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文字通り東奔西走かよー
悪戯っ子ヒトハ
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「それは嫌な目にあったな。気にするな、と言いたいところだが、帝国連中あいてなら少し話をしておくか」
部屋の中央くらいで抱きしめあったまま、ユーリは耳元で話し続ける。
「神話の成り立ちはともかくとして、今の精霊たちは少々悪戯が過ぎてな、騙されたり傷つけられたりするので、あまり好かれてはいない」
「そうなのか」
「ちゃんと感謝の祈りを捧げれば問題ないのだが、それをされないと悪戯される、そんな感じだな」
「つまり、ヒト族が精霊に感謝していないから悪戯をすると」
「必ずしもそうではないが──、アディがいい例えかな。機嫌を損ねると面倒くさいだろう」
「──分かりやすい例えだ」
互いにふふっと笑った。
そのとき、西の壁に作ったばかりのテレビが点いて、画面いっぱいに女のコの顔が映る。
「あー、お父様いたー。浮気してるー」
「ヒ、ヒトハ?!」
「浮気? クッキー、誰なんだこのコは? アディに似ているようだが? それにお父様とは?」
「このコはヒトハといって──」
「──お父様とアディお母様の娘、ヒトハでーす。あなたはだーれ?」
「ほほぅ、クッキーの娘とな。しかもアディとの」
気のせいか抱きしめるチカラが強くなった気がする。
「あ、あのねユーリ、説明すると」
「あ、あなたがユーリさん。アディお母様が言ってたお父様の浮気相手ですかー」
「ほほぅ、アディはそんなことを言ってるのか」
さらにチカラを込められる。
マリオネットだから触覚をオフにすれば問題ないのだが、それをやったら嫌われそうだから、そのままにする。
「あ、あのねユーリ、ちゃんと説明するから、まずオレの話を聞いてくれないか」
「もちろん聞くとも。この小娘の愚にもつかないヨタ話を聞いてからな。それで小娘、クッキーの愛人であるアディは他になんと言っているのだ」
「誰が愛人ですか」
「アディとかいう小娘の母親のことだが」
「アディお母様は愛人じゃありません。それにあたしは小娘じゃなくて長女のヒトハです」
「長女だと」
「そうですよ、八人姉妹の長女でーす」
「は、八人だと」
ユーリの右手がオレの後頭部を掴み、握り潰さんばかりにチカラを込められる。
うぎゃあぁぁーーー!!
思わずうめき声が出てしまった。
「クッキー様、どうかなされましたか」
扉の外から衛兵に訊ねられる。
「な、何でもない」
オレの言葉に続いてユーリもこたえる。
「気にするな、今、愛を確かめあってるところだ。入ってはならんぞ」
その強い口調に、衛兵は何かを察したのか失礼しましたっ、と応えて静かになった。
「ユーリ、もう少し言い方があったんじゃないか」
「話を逸らすな。嘘は言ってないだろう。それで八人姉妹の長女というのは本当なのか」
「そ、それはね」
「いっけなーい、八人じゃなかった、二百人だったー」
「に、二百人だと。クッキー、貴様いつの間にそんなにこしらえたーーー!!」
普段、深謀遠慮の大賢者といわれるユーリが、感情むき出しでオレを揺さぶり引っ叩く。
それを見て、画面の中でケタケタ笑うヒトハ。
──ああ、こういう悪戯が精霊の評判を下げてるのね、納得したよ──
両頬が痺れて、オフしてないのに痛覚が感じなくなるほど叩かれながらそう思った。
※ ※ ※ ※ ※
一時間ほどののち、エルザ女王からの呼び出しがありユーリとオレは対面した。
「……なにやらお二人でいいことがあったそうで」
憔悴したオレと、艶々の肌に満面の笑みを浮かべたユーリをみて、普段無表情のエルザ女王がめずらしくニヤついた顔はでそう言った。
「久しぶりに会ったので、つい話し込んでしまったなクッキー」
絶妙なタイミングで余計なことを言うヒトハを画面から消し、半泣きのユーリをなだめて、ドライアドは分身体だから子づくりなんかしてないと説明し、それでもふてくされてる(それもまたカワイイんだが)ので、如何にユーリを愛しているか抱きしめて囁きつづけて、ようやく機嫌をなおしてもらった。
「仲が睦まじくてなによりです」
エルザ女王のニヤつきが止まらない。
──絶対に誤解してるな。外から聴いてたら、激しい声と肌を叩く音しかしてないし、ユーリは愛を確かめあってるとか言っちゃうし、来る途中もユーリはべったり寄りかかっていたもんな。当然か。
気を取り直してエルザ女王に挨拶をすると、親書を侍従経由で渡し、昨夜の出来事を話した。
「今日を入れて三日後に帝国の使者が来ると。それでそのデンワというモノを王宮に繋げたいというのですね」
「はい。そうすれば大使のモーリと連絡が密になりますし、いちいちお伺いの使者を使う必要がなくなります」
「そうですね──デンワ、デンワ、デンワデンワデンワと──」
なにやら思い出す仕草をするエルザ女王。なにか気にかかることでもあるのか。
「──思い出しました。初代クワハラ国王の回顧録に、そんな言葉がありました。それがあれば便利だっのにという嘆きのような言葉が」
「ソレのことです。クワハラ国王とは同郷ですから、間違いないでしょう」
「アンナも是非にといってるようですので、付けてもよろしいでしょう」
「ありがとうございます!」
よし、思ったより早くミッションクリアできたぞ。
あとは実際に取り付けて使ってみせる。
そして便利さと信用をかちとってから今度はテレビを勧める。
そんなことを考えていると、エルザ女王は予想外の事を条件として言ってきた。
「その代わりにとは言いませんが、しばらくユーリ様を王宮にお招きしておきたいのです」
部屋の中央くらいで抱きしめあったまま、ユーリは耳元で話し続ける。
「神話の成り立ちはともかくとして、今の精霊たちは少々悪戯が過ぎてな、騙されたり傷つけられたりするので、あまり好かれてはいない」
「そうなのか」
「ちゃんと感謝の祈りを捧げれば問題ないのだが、それをされないと悪戯される、そんな感じだな」
「つまり、ヒト族が精霊に感謝していないから悪戯をすると」
「必ずしもそうではないが──、アディがいい例えかな。機嫌を損ねると面倒くさいだろう」
「──分かりやすい例えだ」
互いにふふっと笑った。
そのとき、西の壁に作ったばかりのテレビが点いて、画面いっぱいに女のコの顔が映る。
「あー、お父様いたー。浮気してるー」
「ヒ、ヒトハ?!」
「浮気? クッキー、誰なんだこのコは? アディに似ているようだが? それにお父様とは?」
「このコはヒトハといって──」
「──お父様とアディお母様の娘、ヒトハでーす。あなたはだーれ?」
「ほほぅ、クッキーの娘とな。しかもアディとの」
気のせいか抱きしめるチカラが強くなった気がする。
「あ、あのねユーリ、説明すると」
「あ、あなたがユーリさん。アディお母様が言ってたお父様の浮気相手ですかー」
「ほほぅ、アディはそんなことを言ってるのか」
さらにチカラを込められる。
マリオネットだから触覚をオフにすれば問題ないのだが、それをやったら嫌われそうだから、そのままにする。
「あ、あのねユーリ、ちゃんと説明するから、まずオレの話を聞いてくれないか」
「もちろん聞くとも。この小娘の愚にもつかないヨタ話を聞いてからな。それで小娘、クッキーの愛人であるアディは他になんと言っているのだ」
「誰が愛人ですか」
「アディとかいう小娘の母親のことだが」
「アディお母様は愛人じゃありません。それにあたしは小娘じゃなくて長女のヒトハです」
「長女だと」
「そうですよ、八人姉妹の長女でーす」
「は、八人だと」
ユーリの右手がオレの後頭部を掴み、握り潰さんばかりにチカラを込められる。
うぎゃあぁぁーーー!!
思わずうめき声が出てしまった。
「クッキー様、どうかなされましたか」
扉の外から衛兵に訊ねられる。
「な、何でもない」
オレの言葉に続いてユーリもこたえる。
「気にするな、今、愛を確かめあってるところだ。入ってはならんぞ」
その強い口調に、衛兵は何かを察したのか失礼しましたっ、と応えて静かになった。
「ユーリ、もう少し言い方があったんじゃないか」
「話を逸らすな。嘘は言ってないだろう。それで八人姉妹の長女というのは本当なのか」
「そ、それはね」
「いっけなーい、八人じゃなかった、二百人だったー」
「に、二百人だと。クッキー、貴様いつの間にそんなにこしらえたーーー!!」
普段、深謀遠慮の大賢者といわれるユーリが、感情むき出しでオレを揺さぶり引っ叩く。
それを見て、画面の中でケタケタ笑うヒトハ。
──ああ、こういう悪戯が精霊の評判を下げてるのね、納得したよ──
両頬が痺れて、オフしてないのに痛覚が感じなくなるほど叩かれながらそう思った。
※ ※ ※ ※ ※
一時間ほどののち、エルザ女王からの呼び出しがありユーリとオレは対面した。
「……なにやらお二人でいいことがあったそうで」
憔悴したオレと、艶々の肌に満面の笑みを浮かべたユーリをみて、普段無表情のエルザ女王がめずらしくニヤついた顔はでそう言った。
「久しぶりに会ったので、つい話し込んでしまったなクッキー」
絶妙なタイミングで余計なことを言うヒトハを画面から消し、半泣きのユーリをなだめて、ドライアドは分身体だから子づくりなんかしてないと説明し、それでもふてくされてる(それもまたカワイイんだが)ので、如何にユーリを愛しているか抱きしめて囁きつづけて、ようやく機嫌をなおしてもらった。
「仲が睦まじくてなによりです」
エルザ女王のニヤつきが止まらない。
──絶対に誤解してるな。外から聴いてたら、激しい声と肌を叩く音しかしてないし、ユーリは愛を確かめあってるとか言っちゃうし、来る途中もユーリはべったり寄りかかっていたもんな。当然か。
気を取り直してエルザ女王に挨拶をすると、親書を侍従経由で渡し、昨夜の出来事を話した。
「今日を入れて三日後に帝国の使者が来ると。それでそのデンワというモノを王宮に繋げたいというのですね」
「はい。そうすれば大使のモーリと連絡が密になりますし、いちいちお伺いの使者を使う必要がなくなります」
「そうですね──デンワ、デンワ、デンワデンワデンワと──」
なにやら思い出す仕草をするエルザ女王。なにか気にかかることでもあるのか。
「──思い出しました。初代クワハラ国王の回顧録に、そんな言葉がありました。それがあれば便利だっのにという嘆きのような言葉が」
「ソレのことです。クワハラ国王とは同郷ですから、間違いないでしょう」
「アンナも是非にといってるようですので、付けてもよろしいでしょう」
「ありがとうございます!」
よし、思ったより早くミッションクリアできたぞ。
あとは実際に取り付けて使ってみせる。
そして便利さと信用をかちとってから今度はテレビを勧める。
そんなことを考えていると、エルザ女王は予想外の事を条件として言ってきた。
「その代わりにとは言いませんが、しばらくユーリ様を王宮にお招きしておきたいのです」
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