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オーケストラピットかよー

ハヤイのは嫌われるぞー

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 百年ほど前、現在の海神ファスティトカロン帝国の領土は、大小様々な国と領地の集まりだった。

 その中でクラーケン公国とシーホース王国が二強で、ファスティトカロン王国は海辺にあるその他の弱小国のひとつでしかなかった。

 しかし、現帝王の父親が若き頃に領土拡大の侵攻をはじめ、二代に渡る闘争の末、二強国を併呑して統一、海神ファスティトカロン帝国となった。

「──現在は初代帝王テオドシウス・ユリウス・ファスティトカロンがほぼ内政を、複数の王子がそれぞれ任された国や領地を統治し、戦地に赴いてる状況です」

「ということは、こっちに来るのは王子のひとりということかな」

「おそらく。東部方面もしくは北部方面を任されてる王子が来ると思われます」

「ふうむ」

 また百年前か。

 前回のカイマ襲撃も百年前、ユニオンの暗躍も百年前、そしてファスティトカロン王国の国興しも百年前。まるで何かがあったように感じる。
 それともただの偶然なんだろうか。

 考え込みかけたとき、肩をちょんちょんと突かれる。
 振り向くとそこには上級ドライアドが三人いた。

「えっと、誰だっけ」

 みんな同じ顔で同じ格好だから見分けがつかない。

「ヨツハとイツハとムツハです。お父様、南の方から大勢やってきてます」

「なにぃ」

 まさかと思いながらも森の南端にカメラツタを生やして、確認する。アンナ達にも観てもらう。
 森から二キロ程先にどう見ても軍勢らしきものがやってきている。

「あれは」

「あの旗は」

 アンナ達が驚く。

 オレにはよく分からないが、四種類の旗が認められる。

「帝国北東にあるガリアニア領国、リュキアニア王国、それに……カリステギア王国の旗」

「シンシア、なんで、なんでカリステギアの旗があるの」

アンナが取り乱すのをゾフィが抑える。

「帝国に帰属したばかりだからです。まずは忠誠心を試されるので、軍勢に駆り出されるのはよくあることなんです」

「そんなそんな」

アンナのことはゾフィに任せて、オレはシンシアに訊ねる。

「もうひとつの旗はどこのだい」

「帝国のものです。宣戦布告されてないのに、なぜあんな軍勢で……。とにかくゆっくりと作戦を練る場合ではなくなりました、クチキ様、どうしますか」

 アドリブで対応かよ!!

「とりあえず、私が南端まで行って対応します。カメラツタとマイクツタを設置しますので、状況をみてアドバイスをください。こちらのマイクツタで話してくれれば聴こえます」

「わかりました。アンナ様、それでよろしいですか」

シンシアの言葉にアンナは気を取り直して、それぞれに命令する。

「よろしい。私達はクチキ様のサポート、ヨセフは後援部隊の撤退準備を」

 オレとの関係を知られない為に撤退か。こちらとしてもその方がありがたい。ユーリの安全第一だからな。

「じゃあいってく──ああ、マリオネットが無いんだった」

 光速でアディのところに行くが、まだ半分も来ていない。
 全力で走っても今すぐには持ってこられない。
 今度はペッターのところに行き、事情を話して壱号機か弐号機を使えないか訊くが、今から組み立ててもまだ一日かかるという。

「三日後に要るときいてたからな。そうかもう来やがったか」

「どうする、どう対応しよう」

「落ち着けクッキー、連中はお前の姿かたちを知らないんだろ。王国の誰かを代役にすればいいじゃないか」

「そんなわけにはいかないんだよ、カーキ=ツバタの同盟国だったカリステギアの軍も来ているんだ。顔を知っている者同士の可能性がある」

「なら、それを使えよ」

ペッターの指差した先にあるモノを見て顔をしかめる。他にないかとみまわすが、それしか無かった。

「──仕方ないか」

オレはそれに憑依した。

※ ※ ※ ※ ※

 帝国の軍勢は進軍を止めていた。

「あれが自称世界樹の森とやらか」

天高くそびえる大樹を中心にひろがる豊かな森と広い草原を見て、この軍の総司令官ルシア・ガリニア・ファスティトカロンが呟く。

「たしかに目を見張る高さだな。登って見下ろしたらさぞかし壮観であろうな」

「左様でございますな」

ルシア総司令官の呟きに応えたのは、カリステギア軍の責任者、ボルノ将軍である。

「カーキ=ツバタの女ギツネが、国として勝手に認めたのは甚だ無礼である。そういうのは帝国の権限だ。それゆえアレは帝国の領土であることを知らしめるために駐屯地とする」

「仰せの通りですな」

 清々しいほどの合いの手である。
 普通なら嫌味に聞こえかれないヨイショなのに、ルシア総司令官はまんざらでもない。

(ふむ、ヨイショのボルノとはよく言ったもんだな)

 カリステギア王国侵攻の際、ボルノ将軍が国王へ真っ先に投降を勧め、人質としてアンジェリカ第二王女をと進言した。
 売国奴と言ってもいい行為だが、結果的には国も王族も無傷であり、彼の行動は評価しかねるところだった。

「様子見の連中が大怪我して帰ってきて、魔物が巣食っている、カーキ=ツバタが裏でつながっているというが、あれからどうなったか」

「あらたな物見をもう出しております。今しばらくお待ちを」

 ソツもないなと、ルシア総司令官は心の中でくすりと笑った。
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