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主人公がチュートリアル その頃周りでは──
ユーリのサポート
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──クッキーが修行というか自前の精霊界にこもりはじめた頃、ユーリはモーリと会っていた。──
領事館がわりの大型馬車のなか、先程までクッキーが座っていたところにユーリが座り、あらためて現状を説明してもらう。
「ふむ、つまり海神ファスティトカロン帝国の使節団がこの森に来るというのに、対応の仕方が分からないというのが問題なのだな」
「そうですね。ユグドラシル樹立国などと各地に通達しておきながら、城もマチもないどころか国民すら居ないんですからね」
「エルザ女王の真意はどこにあるのだ」
「さあ。クッキーさんにも言いましたが、もともとしがない旅商人の私では分かりませんな。娘なら知ってるかもしれませんが」
「ゾフィは親衛隊長だからな。……これは一度カーキ=ツバタ王国に行ってみるしかないかな」
「ウマならありますよ。乗れますか」
「ああ。それは助かるな。今からだと途中で日が暮れてしまうが……、ダメだなウマが困るか。明日の夜明けとともに出かけることにしよう」
「分かりました。なにか他に用意するモノありますか」
「そうだな……ゾフィ宛に紹介状を書いておいてくれ、私がユグドラシル樹立国国王の代理であるとな」
ユーリは敢えてクッキーとは言わず国王と呼称した。むこうの反応を試したかったからだ。
「あとは帝国の情報を知りたいが……モーリは最近の帝国のコトは何か知っているか」
「例のカイマ事件の前は帝国の馴染みのところをまわってきたので、一年ほど前のコトなら多少は」
「どうだった」
モーリは空になったティーカップにお茶を注ぎながら思い返す。
「相変わらず盛況でしたね。小国間の争いがなくなったおかげで、戦争という浪費が無くなり、関所も関税が無くなりましたから私らみたいな商人が行き来しやすくなって、特産物の流通も増えてましたね」
「王国と帝国の関係はどうだ」
「うーん、微妙ですかね。カーキ=ツバタ王国と親交のあるカリステギア王国が属国化しましたからねぇ」
カリステギア王国は海沿いの東端にある王国で、現在は帝国の東端となっている。
カーキ=ツバタとは王族の親戚同士という繋がりがあったので、圧倒的軍事力で帝国に屈伏させられたことに内心面白く思ってないだろうとモーリは言う。
「帝国の言い分は、[平和のために統一国家にする]です。たしかに南部のいざこざは無くなりました、おかげで商売しやすくなりましたがね」
あくまで商人目線で話すモーリにユーリは苦笑する。
「となると帝国も情報が欲しいな……」
ユーリは少し黙って考えるが、モーリが旅商人であることから、ふと思いつく。
「モーリはギルドに入ってるのか」
「ええ、もちろん。王国にもギルドの出張所がありますよ」
「そうか。……ならモーリ、もうひとつ紹介状を書いてくれ。ギルド宛に」
「よろしいですが、ギルドに何の用ですか」
「まあな。モーリは所属証明を持っているか」
「ギルド所属の旅商人ですからね、もちろん持ってます」
そう言うとモーリは首から下げている細いチェーンの先にある金属製のプレートを服の下から取り出して見せる。
「ふむ、今でも通用するようだな。ではモーリ、紹介状をふたつ頼んだ。私はペッターに明日以降の予定を伝えてくる。では明日の日の出にまた来る」
「わかりました、それまでに用意しておきます」
※ ※ ※ ※ ※
ユーリは聖域庭園に戻ると地下住居空間に行き、割り当てられた自室で旅支度をする。
その後、さらに下にある多目的空間の隅にあるペッターの研究室兼居住区に行き、明日以降の予定を伝えた。
「ふん、わかった」
マリオネットをメンテナンスしながら背中越しに
素っ気ない返事をもらって、ユーリは戻ろうとすると、ペッターは思いついたように話しかける。
「エルフ、頼みがあるんだが」
めずらしい事があるんだなと思いながら、ユーリは足を止める。
「オンナがいる」
その言葉を聞いて眉をひそめる。
ドワーフの酒好きと女好きは知っているが、ハーフドワーフのペッターは、出会ってからそんなことを言ったことは無かったし、そういうものに興味がないと思っていた。
「どんなのが好みなんだ。というかココには連れてこれないぞ、アディに頼んでドライアドに相手してもらったらどうだ」
「──なにか勘違いしているようだな。オイラに必要なんじゃない、エルフに必要なんだよ」
「私に? そういったことに興味は無いが」
「そこから離れろ。──オイラが今、神器の解明をしているのは知っているな」
「ああ」
「クッキーの頼みとバカ精霊のためというのが理由だが、エルフのためというのは?」
「……知っている」
「また誤解されると面倒だからちゃんと説明するぞ。いま聖域庭園にいるオンナはバカ精霊とエルフだけだ、バカ精霊はマリオネットだから、生物としてのオンナはエルフだけ。つまり着付けはオイラがエルフにやることになる」
「ああ……、気をつかってくれたのか。すまない」
「気にするな──ユニオンにいたとき、触っただの見られただの騒いで、報酬を踏み倒そうとしたオンナに何度もあったからな」
「そういうときは、どうしていたんだ」
「──ティナという助手を使っていた、今はもういない」
領事館がわりの大型馬車のなか、先程までクッキーが座っていたところにユーリが座り、あらためて現状を説明してもらう。
「ふむ、つまり海神ファスティトカロン帝国の使節団がこの森に来るというのに、対応の仕方が分からないというのが問題なのだな」
「そうですね。ユグドラシル樹立国などと各地に通達しておきながら、城もマチもないどころか国民すら居ないんですからね」
「エルザ女王の真意はどこにあるのだ」
「さあ。クッキーさんにも言いましたが、もともとしがない旅商人の私では分かりませんな。娘なら知ってるかもしれませんが」
「ゾフィは親衛隊長だからな。……これは一度カーキ=ツバタ王国に行ってみるしかないかな」
「ウマならありますよ。乗れますか」
「ああ。それは助かるな。今からだと途中で日が暮れてしまうが……、ダメだなウマが困るか。明日の夜明けとともに出かけることにしよう」
「分かりました。なにか他に用意するモノありますか」
「そうだな……ゾフィ宛に紹介状を書いておいてくれ、私がユグドラシル樹立国国王の代理であるとな」
ユーリは敢えてクッキーとは言わず国王と呼称した。むこうの反応を試したかったからだ。
「あとは帝国の情報を知りたいが……モーリは最近の帝国のコトは何か知っているか」
「例のカイマ事件の前は帝国の馴染みのところをまわってきたので、一年ほど前のコトなら多少は」
「どうだった」
モーリは空になったティーカップにお茶を注ぎながら思い返す。
「相変わらず盛況でしたね。小国間の争いがなくなったおかげで、戦争という浪費が無くなり、関所も関税が無くなりましたから私らみたいな商人が行き来しやすくなって、特産物の流通も増えてましたね」
「王国と帝国の関係はどうだ」
「うーん、微妙ですかね。カーキ=ツバタ王国と親交のあるカリステギア王国が属国化しましたからねぇ」
カリステギア王国は海沿いの東端にある王国で、現在は帝国の東端となっている。
カーキ=ツバタとは王族の親戚同士という繋がりがあったので、圧倒的軍事力で帝国に屈伏させられたことに内心面白く思ってないだろうとモーリは言う。
「帝国の言い分は、[平和のために統一国家にする]です。たしかに南部のいざこざは無くなりました、おかげで商売しやすくなりましたがね」
あくまで商人目線で話すモーリにユーリは苦笑する。
「となると帝国も情報が欲しいな……」
ユーリは少し黙って考えるが、モーリが旅商人であることから、ふと思いつく。
「モーリはギルドに入ってるのか」
「ええ、もちろん。王国にもギルドの出張所がありますよ」
「そうか。……ならモーリ、もうひとつ紹介状を書いてくれ。ギルド宛に」
「よろしいですが、ギルドに何の用ですか」
「まあな。モーリは所属証明を持っているか」
「ギルド所属の旅商人ですからね、もちろん持ってます」
そう言うとモーリは首から下げている細いチェーンの先にある金属製のプレートを服の下から取り出して見せる。
「ふむ、今でも通用するようだな。ではモーリ、紹介状をふたつ頼んだ。私はペッターに明日以降の予定を伝えてくる。では明日の日の出にまた来る」
「わかりました、それまでに用意しておきます」
※ ※ ※ ※ ※
ユーリは聖域庭園に戻ると地下住居空間に行き、割り当てられた自室で旅支度をする。
その後、さらに下にある多目的空間の隅にあるペッターの研究室兼居住区に行き、明日以降の予定を伝えた。
「ふん、わかった」
マリオネットをメンテナンスしながら背中越しに
素っ気ない返事をもらって、ユーリは戻ろうとすると、ペッターは思いついたように話しかける。
「エルフ、頼みがあるんだが」
めずらしい事があるんだなと思いながら、ユーリは足を止める。
「オンナがいる」
その言葉を聞いて眉をひそめる。
ドワーフの酒好きと女好きは知っているが、ハーフドワーフのペッターは、出会ってからそんなことを言ったことは無かったし、そういうものに興味がないと思っていた。
「どんなのが好みなんだ。というかココには連れてこれないぞ、アディに頼んでドライアドに相手してもらったらどうだ」
「──なにか勘違いしているようだな。オイラに必要なんじゃない、エルフに必要なんだよ」
「私に? そういったことに興味は無いが」
「そこから離れろ。──オイラが今、神器の解明をしているのは知っているな」
「ああ」
「クッキーの頼みとバカ精霊のためというのが理由だが、エルフのためというのは?」
「……知っている」
「また誤解されると面倒だからちゃんと説明するぞ。いま聖域庭園にいるオンナはバカ精霊とエルフだけだ、バカ精霊はマリオネットだから、生物としてのオンナはエルフだけ。つまり着付けはオイラがエルフにやることになる」
「ああ……、気をつかってくれたのか。すまない」
「気にするな──ユニオンにいたとき、触っただの見られただの騒いで、報酬を踏み倒そうとしたオンナに何度もあったからな」
「そういうときは、どうしていたんだ」
「──ティナという助手を使っていた、今はもういない」
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