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第一章 白邸領と城下町

典翁の噺 四

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 神皇は側近の者に伝えると、なにやら仰々しい物を持ってこさせた。

「これなるは日輪之剣という神具。都に魔が蔓延った大昔、時の神皇が天空神より賜り魔を打ち払ことができた。以来朕の神朝廷の御守としておかれていたもの。これを使えば魔人皇と化した佐武郎も目が覚めよう。義仲よ、これを持って行くがよい」

 義仲は神具日輪之剣を受け取り、神朝廷の庭先に出ると、貴族達がその神力によって大いなる神鳥を呼び寄せる。義仲はそれに乗り、天喰之塔に飛んで来たのでありました。
 そして神具、日輪之剣を受け取った凄乃雷鳴尊は立ち上がりふたたび佐武狼に対峙する。ふたたび相まみえようとしたその時、あいだに義仲が割ってはいるのであります。

「佐武郎、なぜだ。なぜ魔に堕ちた」

「義仲、退くがよい」

「いーや、退かぬ。佐武郎、なぜだ」

「どうしても話せぬ、御主には関わりの無いことだ」

「佐武郎、関わりの無いこととは何事とだ。 昔誓いあったであろう、どこまでも一緒だと。それゆえ天下統一などという偉業を成し遂げたではないか。なぜだ、なぜ魔に堕ちた ……なぜ儂をおいていった……、御主が堕ちるなら儂も一緒に……」

 義仲は凄乃雷鳴尊に背を向け、佐武狼の前に大の字となり立ちはだかり佐武郎に問い詰める。その眼からは涙が溢れ落ちるのでありました。しばらくして佐武狼、義仲の真っ直ぐな眼に応え静かに語るのであった。

「義仲、御主には人のままでいてほしかったからだよ。魔に堕ち神に攻めるのは儂だけでよい」

「いやだ、 儂は、儂は、どこまでも佐武郎と一緒にいたいのだ。儂は……佐武郎、御主に惚れているのだ 」

「義仲……」

 義仲の想いに心が動いたか、佐武郎の姿が少しずつ人に戻っていく。その様子をみた凄乃雷鳴尊が好機とばかりに佐武郎に斬りかかる。
 その気配に佐武郎が気づき、義仲を突き飛ばそうとするが、何が起きているかわからない義仲は佐武郎の手をかわし抱きつく。
 凄乃雷鳴尊は義仲を避けて佐武郎のわき腹に日輪之剣を突き刺した。

「ぐ、ぐあああああぁぁぁぁ……」

 佐武郎の叫び声を聞いて、義仲はやっと何が起きたか気がついた。

「佐武郎、 佐武郎ぉぉぉ」

 わき腹に突き刺さった日輪之剣を義仲は抜こうとするが、まるで身体の一部になったように、がっちり刺さって抜けない。

「日輪之剣は破魔の剣、佐武狼が魔人である限り抜けはせぬ」

 凄乃雷鳴尊の言葉に義仲は泣き叫んだ。儂が、儂が邪魔したせいで佐武郎が死んだのだと。
 悔やむ義仲の眼に佐武郎の太刀が映った。

「佐武郎、儂もいくぞ」

 意を決した義仲は、佐武郎の手にある計都の太刀と羅喉の太刀をもぎ取る。

「義仲どの、何をなさるのです」

「儂も魔に堕ちる、佐武郎と一緒になる」

「ばかな」

 息絶え絶えの佐武郎を背にし、義仲は凄乃雷鳴尊に対峙する。計都の太刀と羅喉の太刀はじわじわと義仲を魔人へと変えていく。が、その時、義仲を突き飛ばし二つの太刀をもぎ取った者がいた。義仲が振り返るとそれは息絶え絶えの佐武狼であった。

「佐武郎、御主……」

「義仲よ……、断じて……断じて御主を魔に堕ちさせぬ……」

「なぜだ、なぜ一緒に来いと言ってくれぬ」

「……儂も惚れておるからに決まっておろう」

 佐武郎の言葉に義仲の心はさらに揺さぶられるのでありました。

「さらばだ義仲、達者でな」

「佐武郎ぉぉぉぉ」

 魔人皇佐武狼は最後の力をふりしぼり凄乃雷鳴尊に斬りかかるが、凄乃雷鳴尊これをかわし、佐武狼に刺さったままの日輪之剣をふたたび握りしめる。そしてそのまま剣を佐武郎の身体に押し込む。が、それゆえ佐武狼は凄乃雷鳴尊を抱き締め掴まえることができたのであります。

「離せ、離さぬか」

「凄乃雷鳴尊よ、御主は道連れになってもらうぞ」

 そう言うと魔人皇佐武狼は最後の魔の力をふりしぼり、凄乃雷鳴尊を抱え天空高く舞い上がり、そのまま彼方へと消え去って行ったのでありました。

「佐武郎ぉ、 佐武郎ぉぉぉ 」

 義仲は虚空に消えた想い人佐武郎に叫び続けましたが、空は何も応えてくれませんでした。
 がっくりとその場に座り込む義仲、するとなにやら地響きが聞こえてくる、なんと天喰之塔が崩れ始めたのです。

 想い人佐武狼を失い悲しみにくれる義仲は動きもせず、そのまま崩れ落ちる塔に呑み込まれるのでした。

 魔人皇となった御角野佐武郎と、ともに天下統一した雁来義仲の物語は、これにて、これにて、一巻の終わりでございますぅぅ。

チョーン

 直公が拍子木で終わりの調子をとり、典皇の話は終るのであった。
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