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イノベーションするぞー

躯体、バージョンアップ!!

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※ ※ ※ ※ ※

 ──ペッターが技術屋として職人としてすごいのは、おそらくは集中力のせいだろう。

 あれから何度か話しかけたが、いっこうに組み立てる気配がない。このままでは遅れが出てしまうかもしれない。

無理矢理ライブラリの接続を切っても良かったのだが、不貞腐れてやってもらえない可能性もある。

 考えた結果、繋がっている脊髄に理解力を増す成分の樹液を精製して投薬する。(前世なら完全な違法行為だな)
 同時に、映像を少しづつ早送りをしてとっとと全部観終わらせるようにした。

 それでもしばらくかかるから、その間に途中までだった立体……言いづらいな、3Dプリンタとセンサーを開発することにした。

 触手ツタを改良して、先端を五本指にする。
 それを上下左右前後用に、六本配置。
 次に直径二メートル、高さ一メートルの台座を用意する。
 これで試しに何か作ってみよう。

※ ※ ※ ※ ※

 ペッターが練習用に用意していた材木を一本拝借、それをプリンタの方に置き、えーっと、女性型世界樹製躯体壱号機アフロダイが遊んでいるからこれで試してみるか。

 触手ツタでアフロダイを3Dセンサー台座に運び寝かせる、カメラツタで上下左右前後を読み取り、菌糸ネットワークで作った制御システムで数値データ化。

 そのデータを元に、現時点で最高硬度の木で作った先端彫刻刀ツタで彫っていく。

理論上、上手くいく──はずだった。

バキッ、という音とともに木材が割れてしまった。

「おっかしいな、合ってるはずなんだが」

 その後も何度かやってみたが、どうにもうまくいかない。割れたり裂けたりするばかりだった。
バキッ、パキッ、ガシャ、ベキベキ、と失敗する音ばかりが地下に響く。

 すると、ペッターが怒鳴りながら部屋から飛び出してきた。

「うるせぇ、下手くそが!! 木が泣いてるだろうが!! 何してんだよ!!」

 失敗した木材の山を見ると、さらに怒鳴り散らす。

「何やってんだクッキー、まだ乾燥が足りないやつばかりじゃないか!! こんなのでやるなよ!!」

「そ、そうなの?」

「木を彫るには適度な乾燥状態じゃないとダメなんだ、あーあ、こんなにムダにしやがって──何したかったんだよ」

「……3Dプリンタの試運転。上手くいかなくてさ」

 あまりの怒りっぷりに、つい萎縮して返事してしまった。

「なんだこれ、彫るヤツだったのか。こんなにムダにデカイくせに、こんなことも出来ないのなんてムダすぎる」

……返す言葉もない。

「お前も樹木なんだから分かるだろ、木には目ってのがあるんだよ、それに合わせて彫り方を変えないといけない繊細な作業なんだ、こんな大雑把なモンでできるか!!」

落ち込むなぁ……コレ、お前の助けになると思って造ったのに……。

「ったく、何したかったんだよ」

「マリオネットが急いで必要になってさ、ペッターが無反応だったんで、自分でやろうとして試作をやってたんだ」

「……、ふぅ……、あー、まぁなんだ、……」

 最後まで言わず、背中を向けると作業場に向かい、四号機の組み立てをはじめた。

 ずっと無言で作業を続けるので、放っておかれた気持ちになる。
 話しかけたいが、そんな雰囲気じゃない。親に怒られた子供が立たされている、そんな感じだった。

※ ※ ※ ※ ※

 ──無言の行の如くずっとお互い黙っていたが、その静寂を破ったのはペッターだった。

「四号機の点検は終わってたんだ、あとは組み立てるだけだった」

「──うん」

「出来たよ、試してみてくれ」

 オレは意識をマリオネットに移した。
 木造りで御座候というマリオネットが、十八の頃の俺の姿に変わる。もちろん全裸。
 上体を起こして両手を握ったり広げたりする、気持ちよく動く。
 作業台から下りて立ち上がるとストレッチの動きをする、じつに滑らかに動く。まるでプロのマッサージを受けたあとのような快適さだ。

 意外とキチンとしている、いや、性格はキチンとしているが言葉はぞんざいなペッターがたたんで置いてくれていた衣服を着ると、今度は空手のような動きをする。

「──すごいなペッター、前より動きがいいぞ」

オレの動きを観察するようにじっと観ていたペッターも驚く。

「いや──マリオネットは前と同じだ、クッキーが変わったんだと思う。前より使い方が上手くなってる、そんな感じだな」

「言われてみればそうだな。となると……チュートリアルでヒトの動きを再認識したから、身体の動かし方を思い出したということか」

 参号機から四号機に躯体ハードがバージョンアップしたけどOSソフトがそのままだった。
 それをチュートリアルでバージョンアップしたから、元々の性能を発揮できるようになったということか。

「ありがとう、ペッター」

「あー、まあ気にするな。木材をこれ以上駄目にしたくなかっただけだ」

「ごめん」

 ペッターは無視して後かたづけをはじめる、オレも次の行動をしようと外に出ようとしたが、その背中に声をかけられる。

「あー、クッキー」

「なんだい」

互いに背中を向け合い会話する。

「夢中になって返事しなかったのは、すまなかった」

「気にしてないよ、それじゃ行ってくる」

しこりを残さないのは、一緒に暮らすもの同士の心得だよな。
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