佐野千秋 エクセリオン社のジャンヌダルクと呼ばれた女

藤井ことなり

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護衛対象はキケンな男の娘 短編

衝撃

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 弾き飛ばされぬようハンドルを強く握る反面、傷つく音と振動にどんどん悲鳴のオクターブがあがる。
 葵さんご三十三歳、これほどの高音を出したのは幼い姪っ子に悪戯で、初めて買った日産マーチの新車を傷つけられた以来だろうか。

 レクサスが一旦離れると、またもや着信がある。スピーカーモードでつなぐと同時に、誰よりも早く葵が叫ぶ。

「なんてことすんのよ、キャラバンが傷ついちゃったじゃない」

「傷ついたくらいでギャアギャアいうなよ。なんならエンジェルを渡してくれたら修理代くらいくれてやるぜ」

「レクサスだってただじゃすまないのよ、その美しいフォルムをなんだと思ってるのよ」

「うっせぇな、クルマはクルマだろ。また新車に買い替えるだけだ、そのほうがディーラーも喜ぶだろ」

「大切にしろと言ってるの。トヨタと日産の生産者に謝れ、だいたいその若さでそんなカネ持ってるわけ無いでしょ、いつまでも親の脛を齧るんじゃないわよ」

「うるせぇババァだな。誰が親のスネカジリだよ、ちゃんとオレたちの稼ぎだ」

この言葉を聞いて、ハジメは闇金のことを思い出した。

「──や」

ハジメが口にしかけたが、葵が被せるようにさらに話す。

「ふん、見栄を張るんじゃないわよ。それと夏生くんのことをエンジェルなんて呼ばないでよ、センス無いわね、このコのどこがエンジェルよ」

「エンジェルだよなぁ、ナッキー。ハンドルネーム、[囚われのエンジェル]だもんなぁ」

そう言われて、夏生は驚いたように言う。

「な、なんでそれ知ってるのよ」

「ハンドルネーム[囚われエンジェル]、江分利夏生を殺してください。期限は彼が日本を離れるまで、報酬は三億円です。──な~んてな」

それを聞いて夏生は何かを悟ったような顔になる。

「あのサイト──タクヤの……」

「もういっこ教えてやるぜ、──おい、話してやれよ」

少し間が空いてから別の声が届いてきた、女の子の声だった。

「もしもし、ナッキー? 誰だかわかるー?」

「え? ──カナっち?」

「そう、カナよ」

「な、なんでアンタがタクヤと一緒にいるのよ」

「言わなかったっけ、あたしも鎧武のメンバーなんだよー」

「うそ、うそうそうそ!! じゃあ、昨夜ゴスロリ仲間での送別会を誘ってくれたのも、詐欺だから本当に狙われない殺人サイトを教えてくられたのも──みんなタクヤの……」

「ごめ~ん、ナッキーのこと好きだけど、タクヤとチームのことの方が大事なの。ナッキーもチームに入りなよ、ここまでやってくれるなんて愛されてる証拠よ。一緒に遊ぼうよ」

──すべて仕組まれていたことだと知った夏生は、まるで氷漬けにされたように動けなくなった……。
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