佐野千秋 エクセリオン社のジャンヌダルクと呼ばれた女

藤井ことなり

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護衛対象はキケンな男の娘 短編

自殺行為

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「小山巡査部長、学校より必要書類を持ってきました」

「……ああ、そうだったな……」

──ずいぶんと不機嫌そうだな──

 そう思ったが顔には出さなかった。
 あがるように言われ、そのまま御器所のあとをついて奥に向かうと、広い庭の中にある離れの部屋が目に入る。どうやらあそこが夏生の部屋らしい。若い衆がピリピリしながら守っていた。

 内心、恐る恐るだったが、こういう手合いには礼儀よりハッタリだ。
 ハジメは余裕のあるふりをして渡り廊下から部屋の中に入る。

 中には私服女裝──髪型はツインテール、ゴスロリ調のワンピースそして薄化粧──の夏生と、世話役の矢島、そして御器所とハジメの四人だけいる。

「矢島、外に声は漏れないだろうな」

「はい、ここは唯一の坊ちゃんの場所です」

 ざっと部屋の中を見回す。
 衣装部屋もしくはウォークインクローゼットのように所狭しとかけられている女物の衣服。そしてドレッサーに壁に取り付けられた等身大の鏡。
 勉強机にはパソコンと分厚い本。どうやら数式に関するものらしい。それとセミダブルベッド。
 夏生くんらしい部屋だなと思った。

御器所たちの会話をよそにハジメは夏生に声をかける。

「夏生くん、何がどうなってるか教えてくれる?」

「………………」

おや? と思う。
 いつもならはしゃいた大型犬のように抱きついてくるのに、どちらかというと抱きつきたいけど叱られたあとだからバツ悪気にウロウロするような小型犬みたいでいる。

──狂言がバレたの気にしているんだな──

ハジメはそう思い、優しく話しかける。

「あのね夏生くん、殺人予告がウソだったのは聞いてるわ。あたしに会いたいからだって。やり過ぎなのは注意するけど……」

話の途中で御器所が怒鳴るよう割って入る。

「小山、説諭する必要ないぞ。そいつに優しくする必要もない」

「え」

驚くハジメに頭を掻きながら御器所は言葉を続ける。

「さっきそいつと矢島に聴いた。ここだけの話だぞ、絶対に漏らすなよ。坊ちゃんの殺人依頼主は本人だ、江分利夏生だよ。ウソじゃなく本当にすればお前にまた会えると思って依頼したんだとよ」

 御器所の言葉に耳を疑ったが、夏生の態度で本当だと直感する。

「本当なの夏生くん」

「…………」

「なんでそんなバカなことをしたのよ。本当に命を狙われてるのよ、今すぐ依頼を取り消しなさい!!」

「だって、だって、本当に殺しにくるとは思わなかったんだもん。ああいうのはほとんど詐欺で依頼料だけ取って何もしないって聞いてたから……」

そこまで言うと夏生は幼子のように泣き出した。
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