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主人公がチュートリアル その頃周りでは──
楽しい?!食事会
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王宮の通用門で衛兵に名と用件を伝えると、部屋まで案内してもらう。
そこはクッキー専用にあてがわれた所だった。
シンプルに椅子とテーブルに応接セットのみだが、それらは品のある装飾された代物である。
そこに侍女を連れたゾフィがやってくる。
「ようこそユーリ様。陛下よりこちらで御召し物を着替えるように言われております」
「親衛隊隊長みずからのお迎えとは痛み入る。ではお願いしようか」
ユーリは目の前でゆっくりと荷物をおろし、その中から以前もらったドレスを出そうとしたが、それを止められる。
「こちらで用意した物に着替えていただきます」
ゾフィがそう言うと、侍女達はユーリに近づき着替えを手伝う。その間、もちろん見張られている。
「お気を悪くしないでください」
「気にするな、王族に会うのはこれが初めてではない」
顔見知りでいくら招待されているとはいえ、やはり王族に会う時は配下の者が細心の注意をはらう。これくらいは当然だろうとユーリは気にしなかった。
「そうそう、ゾフィ、伝言がある」
「私にですか」
「先ほどの実家に寄ってきた。母君よりは、アンナ様を大切に、だそうだ」
「承った」
なるだけ冷静に応えたつもりだろうが、少し嬉しそうなトーンに聞こえた。
「あとモーリ──父君からは、元気でいる、とのことだ」
「そうですか──あ、あの、父はその、だ、大丈夫ですか」
「ああ。クッキーとよく話してるよ。大使としての役目を果たそうと頑張っている」
「そうですか」
心なしか、母君より嬉しそうなトーンだった気がする。
──ふだん冷たく言ってるが、ゾフィは存外モーリの方が好きなのかもしれないな──
ユーリはくすりと笑ってしまった。
※ ※ ※ ※ ※
昼間用のドレスに着替えたあと、ゾフィを先頭に侍女達が後ろについて食事の間に案内される。
先に席に着いて待っていると、エルザ女王がアンナ王女とともにやって来たので立ち上がり、挨拶をする。
「エルザ女王、お目にかかれて光栄です」
「堅苦しい挨拶は無しにしましょう、ユーリ・アッシュ・エルフネッド殿。お座りください」
エルザ女王がそう言ってから席に着き、アンナ王女も席に着く。
衛兵の制服姿ではないところをみると、今日は王女として同席しているようだった。
ユーリが座ったあと、エルザ女王は話しかける。
「モーリ大使によると何か尋ねたい事があるとか。まずは食事をしてからにしましょうか」
「ええ、そうさせていただきます」
※ ※ ※ ※ ※
会食というと、親睦を深めるというイメージを持つが、交渉の場という側面もある。
ユーリはフルネームをエルザ達に言った覚えはない。
──つまり調べはついているぞ、という牽制か。どうやら予想通り食事を楽しむだけではすみそうにないな、昨夜のうちに美味しいモノを食べてて良かった──
出された前菜にナイフを入れながら無表情にそう悟った。
当たり障りない会話をしながら、ユーリはさり気なくエルザを見定める。
──同席しているアンナ王女は十二歳で美聖女戦士になったと聞いたな。とすると今は十六歳くらいか。末娘で最後の子と考えると、女王は五十歳くらい? とてもそうは見えないほど美しいな。肌の艶もあるし、ステーキを食べる健啖家ぶり、まだまだ元気ということか──
食後のフルーツを食べながら会話は続く。
「いかがでしたか、料理の方は」
「たいへん美味しくいただきました。とくにメインのステーキは、塩ではなく何かしらのソースとの相性が言葉にし難い美味しさでした」
「それはけっこう。料理長を呼んできて、お客人が殊のほか喜んでいたと」
──しばらくして料理長がやってくると、最敬礼をする。
「料理長、お客人のユーリ様がたいへん満足したとのことです」
「ありがとうございます、ユーリ様。個人的にもうひとつ御礼をのべたいのですが」
「なにかしましたか」
「昨年のカイマ事件で、息子が襲われそうになったのを助けていただいたそうです。息子になりかわりまして御礼を述べさせていただきます、それと父として息子を助けていただき、心から感謝させていただきます」
「そうでしたか。いくさにおける当たり前のことです、気にしないでください。お声をかけたのはメインのソースがとても美味しかったからです。どことなく郷土料理のスキヤキのようでしたが、それよりもはるかに美味しかったものですから」
「ありがとうございます、本日のソースは秘伝のテリヤキというソースでございます。スキヤキの味に似て非なるものですが、野生のグレイトバッファロのフィレに合わせてみました」
「なるほど、ソースの作り方は秘伝なんでしょうね」
「その通りでございます、どうぞご勘弁を」
ユーリが静かに頷くと、エルザ女王は下がるように手を振る。
「では、本題に入りましょう。なにかお尋ねになりたいことがあるとか」
「海神ファスティトカロン帝国が王国に侵略行為をおこなおうとしている──」
そこまで話してユーリは反応を見る。
「──という話を聞きまして、そちらの大使によると、帝国の使者がユグドラシル樹立国にも立ち寄るとか」
そこはクッキー専用にあてがわれた所だった。
シンプルに椅子とテーブルに応接セットのみだが、それらは品のある装飾された代物である。
そこに侍女を連れたゾフィがやってくる。
「ようこそユーリ様。陛下よりこちらで御召し物を着替えるように言われております」
「親衛隊隊長みずからのお迎えとは痛み入る。ではお願いしようか」
ユーリは目の前でゆっくりと荷物をおろし、その中から以前もらったドレスを出そうとしたが、それを止められる。
「こちらで用意した物に着替えていただきます」
ゾフィがそう言うと、侍女達はユーリに近づき着替えを手伝う。その間、もちろん見張られている。
「お気を悪くしないでください」
「気にするな、王族に会うのはこれが初めてではない」
顔見知りでいくら招待されているとはいえ、やはり王族に会う時は配下の者が細心の注意をはらう。これくらいは当然だろうとユーリは気にしなかった。
「そうそう、ゾフィ、伝言がある」
「私にですか」
「先ほどの実家に寄ってきた。母君よりは、アンナ様を大切に、だそうだ」
「承った」
なるだけ冷静に応えたつもりだろうが、少し嬉しそうなトーンに聞こえた。
「あとモーリ──父君からは、元気でいる、とのことだ」
「そうですか──あ、あの、父はその、だ、大丈夫ですか」
「ああ。クッキーとよく話してるよ。大使としての役目を果たそうと頑張っている」
「そうですか」
心なしか、母君より嬉しそうなトーンだった気がする。
──ふだん冷たく言ってるが、ゾフィは存外モーリの方が好きなのかもしれないな──
ユーリはくすりと笑ってしまった。
※ ※ ※ ※ ※
昼間用のドレスに着替えたあと、ゾフィを先頭に侍女達が後ろについて食事の間に案内される。
先に席に着いて待っていると、エルザ女王がアンナ王女とともにやって来たので立ち上がり、挨拶をする。
「エルザ女王、お目にかかれて光栄です」
「堅苦しい挨拶は無しにしましょう、ユーリ・アッシュ・エルフネッド殿。お座りください」
エルザ女王がそう言ってから席に着き、アンナ王女も席に着く。
衛兵の制服姿ではないところをみると、今日は王女として同席しているようだった。
ユーリが座ったあと、エルザ女王は話しかける。
「モーリ大使によると何か尋ねたい事があるとか。まずは食事をしてからにしましょうか」
「ええ、そうさせていただきます」
※ ※ ※ ※ ※
会食というと、親睦を深めるというイメージを持つが、交渉の場という側面もある。
ユーリはフルネームをエルザ達に言った覚えはない。
──つまり調べはついているぞ、という牽制か。どうやら予想通り食事を楽しむだけではすみそうにないな、昨夜のうちに美味しいモノを食べてて良かった──
出された前菜にナイフを入れながら無表情にそう悟った。
当たり障りない会話をしながら、ユーリはさり気なくエルザを見定める。
──同席しているアンナ王女は十二歳で美聖女戦士になったと聞いたな。とすると今は十六歳くらいか。末娘で最後の子と考えると、女王は五十歳くらい? とてもそうは見えないほど美しいな。肌の艶もあるし、ステーキを食べる健啖家ぶり、まだまだ元気ということか──
食後のフルーツを食べながら会話は続く。
「いかがでしたか、料理の方は」
「たいへん美味しくいただきました。とくにメインのステーキは、塩ではなく何かしらのソースとの相性が言葉にし難い美味しさでした」
「それはけっこう。料理長を呼んできて、お客人が殊のほか喜んでいたと」
──しばらくして料理長がやってくると、最敬礼をする。
「料理長、お客人のユーリ様がたいへん満足したとのことです」
「ありがとうございます、ユーリ様。個人的にもうひとつ御礼をのべたいのですが」
「なにかしましたか」
「昨年のカイマ事件で、息子が襲われそうになったのを助けていただいたそうです。息子になりかわりまして御礼を述べさせていただきます、それと父として息子を助けていただき、心から感謝させていただきます」
「そうでしたか。いくさにおける当たり前のことです、気にしないでください。お声をかけたのはメインのソースがとても美味しかったからです。どことなく郷土料理のスキヤキのようでしたが、それよりもはるかに美味しかったものですから」
「ありがとうございます、本日のソースは秘伝のテリヤキというソースでございます。スキヤキの味に似て非なるものですが、野生のグレイトバッファロのフィレに合わせてみました」
「なるほど、ソースの作り方は秘伝なんでしょうね」
「その通りでございます、どうぞご勘弁を」
ユーリが静かに頷くと、エルザ女王は下がるように手を振る。
「では、本題に入りましょう。なにかお尋ねになりたいことがあるとか」
「海神ファスティトカロン帝国が王国に侵略行為をおこなおうとしている──」
そこまで話してユーリは反応を見る。
「──という話を聞きまして、そちらの大使によると、帝国の使者がユグドラシル樹立国にも立ち寄るとか」
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