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読み切り 王女の帰還

カイアの失態 その3

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「嘘をついていないというなら、もっと詳しく話しなさい。[ワタリ]というのはその生き方上、亜人とも仲良くしなくてはならない、そうでないと旅を続けられませんものね。それなのに獣人を狩った、おかしいじゃない、貴女の本当の生業はなに?」

「……奴隷商人だ」

「……本当のようね。それじゃ奴隷商人のメザワ、獣人を攫ったのは間違いないないのね」

「ああ、俺の特異能力は無数のムチを操る枝分かれする手ワームといって、それを使えば商品を傷つけずに捕まえられるからな」

「獣人が行方不明になったのはお前の仕業か」

激高してメザワを殴ろうとするカイアを、モーリが後ろから羽交い締めしてアンナも手で制する。

「お、俺だけじゃないぞ、顔も名前も知らないが他にも獣人狩りをしている奴らはいる」

「最初から、詳しく、本当の事を話しなさい」

メザワの話によるとこういう事らしい。

 帝国領の西の方で獣人の奴隷が売られている。
その噂が奴隷商人の間でまことしやかに流れていた。メザワは半信半疑で来てみると、噂は本当の事だった。どこからか仕入れているのだろうと探っていたら、見知らぬヤツに声をかけられた。獣人を攫ってこないかと。
 危険な仕事だが、最低限の装備を貸与してやる、獣人同盟の領地に潜伏して狩る、そして定期的に来る荷馬車に乗せればよい、辞めたいときはその時に言えばよいと。
 メザワはその話に乗った。なぜなら自分の特異能力に自信があったからだ。

 人目につかないところに連れていかれ、そこでこの黒衣を渡され着ろと言われた。その後連れて行かれた場所は大きな屋敷で、そこには自分と同じ格好をしたものばかりが数人いた。

 あらためて仕事内容を告げられた後、承諾したものから別室に呼ばれ捕獲道具を渡された。それは握りこぶしくらいの大きさの黒い玉だった。

「何なのそれは」

「持ち主の魔力で使うヘイサクウカンだそうだ。理屈も言葉も分からんが、捕らえた獣人はそこに閉じ込めておいて持っていて、定期便が来たら解呪して渡すというのが流れだ」

「その閉鎖空間のまま渡した方が楽じゃない、なぜわざわざ解呪するの」

「商品の確認とヘイサクウカンは持ち主から離れ過ぎると解呪してしまうんだそうだ」

「解呪した途端、獣人は暴れるでしょう」

「そうじゃない、まず獣人を捕まえる、次に鎖を繋げる、それから閉じ込めるというやり方なんだ。だから解呪しても暴れられない」

 アンナはメザワの言葉を整理する。
 帝国領に謎の組織があり、それは獣人を攫って奴隷として売っている。停戦協定に反する行為だから秘密裏にやっているのだろう。それなら自分たちでやった方がいいのに、流れのメザワみたいのを雇ってやっているのは何故か。おそらく使い棄てにするつもりなのだろう。

「トカゲのしっぽか……」

「アンナ、わたしにはコイツの言うことが信じられません、やはり片づけておきましょう」

黙って聴いていたが、もう怒りの限界に達していたカイアは止められそうにもなかった。

「そうね、今の話が本当だという証拠も無いし、せいぜいその黒衣だろうけど、それだけじゃ信用できないしね」

アンナがメザワから離れようとすると、慌てて言う。

「し、証拠ならある、今しがた捕まえたウサギ獣人の玉を持っている。それが証拠だ」
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