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主人公がチュートリアル その頃周りでは──

スキヤキとニホンシュ

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   ユーリが夜の繁華街に消えたあと、部屋の用意ができたことを受付嬢はギルマスに報告する。

「ご苦労さま。今日はもう帰っていいよ」

「いえ、女性客ですから念の為泊まることにします」

「そうか、ありがとう」

 執務机から立ち上がり、窓の外を見るギルマスの背中に受付嬢は話しかける。

「マスター、質問してよろしいでしょうか」

「ユーリ様のことかい」

「それもありますが、わたし達ギルドの今後の方針も知りたいです」

「キミは──カーキ=ツバタの出だったね」

「はい。お祖父様の代に移民してきたときいてます」

「私は帝国出身なんだよ。戦争の最中にギルドに就職して、こちらに派遣されたんだ」

「そうでしたね」

「もう20年にもなる、王国を第二の故郷といってもいいくらいだ。だからこの戦争になるかもしれない状態をなんとかしたいと思ってる」

沈痛な面持ちでそう言ってからため息をつく。

「とはいっても所詮は出張所のマスター程度では何もできない。せいぜい我が身を守るくらいしかできないか。愛着あるこの出張所を守るにはどうしたらいいか、それだけを考えている、というかそれしか考えられない」

「ユーリ様ならなんとかしてくれそうですか」

「──どうだろうな。ギルド創成期の伝説の賢者ユーリ様でも難しいんじゃないかな。まあ考えてもしょうがない、宿直室で休んでいてくれ」

「かしこまりました、お休みなさいませ」

 受付嬢が出ていったあと、呟く。

「おそらく戦争はまぬがれないだろう、帝国の目的は支配である以上、ギルドも国民もたぶん助かるだろう。危ないのは王族か。王族は──どうする気だろうか。──独立国家にこだわるか、それとも属国化するだろうか──。この局面で王族と顔見知りであるユーリ様と縁ができたのは何を意味するのか──」

 とても眠れそうにないなとギルマスは思った。

※ ※ ※ ※ ※

 繁華街のとある酒場で、ユーリは久しぶりの料理に舌鼓を打っていた。

「まさかスキヤキを食べられるとはな、懐かしい味だ。しかもニホンシュまで」

 勇者クワハラ達と旅をしているときに、クワハラが自分の郷土料理だといって食べさせてもらったことがある。

「本当はショーユとサトウを使うんだが、こっちでは手に入らなくて代用品で作ってみた」

材料は何だったか忘れたが、甘辛く煮られた薄切り肉と野菜は、ことのほか美味かった。

 ユーリがニホンシュを追加しようと店主に声をかけ、でっぷりとした如何にも料理人という愛想の好さそうな中年が持ってくる。

「──如何です、旅の方。カーキ=ツバタの名物料理スキヤキは」

「ああ、以前ほかで食べたものよりずっと美味いよ。ニホンシュもな」

「それはもちろんでございます。元勇者にしてカーキ=ツバタ建国のヒト、クワハラ王の指導のもとショーユとサケを造られたので、この国ではより本場に近いスキヤキとニホンシュを提供できるのですから」

「本場のモノを食べたことあるのか」

「いえ。ですが、先々代がクワハラ様にお墨付きをもらってからこの味を変えてません。ですから同じはずですよ」

「なるほど」

ユーリ自身本場のものを食べたこと無いから、どうでもいいと思い、話を切り上げた。

 店主が下がったあとユーリは今後の予定を考える。

(今夜はギルドに泊まって、明日はまずモーリの家に寄って、それから王宮だな。
 そうそうペッターの頼まれモノも手に入れないと。
 となるとカネが要るな。ギルドに昔預けたのは残っているかな。無ければ稼がないと)

 とりあえず今宵はゆっくり休むとしようと、からになった鍋とサケに感謝の祈りを捧げ、店をあとにした。

※ ※ ※ ※ ※

 翌朝、ギルドでギルマスとともに朝食をとっていると、王宮からの使いがやってくる。

「今日の昼食をともにしましょう、エルザ=クワハラ=カーキツバタ、か。身だしなみを整えたいから少し早目に行くと伝えてくれ」

ユーリからそう返事を受けとると、使いの者はうやうやしく礼をしたあと戻っていく。

「ユーリ様、何か御手伝いすることはありませんか」

使者を見送りながらギルマスが尋ねる。

「そうだな、ここに書いてあるモノが手に入るのかどうか調べておいてくれないか。私はこのまま出かけて、それから王宮に向かうことにする」

「どちらへ」

「気になるか」

「あ、いえ。失礼しました」

 何か話したそうなのはずっと気づいていたが、ユーリはあえて気づかないふりをした。おそらく女王との話しを教えてほしいのだろうと。

──要らぬコトを聞いてしまうと不自然になってしまうからな、まあたぶん戦う気があるかないかを知りたいだけなんだろうが──

 ユーリは出かけると、まずはモーリの店に向かう。
 一年前に一度会っただけなのに、モーリの妻は愛想よく迎えてくれた。

「うちのヒト、また迷惑かけてませんか」

「いや、それどころかたいへん助けてもらっている。ありがたいことです」

軽く挨拶したあと、王宮に行くがゾフィに伝言はあるか訊くと

「アンナ様を大切にとだけ伝えておいてください」

と言われた。

義理を果たすと、ユーリは本来の目的である王宮へと向う。
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