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イノベーションするぞー
見返りは……
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「ちょ、ちょっと、ユーリ、援助を断っちゃったの?!」
クスクスと笑いながら、ユーリは言葉を続ける。
「慌てるなよクッキー、もちろん最終的には受けたさ。ただあまりにも見え透いた茶番劇だったんで、すこし意地悪をしただけだよ」
「茶番劇って……どういうことだい」
それなりに駆け引きがあったのは解る、チュートリアルで顧客相手にプレゼンもやってきたからな。
だけど、どういう思惑があったのかは分からない。
「エルザ女王が断ってからアンナが協力するように説得する、するとこちらとしては恩に着るカタチになるだろう? そうやって自分たちを高く売り込もうとしたのさ。エルザ女王は憎まれ役、アンナが恩を売る役としてな」
ああ、いわゆるアメとムチね。
「ユーリはそれが判ったんだ」
「まあな。旅をしているとこういう場面は何度かあったからすぐに感づいたさ。素直に乗ってやってもよかったんだが、こちらも安くみられるわけにはいかないからな。ちょっとからかってやった」
相変わらず豪胆だなあ、ユーリのこういうところ尊敬するよ。
「もし本当に断られたらどうするつもりだったんだい」
「それはないな。帝国がカーキ=ツバタに侵攻するなら、直接街道を使うか、私たちの森を経由するかのふたつだ。
帝国が森に興味を持つのはオアシスがあるからだろう? ならば選ぶのは森経由のはずだ。近場に拠点がつくれるからな。
となると、カーキ=ツバタとしては森を落とされるわけにはいかないだろう」
「なるほど」
「それにだ、うがった見方をするなら、私たちと帝国が争っているときにカーキ=ツバタが裏切って帝国の味方をすれば、自分たちが助かる道筋が出てくるだろう? ならば秘密裏に援助してあっさり負けぬようにするだろうしな」
「裏切られる可能性があると?」
「そういうことも考えに入れないといけない、ということさ」
「心外だなぁ、カイマ襲撃のときに助けてやったのに」
「それさ」
「どれさ」
「クッキーの能力が過越すぎるんだよ、王国全体を森で囲ってしまっただろう。大き過ぎる能力はたとえ味方であっても恐怖を感じるものさ」
そういうもんかな? ああ……前世で自衛隊とか警察が疎まれてた感じね、なるほど。
「となると、オレはそういうことろに気をつけないといけないのか」
「まあな。裏のない親切はかえって疑われるものさ。クッキーは次期世界樹になるという名目があるだろう? それに協力してくれたら見返りがあるという方が信用されると思うがどうだろう」
「とりあえずそれでいこう。見返りは何にするかは見当つかないけど」
見返りねぇ……オレに出来ることって植物を操ることしかないんだけどなぁ。
「それなんだが、クッキーはクワハラと同郷だったよな」
「クワハラって、ここの初代国王でユーリと冒険をしていたクワハラかい? それならそうだけど」
「スキヤキとニホンシュは知ってるか」
おお。なんか懐かしい単語が出てきたぞ。
「もちろん知ってるよ。鍋料理とお酒だろ」
「ふむ。じゃあカーキ=ツバタでそれらを食したかい」
「え?! ここって、そんなのがあるんだ」
「なんだ知らなかったのか? ここに一年くらい居たんだろ」
「いや……参号機躯体には味覚が無かったから食べ物に興味無かったし、四号機躯体にはあるけど昼間は意識を本体、夜はここの城壁で見回りだったから──そうか、そんなのがあるんだ」
味覚があるんだ、これはカーキ=ツバタに来るのが楽しみになってきたぞ。
「それでだ、クワハラに聞いたんだが、スキヤキにはショーユとサトウいう味つけが要るらしいがそうなのか」
「ああそうだよ、肉と野菜を甘辛く煮るように焼くんだ。それにお酒なんてたまらないねぇ」
前世ではそのどちらもあまり好きではなかったが、食べられると思ったら猛烈に味わいたくなった。
「つまり、クッキーは本場の味を知ってるわけだ。それとショーユとサトウの作り方は知っているのかい」
「ああ──作ったことはないけど、原理は知ってる。砂糖はサトウキビとか甜菜から作るし、ショーユは大豆と麦と塩……そうか、わかったよユーリ、見返りはできるぞ」
ついでにオレも楽しめる。
「わかった。ならば今夜はここまでにしておこう、もう寝ないと明日に差し支えるからな」
「そうするか。じゃあオレは森に戻る。用があったらデンワツタに話しかけてくれ、すぐに出るから」
「わかった。じゃあおやすみ、クッキー」
「おやすみ、ユーリ」
有意義な話し合いが終わると、オレはすぐに森に戻った。
秒で行きます、なんて前世では言ってたけど、今は本当にそれをやれる。
※ ※ ※ ※ ※
世界樹に戻ってみると、ライブラリが稼働していた。どうやらペッターが使っているらしい。
「ペッター、戻ったよ」
「……」
精神接続で話しかけるが返事がない。
カメラツタを使って覗いてみると、出かける前に作っておいたモニターでロボットアニメを観ていた。
「ペッター、戻ったよってば」
「……ああ」
──ダメだ、完全に夢中になっている。
作業台には分解されたままの四号機が置かれていた。おいおいペッター、早く組み立ててくれよ。でないとすき焼きと日本酒が楽しめないじゃないか。
しかし、その後もペッターはアニメと特撮に夢中になってしまい、作業を全然してくれなかった。
どうしよう?
クスクスと笑いながら、ユーリは言葉を続ける。
「慌てるなよクッキー、もちろん最終的には受けたさ。ただあまりにも見え透いた茶番劇だったんで、すこし意地悪をしただけだよ」
「茶番劇って……どういうことだい」
それなりに駆け引きがあったのは解る、チュートリアルで顧客相手にプレゼンもやってきたからな。
だけど、どういう思惑があったのかは分からない。
「エルザ女王が断ってからアンナが協力するように説得する、するとこちらとしては恩に着るカタチになるだろう? そうやって自分たちを高く売り込もうとしたのさ。エルザ女王は憎まれ役、アンナが恩を売る役としてな」
ああ、いわゆるアメとムチね。
「ユーリはそれが判ったんだ」
「まあな。旅をしているとこういう場面は何度かあったからすぐに感づいたさ。素直に乗ってやってもよかったんだが、こちらも安くみられるわけにはいかないからな。ちょっとからかってやった」
相変わらず豪胆だなあ、ユーリのこういうところ尊敬するよ。
「もし本当に断られたらどうするつもりだったんだい」
「それはないな。帝国がカーキ=ツバタに侵攻するなら、直接街道を使うか、私たちの森を経由するかのふたつだ。
帝国が森に興味を持つのはオアシスがあるからだろう? ならば選ぶのは森経由のはずだ。近場に拠点がつくれるからな。
となると、カーキ=ツバタとしては森を落とされるわけにはいかないだろう」
「なるほど」
「それにだ、うがった見方をするなら、私たちと帝国が争っているときにカーキ=ツバタが裏切って帝国の味方をすれば、自分たちが助かる道筋が出てくるだろう? ならば秘密裏に援助してあっさり負けぬようにするだろうしな」
「裏切られる可能性があると?」
「そういうことも考えに入れないといけない、ということさ」
「心外だなぁ、カイマ襲撃のときに助けてやったのに」
「それさ」
「どれさ」
「クッキーの能力が過越すぎるんだよ、王国全体を森で囲ってしまっただろう。大き過ぎる能力はたとえ味方であっても恐怖を感じるものさ」
そういうもんかな? ああ……前世で自衛隊とか警察が疎まれてた感じね、なるほど。
「となると、オレはそういうことろに気をつけないといけないのか」
「まあな。裏のない親切はかえって疑われるものさ。クッキーは次期世界樹になるという名目があるだろう? それに協力してくれたら見返りがあるという方が信用されると思うがどうだろう」
「とりあえずそれでいこう。見返りは何にするかは見当つかないけど」
見返りねぇ……オレに出来ることって植物を操ることしかないんだけどなぁ。
「それなんだが、クッキーはクワハラと同郷だったよな」
「クワハラって、ここの初代国王でユーリと冒険をしていたクワハラかい? それならそうだけど」
「スキヤキとニホンシュは知ってるか」
おお。なんか懐かしい単語が出てきたぞ。
「もちろん知ってるよ。鍋料理とお酒だろ」
「ふむ。じゃあカーキ=ツバタでそれらを食したかい」
「え?! ここって、そんなのがあるんだ」
「なんだ知らなかったのか? ここに一年くらい居たんだろ」
「いや……参号機躯体には味覚が無かったから食べ物に興味無かったし、四号機躯体にはあるけど昼間は意識を本体、夜はここの城壁で見回りだったから──そうか、そんなのがあるんだ」
味覚があるんだ、これはカーキ=ツバタに来るのが楽しみになってきたぞ。
「それでだ、クワハラに聞いたんだが、スキヤキにはショーユとサトウいう味つけが要るらしいがそうなのか」
「ああそうだよ、肉と野菜を甘辛く煮るように焼くんだ。それにお酒なんてたまらないねぇ」
前世ではそのどちらもあまり好きではなかったが、食べられると思ったら猛烈に味わいたくなった。
「つまり、クッキーは本場の味を知ってるわけだ。それとショーユとサトウの作り方は知っているのかい」
「ああ──作ったことはないけど、原理は知ってる。砂糖はサトウキビとか甜菜から作るし、ショーユは大豆と麦と塩……そうか、わかったよユーリ、見返りはできるぞ」
ついでにオレも楽しめる。
「わかった。ならば今夜はここまでにしておこう、もう寝ないと明日に差し支えるからな」
「そうするか。じゃあオレは森に戻る。用があったらデンワツタに話しかけてくれ、すぐに出るから」
「わかった。じゃあおやすみ、クッキー」
「おやすみ、ユーリ」
有意義な話し合いが終わると、オレはすぐに森に戻った。
秒で行きます、なんて前世では言ってたけど、今は本当にそれをやれる。
※ ※ ※ ※ ※
世界樹に戻ってみると、ライブラリが稼働していた。どうやらペッターが使っているらしい。
「ペッター、戻ったよ」
「……」
精神接続で話しかけるが返事がない。
カメラツタを使って覗いてみると、出かける前に作っておいたモニターでロボットアニメを観ていた。
「ペッター、戻ったよってば」
「……ああ」
──ダメだ、完全に夢中になっている。
作業台には分解されたままの四号機が置かれていた。おいおいペッター、早く組み立ててくれよ。でないとすき焼きと日本酒が楽しめないじゃないか。
しかし、その後もペッターはアニメと特撮に夢中になってしまい、作業を全然してくれなかった。
どうしよう?
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