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カーキ=ツバタ王国編

その5

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「今回の大繁殖期グレートブリードの目的は3つあった。1つ目は当然、人族の女が目的だ。そして2つ目は、復讐だ」

「復讐とは」

「前回の大繁殖期で手に入れた人の女だがな、囮にされたのがいるんだよ。我らを恐れた男が、女しか狙わないと知って、村の女を縛りつけて置き去りにし、逃げたそうだ」

「そんなバカな」

カイマとエルザ女王の会話に、ゾフィ隊長が口を挟んだ。

「いくらなんでもそんな非道なんて……」

無いだろうと言いかけたゾフィ隊長が、エルザ女王の表情を見て、言いよどんだ。
オレもまさかと思ったので、ユーリに目で訊ねる。

「そんな話は……、いや、たしか、すでに襲われて命からがら逃げてきたという村の者がいたな。それがそいつらかどうかは分からないが……」

「本当の事だよ。その女達は我らの子を産んだ後、呪いをかけるように言い続けたのさ。人の男なぞ殺してしまえ、あいつらに生きている価値なぞ無いと、そうやって育てられた者がいるのだよ」

「その女達はどうしました」

「もうひとりもいない、100年前の話だからな。寿命だよ」

だけど復讐の禍根は残したわけか。

「そんな真偽の分からない話で復讐などと」

ゾフィ隊長が食い下がるが、無情な言葉をエルザ女王が口にした。

「たしかにあった事のようです」

「女王陛下」

「初代クワハラの残した記録に、そのような記述がありました。城を建設している時に、ひとりの男が懺悔をしに来た。村長と多数の独り者の意見で、村の女を犠牲にして逃げてきた、その事がいつまでも自分を苦しめると」

「そんな」

「良かったなゾフィとやら。真偽とやらがわかって」

「ユーリ、そんなことがあったのか」

「分からない。前にも言ったが、建国に興味が無かったから、私は途中で旅に出ていたから」

となるとカイマ、いやトテップ族はこれからもカーキ=ツバタを狙うということで、男を殺すことも目的となるということか。オレと同じことを考えたのか、皆に緊張がはしった。
しかし、エルザ女王だけは平然として話を続ける。

「ところでカイマ殿。ここから東の村を調べたところ、誰ひとりいないと報告がありましたが、あなた方の仕業ですか」

「ああ、女は連れ去り、男は殺した」

「それならば、あなた方の言う復讐は成就しています」

「どういう……、」

「クワハラは、その村の者達を尋問して、その事が事実と知りました。母や伴侶や娘や姉妹を襲われたのに自分たちは生き延びた。常にそう自らを責めている他の村の男達が、そのような者達を赦すわけがないでしょう。それゆえ、その村の者達は追放、元の村に住むのなら命は取らないが、逃げ出すのなら死罪をという処分をしました」

つまり東の村の人達は卑怯者の子孫で、トテップ族の復讐という行為はもう終わった、大義名分は無くなったと言いたいのか。
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