触手ツタ二本を身体から生やして剣撃を受けながら対応をする。

──どうなっているんだ一体──

このバグにはエニスタが答えてくれた。

──おそらく身体玩具操作マニビュレイトの呪文で操られているのでしょう。魔術師は何かしらの呪文、おそらく上級攻撃魔法を詠唱していますから、その間の援護であやつられているとみました──

 それを聞いてさすがにカチンときた。

「ヤラン・レーヤク、貴方はお味方をなんだと思っている──のです。彼らの意志を無視するなんて、人として恥ずかしくないのか──ですか」

 詠唱に集中しているのかヤラン・レーヤクは返事をしない。ならばと直線攻撃をしようと触手ツタをヤラン・レーヤクに向けるが、驚いたことに兵士たちは体を張ってそれを防ぐ。

「ヤラン・レーヤク、この人たちに何をした──んです」

 詠唱が終わったらしく、ようやくこちらの問いにこたえた。

「くくく、ソイツらこのワタシをいかなることがあっても命懸けで護るようにしてあるのよ。そしてそしてそしてぇぇぇ、クソアマ精霊よ、黒焦げにしてくれるわぁぁぁ、このワタシの最強呪文でなぁ、火竜群包囲集中咆哮バーニングロゥアァァァズ

 呪文とともに、オレの周りに半球状態で魔法陣が取り囲み、そこから一斉に火炎柱が放出される。

「クゥアッハハハ、ザマアミロ、クソアマ精霊、消し炭になるがよいわぁ」

ヤラン・レーヤクの高笑いが草原に響きわたった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

何故、わたくしだけが貴方の事を特別視していると思われるのですか?

ラララキヲ
ファンタジー
王家主催の夜会で婚約者以外の令嬢をエスコートした侯爵令息は、突然自分の婚約者である伯爵令嬢に婚約破棄を宣言した。 それを受けて婚約者の伯爵令嬢は自分の婚約者に聞き返す。 「返事……ですか?わたくしは何を言えばいいのでしょうか?」 侯爵令息の胸に抱かれる子爵令嬢も一緒になって婚約破棄を告げられた令嬢を責め立てる。しかし伯爵令嬢は首を傾げて問返す。 「何故わたくしが嫉妬すると思われるのですか?」 ※この世界の貴族は『完全なピラミッド型』だと思って下さい…… ◇テンプレ婚約破棄モノ。 ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げています。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

【完結】婚約破棄されて修道院へ送られたので、今後は自分のために頑張ります!

猫石
ファンタジー
「ミズリーシャ・ザナスリー。 公爵の家門を盾に他者を蹂躙し、悪逆非道を尽くしたお前の所業! 決して許してはおけない! よって我がの名の元にお前にはここで婚約破棄を言い渡す! 今後は修道女としてその身を神を捧げ、生涯後悔しながら生きていくがいい!」 無実の罪を着せられた私は、その瞬間に前世の記憶を取り戻した。 色々と足りない王太子殿下と婚約破棄でき、その後の自由も確約されると踏んだ私は、意気揚々と王都のはずれにある小さな修道院へ向かったのだった。 注意⚠️このお話には、妊娠出産、新生児育児のお話がバリバリ出てきます。(訳ありもあります)お嫌いな方は自衛をお願いします! 2023/10/12 作者の気持ち的に、断罪部分を最後の番外にしました。 2023/10/31第16回ファンタジー小説大賞奨励賞頂きました。応援・投票ありがとうございました! ☆このお話は完全フィクションです、創作です、妄想の作り話です。現実世界と混同せず、あぁ、ファンタジーだもんな、と、念頭に置いてお読みください。 ☆作者の趣味嗜好作品です。イラッとしたり、ムカッとしたりした時には、そっと別の素敵な作家さんの作品を検索してお読みください。(自己防衛大事!) ☆誤字脱字、誤変換が多いのは、作者のせいです。頑張って音読してチェックして!頑張ってますが、ごめんなさい、許してください。 ★小説家になろう様でも公開しています。

晴れて国外追放にされたので魅了を解除してあげてから出て行きました [完]

ラララキヲ
ファンタジー
卒業式にて婚約者の王子に婚約破棄され義妹を殺そうとしたとして国外追放にされた公爵令嬢のリネットは一人残された国境にて微笑む。 「さようなら、私が産まれた国。  私を自由にしてくれたお礼に『魅了』が今後この国には効かないようにしてあげるね」 リネットが居なくなった国でリネットを追い出した者たちは国王の前に頭を垂れる── ◇婚約破棄の“後”の話です。 ◇転生チート。 ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げてます。 ◇人によっては最後「胸糞」らしいです。ごめんね;^^ ◇なので感想欄閉じます(笑)

7個のチート能力は貰いますが、6個は別に必要ありません

ひむよ
ファンタジー
「お詫びとしてどんな力でも与えてやろう」 目が覚めると目の前のおっさんにいきなりそんな言葉をかけられた藤城 皐月。 この言葉の意味を説明され、結果皐月は7個の能力を手に入れた。 だが、皐月にとってはこの内6個はおまけに過ぎない。皐月にとって最も必要なのは自分で考えたスキルだけだ。 だが、皐月は貰えるものはもらうという精神一応7個貰った。 そんな皐月が異世界を安全に楽しむ物語。 人気ランキング2位に載っていました。 hotランキング1位に載っていました。 ありがとうございます。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

幼馴染み達が寝取られたが,別にどうでもいい。

みっちゃん
ファンタジー
私達は勇者様と結婚するわ! そう言われたのが1年後に再会した幼馴染みと義姉と義妹だった。 「.....そうか,じゃあ婚約破棄は俺から両親達にいってくるよ。」 そう言って俺は彼女達と別れた。 しかし彼女達は知らない自分達が魅了にかかっていることを、主人公がそれに気づいていることも,そして,最初っから主人公は自分達をあまり好いていないことも。

処理中です...