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変動的不等辺三角形はじまる メグミ編

その2

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 年が明け、正月休みも終わり、一月も終わろうとしていた頃、僕は接待というものをうけていた。

「商社マンというのは不動の心で商談に臨まなくてはならない、だからいろいろと経験しておくのは大事なんだよ」

 そう言ってくれたのは内定していて配属先予定の課長さんだった。
 実際、圧倒された。実家の旅籠もそれなりに歴史はあるが、この料亭の重厚な歴史には圧倒され、そこで出された手の込んだ会席料理に、それを食べながら芸妓さんの数々の芸が披露されるのは、もはや桃源郷とはこういうところではないかと思うほどだった。

「ご馳走さまでした」

 立派な門構えから送り出してもらい、酔い醒ましがてら歩いて移動すると、繁華街の外れにたどり着く。

「さっきの店とはまた違う意味で慣れておく必要があるから、ここに入ろう」

 緑と黄色いボーダーを背景に毒々しい紅色で[モンスターボックス]と描かれた派手なネオンの看板が勢いよく目に飛び込んでくる。いわゆるキャバクラだなと直感した。

 友達と居酒屋からのカラオケルームもしくはスナックに行ったことはあるが、こういう店には入ったことはない。キレイなキャバ嬢が横に座るのかと内心ウキウキしながらあとについていく。

「「「いらっしゃいませ~~~」」」

低音と高音と濁声の三重奏で迎えられ、和服姿で厚化粧、その厚みをものともせず突き破ってくる髭、光の速さで理解して希望が崩れる。

「ママは相変わらず不気味だねぇ」

「たーさんは相変わらず褒め上手ねー」

──心臓も厚化粧していて髭が生えているらしい。

「こちらのカワイイコは?」

「うん、今度ウチに入社する期待の新人だよ。社会勉強させてる」

「まー、たーさんの会社に入れるなんて優秀なのねー。今後ともよろしくー」

「よ、よろしくお願いします……」

 このひと晩で僕はかなり経験値を積んだと思う。RPGならレベルが一桁上がるくらいに。
 そして運命の分かれ道がまもなくやってくる。

 ボックス席に案内され、たーさんこと課長の対面に座り、それぞれの横におっさ……、いやいやオネエサンが着く。
 生まれてはじめてこの手の人に会ったので、ついまじまじと見てしまう。
 隣りに座ったママに低い声で、じろじろ見ない、とたしなめられた。

「今日はあのコいる?」

「今、厨房。お客さんのリクエストで唐揚げ作ってんの。たーさんが来てるって伝えてあるわよ」

 会話から察するに、課長はここの常連らしい。

「たーさん、いらっしゃ~い」

 背後から聞いたことのある声がした。まさかと思いながら振り返ると、そこには我が弟がいた。

 
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