佐野千秋 エクセリオン社のジャンヌダルクと呼ばれた女

護衛対象はキケンな男の娘 短編

カーチェイス策士

　葵さんごはハンドルを握ると、もしくはスピードか出ると、キャラが変わる……。
　ハジメがそう感じたときにはもう遅かった。バックミラー越しに見えた葵の顔つきは、普段の清楚で優雅な顔ではなく、今まで見たことのない好戦的な表情だった。

「二人とも、しっかり掴まってなさいよ。ちょっと揺れるからね」

　葵はブレーキをを踏むと、キャラバンは急減速する。後ろについていたレクサスはぶつかるまいと、こちらも減速をする。
　横にいるタクヤのレクサスは一瞬遅れて減速したが、それより早く葵はレクサスのトランク辺りの横にキャラバンを接触させる。
　尻を振られたレクサスは左に流されるが、そうはならないとばかりに右に切る。

「そこ！！」

スープラとレクサスの間がひらいたところを逃さず、キャラバンを加速させる。
　タクヤのレクサスの前に出ると、今度はスープラの右側を並走する。眼前には明道町ＪＣＴが迫っていた。
　抜きさるには車間が短い、減速するには二台のレクサスがジャマとなったスープラは、あえなく壱ノ宮方面に進むしかなかった。キャラバンはそのまま環状線を右へと進んでいく。

「まずは一台、思ったとおりね」

「葵、なにがどうなったの？」

ハジメの質問に上機嫌で答える。

「さっきぶつけられた時ね、タクヤがドライバーからハンドルをとってぶつけてきたのよ。だからクルマを傷つけて平気なのはタクヤだけとふんだの」

──なるほど、だから後ろのレクサスも前のスープラも避けたのか──

「さて、お仕置きはこれからよ。通話、お父様」

葵がそう言うと、ハンズフリーのスマホがコールする。五回コールしたあと相手が出た。

「もしもし、さんごか。どうしたんだね」

「お仕事中すいませんお父様、少々お伝えすることがありまして」

「……お前が私に連絡するときは、大抵問題事ばかりだろ」

「察しがよくて助かりますわ、さすがお父様ですわね」

「それで、なんだね。問題事は」

「ただいま名古屋高速の環状線をキャラバンで走ってますが、半グレチームのレクサス二台にあおり運転を受けています」

「どうしてそんな事に」

「少年課の小山巡査部長の警護対象は、私の担当する高校の生徒でしたので成り行きで巻き込まれています。中村署と本部で対策本部ができていると思いますので、そちらで確認をおねがいします」

「……わかった」

「ありがとうございます、お父様」

「明日、パーティに呼ばれている。お前はそれにつき合いなさい」

「よろこんで、もちろんですわ」

　通話が切れると、葵はさらに呼び出しをする。

「通話、佐野千秋」