佐野千秋 エクセリオン社のジャンヌダルクと呼ばれた女

護衛対象はキケンな男の娘 短編

闇サイト

　泣きじゃくる夏生の代わりに御器所がハジメに説明する。

「坊ちゃんの悪い遊び仲間に教えてもらい、闇サイトにある殺人請負業に依頼したんだと。依頼料は手付金十万円、あとは成功報酬としてな」

「じゅ、十万円」

　──高校生が払える金額じゃないぞ、あたしの給料いくらだと思ってるんだ──

と、怒鳴りつけそうになる、

「だって、安かったしぃ。十万ぽっちならすぐ出せるしぃ」

「あのねぇ」

せっかく呑み込んだ言葉を言いかけたが、御器所が遮る。

「ＦＸ取引で金銭感覚がマヒしてるんだろうけど、成功報酬の三億円なんて払えるのか」

「三億なんて言ってないモン、そんなことしてないモン」

泣きじゃくる夏生にイライラしてきたハジメは、キレ気味に言う。

「何でもいいからとにかく取り消しなさい、依頼中止しなさい」

「さっきやったけどダメだった、入力を受けつけないのぉ」

「あんたねぇ」

思わず殴りそうになるハジメを御器所は押し止める。

「よせ小山、坊ちゃんの言ってることはほんとうだ。サイバー犯罪対策課にもすでに連絡済みだが同じく受けつけないという回答だった。どうやらサイト運営者が勝手にやってるらしい」

「どういうことです」

「つまり、ただのウソだったのが本人も知らないうちに本当になったということだ」

　その時、御器所のスマホに着信があり、それに出る。
　応答を繰り返したあと通話を切り、また頭を掻きむしった。

「所轄からの報告だ。襲撃した犯人はやはり一般人で背景は無い。まだウラを取ってないが闇金に借金があって返済のためにやらかしたらしい」

「よくやる気になりましたね」

「借りてるところに唆されたのと、あとはまあだいぶ追い詰められていたそうだ。とはいえ多少は冷静だったらしく、ここは巡回対象だろ？　所轄のパトカーが来たタイミングで正面から大声出して飛び込んだと」

　下手すればここの連中に闇から闇に葬られるし、かといってやらなけれだ闇金に追い込まれる。そこでやるだけやったけど失敗して警察に捕まった、という方を選んだということらしい。

「──しかしとなると、考えをあらためなきゃならんな」

「どういうことです」

御器所の言葉にハジメが聞き返す。

「襲撃のニュースを知ってから動画配信者がやってきたと思っていたんだが、その配信のコメントにURLが流れているんなら、もともと騒ぎを大きくするというか坊ちゃんを追い詰めるのが目的でやっているのかもしれん」

　──江分利夏生を本当に亡き者にしたい人物がいる──

　ハジメは自分の血が慄えるのを全身で感じていた。