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カーキ=ツバタ王国編

その4

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「我らトテップ族は、始祖ナイアルラトホテップの子孫と伝えられている。なぜなら我らはどの種族とも交わることができて子孫を作ることができるからだ。
それゆえダークボトムズの連中に脅威にされてな、遥かな昔から地上にもっとも近いところに追いやられていたのだ」

(おおかたの予想は当たったな。しかしナイアルラトホテップだと。たしかクトゥルー神話の神じゃないか、この世界の神々はどうなっているんだ)

(クッキー、いつまでも前世の事にこだわらないでよ。アンタもうこっちに来て200年はいるんだからね)

「ふだんはいいのだが、100年くらいの周期で大繁殖期グレートブリードが起きる。この時の我らトテップ族は生殖本能に支配されてただの動物になりさがってしまい、相手かまわず交配してしまう。それがお前達の言う襲撃なのだ」

「つまり、邪念などではなく生きるための行為だと言いたいのですか」

「普段ならな」

「どういう意味でしょう」

「数百年前に地上の種族と交わった時の子孫が、知性と長寿を得てな。我らトテップ族が変わってきた」

この言葉を聞いたユーリが、いきなり立ち上がり襲いかかろうとしたので、オレは慌ててユーリも抑え込む。

「離せクッキー、こいつが、こいつ等がっ、」

「落ち着けユーリっ、まだ話は終わってない、全部聞いてからでないと取り返しのつかない間違いになるかもしれない、落ち着け!!」

暴れるユーリを抑えるオレ達に、カイマは驚いた様子だったが油断無く身構えていた。

「なんだ、どうしたんだコイツは」

「このコの村が何百年か前に、お前達に襲われて全滅したんだよ、エルフの村を襲った覚えはないか」

「そうか。そういうことがあったかも知れないが、少なくとも我はやってない。我が生まれてからはエルフと交わった話は聞いてないからな」

その言葉を聞いて、ユーリは少しおとなしくなったが、まだ怒りに満ちていた。

「話の腰を折ってすまない。続けてくれ。トテップ族はどう変わってきたんだ」

オレが押さえつけて、ユーリが動けないのを確認して、カイマはふたたび話し始める。

「今までは、本能のままに他種族と交わっていたのだが、知性の重要さを認めるようになった。だから今まで寿命が短く身体がひ弱な人族など無視していたのだが、その小賢しい知性を求めるようになったのだ」

「つまり、今回は本能のままの行動ではなく、計画的に人を襲おうとしたと」

エルザ女王の感情を押し殺した声の確認は、部屋の中の空気を緊張させるのに十分だったが、カイマは平然と答える。

「少し違うな、今回は別の目的だ」
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